第12話 ゆるふわーるど
「とーちゃくっ」
軽やかに電車から降りるルピ
ここはひとつ隣町の空海町、目的の旅行先に着いたのだ。
「ご主人ー!海っすよ、海!すっげー綺麗っすね!」
駅のホームから見える海に大興奮のルピ
そっか、ルピは海初めてなんだな。
そう考えていると
「後で行ってみませんかー?」
マキのから提案が出た。
「それもいいよねぇ。」
とコノミ
「私も一応水着持って来たけど……。」
ミサ、お前のやる気は十分伝わった。
みんなどうやらテンションは高いらしい。
そんな中、コノミは俺の袖を引っ張ってきた。
「おにーちゃん、どうかした?いつもより元気なさそうだけど……?」
「ん?ああ、まあな。」
言葉を濁すと、コノミは若干声を低めて
「もしかして向こうで何かあったとか?」
図星だ。その言葉は大図星だった。
「ああ、俺の母さんも父さんも海の事故で亡くなった。だから海は嫌いだ。」
そう行って前を見据える。
「着いたよー。ここが私達が止まる旅館だよ。」
全員が息を呑む。
「で、デケェ……。」
海の近くでこんなに大きな旅館に無料で泊まれるときたらぶっ倒れてしまいそうだ。
自動ドアを抜けると1人のひときわ上品な女性が近づいてきた。
「久しぶり、ヨリエおばさん。」
「あら、ほんっと大人になったわね。ハナカちゃん。」
ひと通り立ち話を終えた後、
「お部屋までご案内させていただきます。」
と頭を下げられた。
そのヨリエさんに連れられ、俺たち6人が余裕で入るほどの大きな部屋まで案内された。
ハナカさんは荷物を置くと、
「さて、海に行きますか。」
かなりピッチが早い。その目はキラキラと光らせながら俺以外の4人を見回し、舌舐めずりした。
「イヤッフーゥ!ううぅみだあああぁぁ!」
ルピは我先にと海へ走る。
「待て待て、水着に着替えてしっかり準備体操したからなぁ」
俺が忠告すると、チーターのような速さで戻ってくる。
着替が終わり、ビーチに戻るがメンバーはまだ1人も揃ってないようだ。ミサの携帯に先に行ってるとメールする。
海は嫌いだと行ったものの、やはり綺麗なものだ。透き通る海は空のコントラストに上手く調和している。しばらくその美しさに見とれていると後ろからぬるりとした感覚が腕を伝う。
「へあ⁉︎」
ミサだった。左手は俺の腕を掴み、右手にはサンオイルが握られていた。間抜けな声を発する俺とは目を合わせようとしないまま、
「日焼け、したら痛いでしょ?あんた、こういうの気にしなさそうだから……。」
「あ、ありがとう。」
そう行ってサンオイルに伸ばした手をミサは払った
「いいから黙ってなさい。私が、塗ってあげるから。」
「いや、いいよ。自分で塗れr…」
「いいから黙ってなさい!私が塗るって言ってんの‼︎」
「ハイ!スミマセンデシタ!」
そう言って日陰に移動する。
ハァ…。ハァ…。とミサの呼吸がだんだんと荒くなるのがわかる。
ミサの細い指で細かいところまで塗ってくれる。
ミサの手が止まった。
「あ、終わった?」
「ええ、終わったわ……。」
ミサの顔が真っ赤なのを見て驚いた。
「どうしたミサ!顔真っ赤だぞ⁉︎」
「ああ、大丈夫……。まだ日焼け止めクリーム塗ってないからかも……。」
と、俺にサンオイルを押し付けてくる。これ
はおそらく塗れという意味なのであろう。
「え?俺に、塗れと?」
「そうよ……。早く……塗って?」
上目遣いでいつものミサとは思えないほど甘い声で話す。
俺は言われるがままサンオイルを手に伸ばし、上は顔から背中に塗る。次に太もも、ふくらはぎにかけて塗っていく。
「ねぇ……。前、は?」
ばれたか、意識的に前に塗るのは避けようとしていた自分がいた。
「前は自分で塗れよ‼︎」
「やーだ。塗って?」
甘い声に誘惑され、俺は親指を立てる。
再び手にサンオイルを伸ばし、鎖骨から、谷間にかけて塗る。柔らかい感触を無視して、煩悩を全てノックアウトする。お腹に塗り始めたあたりでミサから
「んんぅ……♡」
と何度も声を出す。股関節にかけて撫でると身体をよじり、幾度かビクンッと大きく揺らした。
ひと通り塗り終わり、2人とも意気消沈する。陰から視線を感じ、振り返るとルピがこっちを見ている。
はああああああううううっ!!!!!!!
またお前かあああぁぁっ
心の中で怒号をあげ、ルピの元へ走る。
「今のこと誰にも言うんじゃねえぞ……?」
「は、はひぃ、分かってます分かってますぅ。
でも、その………。なんか変な気持ちっす。お腹の奥がムズムズって……。そーゆーところがヒクヒクって……。」
よく見るとルピの下のビキニが濡れている。
おいおいおいおいまじか、俺は一切何もしてないぞ。
「あ、おにーちゃーん!」
遠くでコノミが手を振る。コノミと一緒にビーチボールを抱えたマキが
「一緒にビーチバレーやりませんかぁ?」
その誘いに
「おお、今行く。」
と適当に返し、
「いいか?何が何でも今のことは公言しちゃダメだからな‼︎」
「わ、分かってますよぉ……。」
ミサの元へ駆け、
「大丈夫か?」
と聞く。その頃にはとっくに顔の赤みも取れていた。
「ええ……。大丈夫。ありがとう。」
そう言って立ち上がる。
俺は聞き逃さなかった。ミサが俺を横切る時に
「ダイスキ」
と、小声で言ったことを。
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