第2話 俺の居場所ここにあり

『落ち着け、落ち着くんだ俺‼︎』


必死に自分に言い聞かせるものの、体はいつだって正直だ。


「どうした?ワタルお前汗すごいぞ?顔色も悪いし。」


向かいの席の和賀ショウマが心配そうに顔を覗き込んできた。


『そうだ俺は大好きなラブコメの主人公高橋ワタルになって、でも俺は佐藤榊で頭打って

おかしくなって』


情報の処理が追いつかない。

思考を遮るように響く。それからほとんど差がないうちに教室の戸が勢いよく開く音が聞こえた。ふとそちらを向くと1人の美少女がいた。その美少女は真剣な顔で近づき、息がかかるほどの距離にまで顔を近付けてきたと思うとおもむろに腕を引き、俺を教室から連れ出した。この美少女が俺の読んでいるラブコメ【君のままで。】の第1ヒロイン 三井ミサだ。主人公、高橋ワタルの幼馴染でいてツンデレという特殊スキルまで持っている正ヒロインといってもいいような女だ。


『このシーンも覚えているぞ。』


などと思考を巡らせていると目的地であったであろう食堂についた。


『ここでの受け答えは先週の月刊誌で予習済みだ。』


自然と余裕の笑みがこぼれそうになる。

俺は今、ハーレム王子 高橋ワタル なんだそうあ言い聞かせ、あくまで自然体で


「2人で食事なんて久々だな、どうして急に呼び出したんだ?」


ここでの返答は大体覚えているゼwww


「友達のリツが今日休んだからよ。」


いつも通り無愛想な口ぶりで会話を続ける。


「それに、寂しかったし・・・・・・」


『デタよ可愛いデレの部分』


「まぁ、あんたじゃなくても良かったんだけどね。」


グサァっ。あえて言葉で表すとしたらこれぐらいがちょうどいいだろう。


「で?あんなは何食べるか決まったの?」


と聞かれた時、入口の方から小走りでやってくる小柄な女の娘が見えた。ワタルの妹 高橋コノミだ。 コノミは俺の前に来るなり、


「おにーちゃん・・・・・・はい、おベントー・・・・・・」


高く細いわりに、暗いトーンの声がして、差し出されたものは高橋ワタルが愛用している弁当箱だ。


「ああ、ありがとう。」


と頭を軽く撫でると顔を赤らめてどこかへいってしまった。

その後の食事は何事もなく終わり、教室に戻る頃には、俺が望んでいる世界に来れたと半ば嬉しさもあった。教室に戻ると可憐な女子が


「もう!お昼一緒に食べようっていったじゃ

ない‼︎」


その女子は成績優秀、容姿端麗、品行方正の三拍子揃った生徒会長の畠山ハナカだ。


「ごめんごめん、ミサに急に連れてかれてさあ。」


「う、うん。そうだったんだ。 それなら仕方ないよね‼︎」


ここも原作通りの解答が返ってくる。


「じゃ、明日は絶対だよ‼︎」


と念を押されたが


「明日は土曜日だよ、、、」


とアドリブを入れてみた。


「家に作りに行かせてもらいます」


『んん?なにを言っているんだい?この娘は。』


「待っててくださいねっ!」



放課後



「一緒に帰ろうぜ!ワタル!」


「ああ、ごめんごめん今日も妹いるから。」


原作では俺と2人きりの時はコノミはまるで人が変わったように俺にデレるのである。そのため、いつも妹と帰る時、ワタルは他の人の誘いを断っていたのだ。


「そっかそっか。お前も妹思いのいい兄さんだな。」


それにしてもワタルと呼ばれることに抵抗がなくなりつつある自分の適応能力の高さには圧倒されていたのだ。

妹の待っている教室に行かなくてはとショウマに別れを告げ、階段を下る。その途中、


「きゃっ‼︎」


短い悲鳴が聞こえ、振り返ると、ちょうど腕の中に妹と同じ学級の女子が収まった。


「大丈夫?ケガはない?」


と聞くと


「だっダダダダダッダイジョブデス。」


とても緊張しながらカタコト言葉でギリギリ会話をつないでいるようだった。


「気をつけるんだよ?」


と最強の笑顔で言うと


「ありがたい。ありがたいですううぅ」


と言って去ってしまった。

今は妹が優先だなと考え、急ぎ足で妹のいる1年C組へ向かった。



家路



「ウフフ、おにーちゃんと帰れるんだ。今日も。うふふふふ」


どれだけ嬉しいのか、ずっとニヤニヤしている妹を見るとこっちまで笑えてくる。


『確か高橋家の家はこっちだよな。』


「おにーちゃんどこ行こうとしてるの?お家こっちだよ?」


『ぎくぅっ‼︎ここでバレてはまずいな。何かいい訳はないかぁ、、、』


「ちょっとスーパーで買い物してかない?明日はハナカが家に来て手料理ふるまってくれるみたいだから。」


よし!これはカンペキないい訳だ‼︎


「え⁉︎明日ハナカさんくるの?やった〜‼︎」





「ただいまー」


ただいまーと言ってもおかえりとは帰って来ないのは現実でもそうだから慣れている。


「すぐにご飯作っちゃうからー」


そういえば高橋家は妹が料理するんだっけか

手際のいい料理を見ながらふと思う。


『そういえばもうとっくに原作なストック超えてるな。それじゃあここからは全部アドリブで切り抜けるしかないわけか……』


そう考えつつ、携帯をイジる。パスワードは指紋認証で行えたため、スムーズに携帯情報を把握することができた。


「できたよー。コノミちゃん特製のオムライスでーす。」


「いただきまーす。」


いつもコノミの料理は白黒でしか見たことがないためカラーで見るとより美味しそうだ。

速攻で食べ終わり、たわいもない話に花を咲かせていた。勉強もあるためと、話を切り上げそれぞれの部屋へ帰った。

男子の部屋に入ってます最初に探索するのがベッドの下だ。目的はエロ本である部屋中隈なく探してもないところから、どうやら見当違いだったらしい。

机に向かい、ノートを開く。シャープペンシルを持ったところで

ガタン‼︎‼︎‼︎

と、クローゼットからおおきな音がなった。

ビックリして心臓が口から飛び出しそうになるのをこらえつつ恐る恐る近づき、開けて見る。

ガタガタガタ‼︎‼︎

クローゼットの中からは真っ白な翼の付いた1人の少女が、


「て、天使⁉︎」


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