おめでたい席6
「俺は優しいから一、一から説明してやるよ」
リバーブの、レットの真似はかなり似ていた。
「最初に始めたのが情報収集、あいつらの輪に入って間抜け演じて話聞いて、それでアイディアまとまりかけたタイミングにこの間抜けが、恋人さんが登場だ」
「あ、レットか!」
ブラーわかってなかった。
「こいつをぶっちめた後、外に連れ出して、あーっと宗教屋さんの管理する墓場まで行ったんだ。あいつは埋葬品を盗んでるからなーだって」
「何でわかるんですかそんなこと」
「僕もそう訊いたよ」
「だったわね。えっと、そんなの、指輪を見れば一発じゃねーか。右の薬指のやつ、あれはソードマンズリングだろって。いい加減面倒だから普通に話ていい?」
「それは、うん。僕はいいよ」
「今出てきたソードマンズリングって、何ですか?」
「あ、トルートは僕らと違って剣使わないから知らないか。えっと、剣って持ち方がいくつかあってさ。鍔に人差し指を引っ掻ける持ち方もあるんだ。そうすると振ってもスポ抜けなくなる。けど指が危ないから、守るためにする指輪がソードマンズリングなんだよ」
「宗教屋さんはお世辞にも運動してる体じゃない。それに指輪をしてるのは人差し指でもない。そんな人がどこでこの指輪を手に入れるか、死人から掻っ払うしかない。なら、墓を暴いて女の死体を手に入れても問題ないってね」
「はい?」
あたしの間抜けな声に、リバーブは頷いた。
「窃盗と墓暴き、どっちの被害者になっても死人には同じこと、なら表沙汰にしてやるだけ良心的だ、なんて抜かしてね。もちろん後で身元がわかって大事件になったのよ。レットにも言ったけど、死体泥棒は重罪だし、モラルに反する。でもあいつは、捕まんないからへーきへーきってね」
「実際まだ捕まってないしね」
「ブラーがそんなこと言うから、あいつは調子乗るのよ。それで、その死体をお祝いの品のタンスに隠してあの部屋に運び入れたんだって」
「出るののチェックはあっても入るののチェックは無かったもんね」
「それとブライダルメイツの服、最後に手順の手紙を渡して、あとは花嫁さんがやった、やらせたの。ウェディングドレス着せて化粧で顔隠して、吊らせる腕力があったのは想定外だったみたいね」
「テコの原理だって」
「知らないわよ。それでブライダルメイツの黒い服着て、念のために臭い消しで香水割って、後は突入を待つだけ」
「突入した人が中に入って、最初に目にするのは首吊り姿、それに視線が集まってる隙に、一緒に入ってきたブライダルメイツに紛れて脱出とか。よく考えたよね」
「ブラー、推理小説のパクリよ」
「あーなるほど」
「でも彼女らに根回しはしてたみたいね。ただ人形と嘘ついてたみいだけど」
「それで、逃げられて、ハッピーエンド、ですか」
「まぁ、そうね」
リバーブは今夜、何度目かのため息をついた。
「あいつは、私に殴られたり首絞められたりしたことを気にもしてなかったわ。ただあの笑いで楽しい職場だ気に入ったってね。それで、クビにできずにズルズルと、現在に至るわけよ」
そこまで言って、リバーブは改めてといった感じで、あたしを覗きこんだ。
「それでトルート、長々と最初の仕事の話をしてきたけど、この話の教訓は何か、わかるかしら?」
「教訓、あるんですか?」
「あるわよ。少なくとも私にはね」
そう言ってリバーブは、恥じるみたいに視線を外した。
「話を聞いてるときの、あなたの反応は、私とだいたい一緒だった。レットを嫌に思ってて、仕事も最低で、何とかしなきゃと思うだけで何もできなくて、挙げ句首吊りを見て腰抜かして……でもあなたなら真っ先に動いて助けようとしてたわね」
「そんな」
「そうよ。少し考えなしだけど、ショックで固まってるより何倍もいい。それはこの仕事をこなしてて嫌と言うほど思い知らされた。それにレットにも、打ちのめされた」
リバーブは小さく笑う。
「もちろんレットは最低よ? それは間違いない。今の話だって、犯罪を犯してるしモラルも乱れてる。だけど、だったらやらなかった方が良かったかとも思えない。少なくとも、私だけなら、あそこでぶら下がってたのは本当の花嫁さんだったかもしれない。つまりは、綺麗事だけじゃあ人は救えないのよ。だからレットを雇い続けてるの。トラブルに対してあいつが出すイカれた答えを否定するんじゃなくて、上回る答えを出せるまでね」
「難しいんだよ。レットは優秀だもん。あの後だってすぐに駆け落ちするカップルの仕事を取ってきてたし、それにあれの後日談だって……あ」
ブラーは声をあげてリバーブを見て、何かを伝えようと手をばたつかせる。
それに、リバーブは伝わった顔をした。
「二、三日してね」
ブラーの声は若干上ずっていた。
「レットが新聞を持ってきたんだ。あいつら乗ってるぞってね。宗教屋さんは事件初日から墓荒らしがばれて祟りだなんだと書かれてたけど、その関連情報として、あの父親と花婿に脱税の疑いがって」
「まさかそれって」
「うんトルート。僕もレットがリークしたんだと、今だから思うんだ。友だち実在したしね。その時は俺がやったんだって言葉、聞き流してたけど」
「それは、凄いですね」
……まさかあたしがレットに感嘆の声を出すとは思わなかった。
それで、溢れる考えをまとめようと瞼を閉じた。
あたしだったら、花嫁さんをどうやって助けただろう?
▼
…………揺らされて、名前を呼ばれて目を覚ます。
ここは、食堂だ。
確か、最初の事後との話を聞いて、それからも色々話してて、一瞬寝てたみたいだ。明日は休みだとはいえ、いい加減寝た方がいい。そう思って窓の外をみたら、空がもう白んでいた。
「トルート」
リバーブに名前を呼ばれて見れば、リバーブはまだ席にいた。ブラーもいる。だけど、声も顔も、厳しいものだった。
「トルート、落ち着いて聞いて欲しいの」
そのシリアスなトーンに目が冴える。
「今日、書類を提出しないとまずいって話は、したよね?」
「はいリバーブ。あたしがこのギルドに入るのに必要なやつですよね?」
「そうよ。それ、持ってないよね?」
リバーブの問に、何が起きてるのかあらかたわかってしまった。
「……見たことも触れたこともありません」
そう答えた。
「どこにも無いんだ」
ブラーが答える。
「それにレットも、行方不明なんだ」
それに、あたしは思わず天井をあおいだ。
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