第5話 青春にひとつまみのスパイスを

はあぁ……

大きな溜息をつきながら教室を出る。

ぎゅうっとワイシャツの袖を掴まれた。


「ちょっと来なさい。」


引っ張っていたのはミサだった。

いつもに比べて少し暗い気がする。何かあったのだろうかと必死に思考を停止する巡らせる。



階段の踊り場


「ちょっとあんた?何考えてんのよ!」


唐突に言われて、なんのことだかさっぱりだった。


「さっきショウマと話してたことよ!」


「ゲ!き、聞いてたんだ……」


「ハナカさんを振り向かせるなんて至難の技よ?悪いけどあんたにはムリ!絶対!」


一言言うごとに距離を詰めてくる。下から目線で指をさしてくる。結構な威圧感だ。


「…グッ。で、でも昨日はハナカさんがうちで手料理ふるまってくれたぞ!」


そう言うと一瞬ミサの身体から力が抜けたように見えた。


「そう、そうなのね。」


ミサは胸の前で手をモジモジさせて


「なら、私だって作りに行けるし…」


「いや結構!お前が料理音痴なのは昔っからかわらねぇだろ?炒め物がなぜかスープになったことも、トンカツ作ったはずなのに肝心の衣付いてないし。てかあの時豚肉じゃなく

て魚使ったよなぁ?」


即答して、その理由を簡潔かつ具体的に説明した。


「具体的に言わなくていいからぁ!とにかく、私にも何かさせてよ!」


「それなら…」




床で寝転ぶルピを見て、


「誰よこの女…」


「こいつはルピ、俺の家に住むことになった天使だ。こいつの世話を頼みたくて。」


「て、テテテテテテンシ?」


「うん。こいつ見た目の割に意外と寂しがり屋でよぉ〜、」


「ないないないないwwwエイプリルフールは結構前に過ぎたじゃない。」


ルピに近づき羽に触り


「どうせこの羽も偽物なんでしょ?」

と、羽に手をかけた瞬間


「ヒャうぅ‼︎」


ルピが飛び上がり、警戒の体勢に入った。


「ご主人、その女、誰スカ?」


数分前にも同じようなセリフを聞いたような

気がしないでもないが…


「まあまあ、あんま警戒すんな。俺の幼馴染の三井ミサだ。」


と言うと、ルピが降りて来てミサの前でお辞儀をし、


「いつもご主人がすみません!ご主人がいることで多大なご迷惑を…」


「おいおいおい!ルピ!お前なんか勘違いしてないか?」


と俺がツッコミを入れるが、隣から


「ほんっとに毎日迷惑してるわ。あんたがいるせいでいっつもドキドキが止まんないじゃない。」


小さな声だったから何かの聞き間違いかと思った。


「ん?ミサ、今お前なんか言ったか?」


「なんでもないぃ‼︎」


そんな会話を続けていると一階から


「おにーちゃん!ミサさん!ごはんできましたよー!」


と、コノミの声がきこえてきた。



食卓


「ルピ、このミサがお前の飼育係だ。」


ミサが横から口を挟み、


「このって何よ!口に気をつけないとあんたの首が吹っ飛ぶわよ!」


うわ、コワ。

それが怖かったのか、ルピは改まって、


「よ、よろしくお願いします!ダンナー!」



翌日


「今日、転入生が2人入るって聞いてた?」


「そうらしいね、2人とも美人だって聞いたぞ!」


「うひょwwwこりゃ獲物が増えるなwww」


教室のいたるところから噂話が聞こえる。



ガラガラガラ


教室の扉が開き、先生が教卓の前に立つ。


「もうすでに知っている人が多いと思うが、転入生がやって来た。そのうち1人がうちのクラスに仲間入りした。入りなさい。」


その声に続けて入って来たのは小柄な金髪のツインテールをした。パット見小中学生だと思うような女の子がはいってきた。


「入江マキです。よろしくお願いします。」


喋り方まで小中学生のようだった。


「えー、マキさんは、先月までアメリカで過ごしていたそうですが。日本語はバッチリなので、みなさん仲良く生活しましょう。マキさんはあの空いている席へどうぞ。」


と、指定された席は俺の隣だった。

なんでよりによって俺の隣なんだよー!もう女の子はこりごりだっつーの‼︎と、心の中で行き場のない怒りをぶつける。


「あのー、あのー…すいません。」

ビクゥッ急にこえをかけられ、驚いてしまった。


「大丈夫ですか?なんか具合悪そうですけど。」


「あ、あぁ。大丈夫ですよ。はい!」


先月までアメリカにいたと言うのが嘘のように日本語が上手だ。


「よかったー!それなら安心です!」


きらびやかに光る笑顔は、美しさそのものだった。



廊下


「ちょっと〜!なんでルピが学校に来てるわけ⁉︎」


ミサに止められ、質問される。


「は?ルピが学校に?」


「そうよ!転入生だってはいって来たわ!」



急いでミサの教室に向かう。


窓辺の席に群がる生徒たちを見つけた。


「かわいいね!」


「この羽何?スゴイ!」


と言う言葉が雨のように降り注がれて、ルピはただニコニコしている。

やっとの思いでルピの目の前につき、


「おいルピ!お前なんで学校に来でんだよ⁉︎」


と言う質問をすると群がっていた生徒たちの視線は一斉に俺に集まった。

ヤバい。この時点でご主人とか言われたらイロイロ終わる。社会的な意味で終わる。


「ちょっ、ルピ、来…」


「それはご主人がいなくて寂しかったからですよ!ウサギだったら死んでますよ。」


と、饒舌に語るルピ。


「え?なに?どう言う関係?」

「聞いた?ご主人だってwwwワタルってそうゆう趣味なの?」

「ワタルの趣味に付き合わされてるルピちゃんかわいそう…救ってあげたい…」


幾度にも重なって、哀れみの視線と声が聞こえる。


「だああぁぁぁぁ!俺はそーゆー趣味じゃねえぇぇ‼︎」










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