ダンジョン未満4
警察に届けたくないとレットが駄々をこねて、そうこうしてる間に真ドランゲアさんが目覚めて暴れて宥めて、なんとか誤解を解いて、結局警察に届けて、事情聴取を受けて、当然日は暮れ夜も深くなっていた。
遅い時間、まだやってたのは食堂『カオス・ポット』だけだった。
ここにはメニューはなくて、注文も人数だけ、出てくるのはその時期で一番安く、栄養の高い材料の鍋が出てくるのだそうだ。
それで出てきたのは豚骨の白濁スープに豚バラ、棒ネギ、ナンカノキノコ、もやし、それに細麺だった。
味はこってりしてるけど悪くなく、リバーブ曰く当たりの鍋らしかった。
それで、疲労と空腹からみんな無言で食べ進め、一段落してから、リバーブが話始めた。
「言い訳になるけど、なんか怪しいとは思ったのよ。名前がドランゲア、つまりアサガオって意味でしょ? 名前に草木を使うのはエルフ系に多いから、それで怪しむべきだったのよ」
「本場ダークエルフのリバーブでそれなら、僕たちはわかりっこないよね」
「そうねレット、私のミスね。反省してるわよ。それとついでに一応、伝えておくけど、今回の報酬は通常通り支払われるわ」
「そうなんですか」
「そうなのよレット。そもそも今回の依頼をしてきたのがあのギルド、レインボー・ネイルからの正式なものなのよ。あの偽者も、ギルド発行の身分証明書で来てたからわからなかった、クランも君たちも同じ被害者だ、だからお金を払うから静かにしましょ、なんでしょうね」
「待ってください。じゃあ犯人はギルドの人なんですか?」
「でしょうね。まだ犯人は捕まってないけど、予算とかスケジュール管理とか身分証明書とか、証拠はあるから時間の問題でしょうね。それとレット、その話し方いい加減止めなさい。気色悪い」
「それであの、あの偽者はどうなったんですか?」
「だからレット!」
「落ち着いてリバーブ、レットも嫌がることしちゃだめだよ」
ブラーに宥められて、レットは肩をすくめて黙り、リバーブはよそったスープを飲み干してから話を続けた。
「……捕まってないわよ。手懸かりのスケルトンが残ってるから、調べれば何者かわかるでしょうけど、場所がまだ軍の所有地だからね。縄張り争いで警察に権限がないとかで揉めてて、まだ穴の中から出してもないそうよ」
「あの穴、なんだったんですか?」
「それは、私にも知らされてないわトルート。それに知らなくて良かったとも言われてる。つまり、深入りするなと、警告ね」
「ま、あーゆー暗殺者は逃がすのが正解だ。覚えておけ新入り」
「暗殺者を捕らえるのが仕事じゃない、ですかレット?」
「ちげーよ。雑魚を猟つくしたら厄介なのばっか残るだろ? 雑魚を逃がせば雑魚が減らずに次も同じ雑魚と当たる確率が高くなる。即ち仕事が楽になる。自然の摂理ってやつだよ」
そう言ってレットは席を立った。
「え、帰るの?」
「帰るさブラー、代金はどーせ経費で落とすんだろ? 食うだけ食ったし、今は眠い。真っ直ぐ帰って寝る。それに、キノコは苦手だ」
言い残してレットは行ってしまった。
残した取り皿には、確かにキノコが残されていた。
そうか、レット、キノコ、苦手か。
……これは、良いことを聞いた。
「嘘よ」
「嘘だね」
リバーブとブラー、ほぼ同時に嘘と決めつけた。
「嘘、なんですか?」
言いながらもあたしもなんとなく、嘘だと思えてきた。あのレットが、苦手な、弱点なんかを正直に話すとは思えなかった。
「まぁ、あのレットですから……」
ね、と繋げる前に見つけてしまった。
机の角、リバーブの見える位置に、小指の爪ぐらいの、小さな蜘蛛がいた。
大変だ!
なんとかしなきゃ、でもどうしょう、と悩んでる間に、あたしの視線をたどって、リバーブが蜘蛛を見つけてしまった。
どうしよう、と頭を真っ白にしながら、あたしはリバーブのアレを身構えた。
……だけど、リバーブは別段騒ぐことなく蜘蛛を指で弾いて下に落とした。
「凄いやリバーブ! 苦手を克服できたんだね!」
「まってブラー、あなた私が本気で蜘蛛が嫌いだと思ってたわけ?」
「それは、ねぇ?」
あたしに同意を求めるブラーに頷いて返す。
「昼間のアレを見たら、そう思いますよ」
「確かに、アレは、やりすぎだったわね」
リバーブは恥ずかしそうに鼻を掻く。
「でもアレぐらいしないとレットが信じないでしょ? 確かに蜘蛛は好きじゃないけど、騒ぐ程でもない。それを苦手とレットに思わせておけば、本当にやばい時にも対処できる、でしょ? あいつがキノコを嫌いだと嘘つくのと一緒よ」
「え? レットがキノコ嫌いなの嘘なの?」
「ブラー、あなたも嘘だと言ってたじゃない」
「僕のは真っ直ぐ帰る、のことだよ」
「寄り道、ですか?」
「うーーん、少し違うよトルート、正確には戻る、かな?」
ブラーに言われて察してしまった。
「……まさか、穴の中を確認しに、ですか?」
あたしの問にブラーは頷いた。
「まってブラー、あそこにはスケルトンが残ってるし、それを見張る軍もいるはずよ。そこに行くなんて」
「でもリバーブ、レットだよ?」
一言に、場が凍りついた。
レットなら、やりかねない。
「……急いで食べて出ましょう。ギルドに戻っていなかったらホレイショ飛ばして捕まえる」
リバーブの提案にあたしとブラーは頷いて鍋の残りを掻き込んだ。
ブホッ!
……鼻に入った。
咳き込んで噎せて手で押さえて、落ち着いたから放して見たら、そこにキノコの切れ端が張り付いていた。
少し考えてから、それを口に戻して飲み込んで、あたしは掻き込むのに戻った。
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