第16話 月下、美女の恋調べ
「お風呂はいってきまーす。」
夕食も終わり、先ほどまでの空気など薄れていた。
「あっ、俺も行くー。」
時間も時間であるため、昨日よりもずっと人口密度が高かったが、温泉で登山の疲れを癒すことができた。
ーー先に部屋へ戻ってるか
部屋へ戻り、窓辺の椅子に腰掛ける。
満天の星空が見える。まるで吸い込まれそうなほどに買う気が透き通っている。
まばたきをした瞬間、辺りが暗くなった。
ーーんあ、いつの間にか寝てたんだな
「うわ!ビビった〜」
正面に顔を移すとハナカが外を眺めていた。
俺が目を覚ましたのに気付き、目線をこちらに向ける。
「ワタル君。おはよ〜」
「お、ハナカも寝てていいんだよ?」
「ううん、ちょっとね」
ハナカはもう一度外に視線を戻し、言葉を連ねた。
「ワタル君。私が2次元にきたキッカケ、教えようか」
「う、うん」
「私、ちっちゃい頃から水遊びが大好きでね?よく近くの川に行って遊んでたの。
それである日。いつも通り川で遊んでいると、後ろから誰かに頭を水中に押さえつけられて、おそらくそれで……」
「そんな、ひどいこと……」
2人の間に静寂が走る。
「だからね。私、ワタル君に言われたとうりやってみた。」
どうだった?そう書く前に返答が帰ってきた。
「成功した。成功したけど……。私は変な機械の中に入れられていた。その機械の中から見えたのは私のお父さんだったの。お父さんは言った。
ーーあの時、もっとちゃんと沈めておけばなあ……。ーー
あいつの目は死んでいた」
「だったらやり返そうよ‼︎」
「え⁉︎何を急に……」
「いいか?よく聞け!君のいた場所はどこかわかるか?」
「それは……。わからなかった。」
「そっか、それならお父さんの顔は?」
ホテルの案内用紙の裏紙を使って描いてもらうことにした。
「確か、ここがこうで、こうなってて……」
完成した絵を見て、俺は言葉を失った。
ーーこのボサボサ頭、冴えないが整った顔立ちーー
ハナカの描いた絵はマサヒコさんそのものだった。
頭が真っ白になる。
ーー私がこの研究員になった理由は、5年前に娘のトランスに陥ったためである。そこでずっと寝てるよ。ーー
まさか、その娘ってのが……。
「ワタル君、どうかした?」
ーー私の本名は田辺マユミでした。これからも呼び名はハナカでいいよ。ーー
そうだ。田辺マサヒコ、田辺マユミ
「俺!この旅行が終わったら。本物の君に。田辺マユミに会いに行くから。今、その体を解放するから。待っててくれ。」
全ての点は今、1つの線に繋がった。
「うん!待ってるから!ずっとずっと、待ってるから!」
気づくと2人とも泣いていた。泣いて泣いて泣いた。
窓の外から陽の光が差し込む。
「あ、朝が来ちゃったよ」
「うん。今日も朝が来た」
3日目、俺たちは楽しかったね〜♪とアクシデントなんてそっちのけで思い出話に花を咲かせながら電車で帰った。
家に帰ってソッコーで旅行後の片付けを済ませる。
「コノミ、俺の身に何かあったら近くの病院まで連れて言ってくれ。」
コノミを横に立たせ、俺は浴槽の側に立つ。
「それじゃあ、行ってくるから」
「絶対に帰って来てね。私おにーちゃんがいないと、私、寂しいから……」
「ああ、もちろん帰ってくるさ。かなり早く済むかもだけど。」
ザボン‼︎
勢いよく頭から湯船へとダイブする。
ハッ‼︎
目を覚ますと見覚えのある天井が見える。
病院だ。
「よし!一発ぶちかますか!」
指パキしながらマサヒコさんの元へ向かう。
エレベーターで一階まで降り、前に連れられた医務室の前までたどり着く。
ここだな。
自動ドアが開き、いざ入室。マサヒコさんが優雅にホットコーヒーを飲んでいる姿が目に映る。
「おっ、サカキ君じゃあないか。どうかしたのかい?」
「マサヒコ先生。」
「なんだい?」
「娘さんを殺そうとしたのは貴方ですよね。」
医務室内が騒然とする。
「お、おいおい。急に何を言うかと思えば、変な冗談はやめてくれよ。それともなんだい?頭のネジでも、どっか外れたのかな?」
「冗談じゃないんですよ。これが。なぜなら、貴方の娘さんに実際に聞いたんですから。」
明らかに動揺している。目が泳ぎ、息が荒くなって来ている。もう一押しだ。
「先生、前に言いましたよね?このトランスの世界はMMORPGのようなものだって。」
喋りながら俺は一歩、二歩と着実に田辺マユミの入っているカプセルに近づいた。
「マサヒコ先生。このカプセルを開けて中から田辺マユミさんを出してあげてください。おとなしく指示に従えば、警察に告訴しません。」
マサヒコさんはゆっくりと目を閉じて深呼吸した。
「君もなかなか駆け引きが上手だねぇ……」
机の引き出しからカードキーを取り出す。
カプセルにつけられたスキャナーに通し、
プシュゥ‼︎と気持ちのいい音と同時に頑丈そうな重たいガラスの扉が開く。
「マサヒコ先生。ありがとうございます。」
深々とお辞儀をし、マユミを持ち上げる。
病室までマユミをお姫様抱っこで連れて行く。ベットに寝かせ、ソファに座ってマユミの目覚めを待っていた。
日も落ちかかっていたその時、
バサッ
掛け布団がめくり上げられた。
「ワタル君?」
「ハナカ?」
互いに名前を呼び合い、存在を確認する。
2人は立ち上がり、抱きしめ、泣いた。
また、泣いて泣いて泣いた。その時、真っ赤な日は落ちた。
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