同好会蠢く3
大剣をかざす女騎士は様になってた。
鎧は重いのか、その足音にはガチャリと重みがある。
その足音に気がついたマッチョが彼女を見るなり悲鳴をあげる。
そして悲鳴は連鎖し、パニックとなったマッチョたちは、それでも個々に触手を守ろうと、手近な水瓶を軽々と持って逃げだした。
それでも水瓶は多い。運びきれない。
そうして取り残された水瓶へ、女騎士は止まらず歩いていく。
その背中にレットは走っていた。
「こっちだボイン騎士!」
レットの声に女騎士は返事せず、代わりに振り向き様に大剣を横に振るった。
それにたまらずレットは止まり、足を折り曲げ後ろへのけ反ってかわした。
だけど女騎士の攻撃は続き、刃を返して振り上げ降り下ろす。
この一撃を無茶な動きで左へ転がって避けるレット、直後に刃が床を叩いく。
女騎士の刃は止まらず、床を引っ掻きながらレットを追う。
それから更に転がり逃げるレット、防戦一方だ。
じゃなくて、あたしも参加しなきゃ。
思い、駆け出す。
けど、相手は刺だらけだった。迂闊に素手でかかればこちらがダメージを受ける。
ならばと考えて、胸から冊子を取り出し投げつけた。
同時に、女騎士はあたしに気付いて向かって大剣を振るった。
大剣と冊子が交差する。
切っ先が投げたあたしの指先をかすめて血を掻き出す。
それを越えて投げられた冊子は真っ直ぐ飛んで女騎士の顔に当たった。
軽い音、ダメージのない音、だけど冊子は落ちなかった。
どうやら顔の刺に刺さったらしい。しかもいい感じで、視界を封じる形になった。
それを剥がそうと女騎士は指を這わせるけど、他の刺に邪魔されて剥がせないでいる。
「チキショウ!」
怒鳴って女騎士は兜を掴むと頭から引き剥がした。
現れた素顔は整った顔立ちをしていた。間違いなく美人だ。ただ、つり上がった目付きは性格のきつさを連想させる。そしてその表情は、憎しみに染まっていた。
そしてあたしを睨み、同時に引き剥がしたばかりの兜を投げつけてきた。
想定外の攻撃、咄嗟に腕をクロスに交差して防御する。
軽い衝撃に鋭い痛み、見れば兜の刺が防御してた両腕にブスリと突き刺さっていた。
血が流れてすごく痛い。しkも変な形で刺さって剥がせない。
あたふたしてる間に間合いを潰されていた。
駆け寄る勢いを乗せた大剣が真っ直ぐ降り下ろされる。
回避は無理、ダメもとで刺さった兜をかざして受けた。
ガギンと火花、刺が欠けて飛び散り、兜がなお深く刺が刺さってあたしは弾かれ、無様に受け身も取れずに背中から倒れた。
そこへ更に女騎士は追撃、大剣を両手で持って振り上げた。
「あたいの邪魔をするな!」
怒鳴られたあたしはより深く刺さった兜を掲げて防御するしかなかった。
大剣が天井を掠めて真っ直ぐ降り下ろされる。風を斬る斬撃、しかしそれは突風と共に軌道を外されて床を叩いた。
軌道を外したのは、レットの蹴りだった。
「ハンドレスマジック・チャンプブロック」
自慢げに言いながらレットは大剣を蹴り飛ばした足を下ろす。
その足には鎧が無いのに怪我も無かった。
それに女騎士は怯まず大剣を引いて突きの構えをとる。
それが放たれるより先にレットが動いていた。そして開いた手を女騎士の顔面に向けた。
「ハンドレスマジック・パーミッション!」
叫ぶや否や爆風、女騎士は長い金髪を巻き上げられ胸を揺らし、唇がめくれて歯茎が曝された。
それに女騎士は耐えきれず構えを崩して顔を逸らした。
その隙をレットは逃さなかった。一気に踏み込んでその顔に更に掌打を放つ。
女騎士は咄嗟に腕で顔を庇う。
その腕に、刺にレットが触れる前にまた風が爆ぜた。その威力は前の比でなく、暴力的な風力は女騎士を正に力任せに押し倒した。
押し倒された女騎士は、ゴロンと尻餅から転がって背中まで、ベッタリと倒れて手から大剣を滑り落とした。
それを取り戻そうと女騎士は手を伸ばす、が、もがくだけで全然届かなかった。
それどこか腕は不自然に折り畳まれて、足はばたつかせても腰や背中は浮かび上がらなかった。
……女騎士は、その全身の刺が床に刺さって身動きが取れなくなっていた。
「何だよふんじばる楽しみはなしか」
いつの間にか刺だらけの大剣を回収したレットが女騎士を見下ろす。そして大剣の切っ先を喉元に突きつけて、そこからなぞるように胸元へと持っていく。
それを睨み付ける女騎士、しかしその目には涙が滲み出ていた。
それが大きくなって、こぼれ落ちた途端、女騎士は声をあげて泣き出した。
「おいちょっと待てよ」
レットの言葉に待たず、女騎士は顔を真っ赤にして、涙をボロボロ流して、あらんかぎりの声をあげながら、まるで子供みたいに泣き出した。
その姿に、流石のレットも大剣を引いた。
「好きにしたらいいじゃない!」
女騎士が叫ぶ。
「あとは何! くっころせとでも言えば満足なんでしょ! それで好き放題やって! あんたらみんなそうなんだ!」
叫びながら唯一自由な首を前後に動かして、女騎士は床に後頭部を何度も何度も叩きつけ始めた。
「何そんなにあたしは餓えてるように見えるわけ? 男なら誰でもって? 冗談じゃないわ! あたいにだって好みのタイブがあるの! 見てくれとかいいから優しくて胸とか体とかでないわたしを見てくれる人がいいの! だからお断りしたの! そしたら何で触手好きになるのよ!」
更に強く頭を打ち付ける。
「いくら言っても誰も話を聞かない信じてくれない! だから証しに斬り込みに来たら返り討ちとかよかったわねあんたらの大好きなシチュエーションね! こういうのが大好物なのよね! 男はみんなそうなのよね!」
そう言って更に泣き出した。
「……彼女、何なの?」
「知るかよ」
いつの間にか来てたリバーブにレットはぶっきらぼうに答える。
「そもそもこーいう面倒臭い女はブラーの担当だ。あいつまだ外かよ」
「通気孔見てるんでしょ? ならこの騒ぎを聞いてすぐ来るわよ」
「それまで、どうすんだよコンニャロメーよー」
「まぁ、身動きとれてないみたいだし、このまま警察呼ぶしかないでしょうね」
言われる女騎士はまだ泣いていた。声のトーンは落ち着いたけど泣き止む兆しはない。
「男なんて。男なんて。男なんて」
呟くその姿は、痛い目に合わされたとは言え、なんだか可愛そうに見えた。
そんな彼女の涙を、そっと優しく触手が、拭った。
……それは、太さ長さはあたしの腕ぐらいで、色合いはピンク色でてかってて、まるで舌の裏側を見てるような、触手だった。
「ヒィ」
思わずあたしは変な声を出してた。
出しながら、その触手を目でたどって見上げると、天井一面に触手が張り付いていた。その一本一本が脈動していて、まるで血管みたいだ。
ピンクちゃん、だと直感した。
そこから伸びた一本が、女騎士の涙を拭っていた。
その動きは、まるで優しく慰めてるみたいだった。
「……何で、優しくしてくれるの?」
女騎士の声は和らいでいた。
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