愛は繋がり5
「はいじゃ帰るわよ」
出てきたリバーブもバヨットさんも、表情に疲れが見えた。受験は経験ないけど、テストは知ってる。疲れるし、緊張するし、大変だっただろう。
それで帰る。
帰りも同じフォーメーションだった。
それでまぁ、昼間ということもあってか、あんなスキンヘッドがそう出るものでもなく、何事もなく普通にあの赤い屋根の家まで帰れた。
これであとは、書類にバヨットさんのサインを貰えば依頼完了、となる筈だ。
「依頼は家に着くまで。なので、ここでサインを」
そう言ってリバーブは書類とペンを取り出した。
バヨットさんが頷いて、ペンを取ろうと手を伸ばす。
それを、リバーブは引っ込めた。
なんだろう、儀式かな?
「……すみませんバヨットさん。ですが、その前にちょっと確認します」
そう言ってリバーブはレットを見る。
見られてるレットは頭を左右に揺らしてた。
「何やってんだよ。早く終わらせて飯にしよーぜー」
その一言に、リバーブはレットに詰め寄る。
「……何だよ」
「なんかレット、あんたさっきから静かよね」
「そりゃーー疲れてんだ。さっさと終わらせて帰りたいんだよ」
「……レット。私たち護衛ギルドは信頼が命よ」
「だからなんだよ」
「だから、依頼が終わったからって、そのまま依頼人を危険な場所に置いてけないってのは、流石にあなたでもわかってるわよね?」
「あーもろちん、わかってるよ」
「ほんとに?」
リバーブに詰め寄られ、顔を突きつけられ、それで睨み合って、レットは目を反らした。
「レット!」
「わーったよ。あれだあれ」
そう言ってレットが指差したのは、鉢植えだった。
「あれがなに」
「最初と違ってる。順番も違うし花びらも散ってる。それに散らかった土も残ってて、完全には回収しきれてないしな。ここまで綺麗に世話しておいてこれはないだろー」
そう言われても、最初がどうだったかなんて覚えてない。だからレットの言葉が本当かも判断できなかった。
……ただ信用はできない。
「それって、口から適当に言ってるんじゃ?」
あたしの言葉に、レットは心底驚いた表情をつくって見せた。
「よくわかったな新入り、今のは全部作り話だ。実はお前らの記憶力を試したくてな。だが合格だ。なんも心配いらなかった。安泰だ。サイン貰って帰ろう」
わざとらしいレットをみんな無視する。
「ブラー、朝のあいつはストーカーじゃなかったんでしょ?」
リバーブはブラーを見る。
「あーーーうん。彼は、ナデポって名前らしいけど、ただの通り魔だったらしいよ。激突恋愛方とか語ってたけど。だから過去のアリバイとかまでは知らないけど、あの感じだとバヨットさんの名前も知らなかったんじゃないんじゃないかな」
ブラーに言われて、リバーブは考えて、そして改めてバヨットさんの前に立った。
「確認ですがバヨットさん、私たちはこの家に誰もいないとうかがってるのですが?」
バヨットさんが頷く。
「ならその、念の為に、家を確認しても宜しいでしょうか?」
「やだ」
「黙れレット」
バヨットさんは、少し戸惑いながらも頷いて、鍵を取り出してリバーブに手渡した。
「ありがとうございます。パパっと確認して来ちゃいますんで」
「早くしてよねー」
「うるさいレット、あんたが開けんのよ」
「は?」
「当然でしょ? 待ち伏せに罠に、諸々危ないじゃないの」
「だったら開けなきゃいーだろサイン貰って帰ろーよーおー! 」
ガチャリとドアが開いた。
「「ブラー!」」
「ごめん、開いてた」
レットとリバーブが口論してる隙に、いつの間にかブラーがドアを開けていた。
「ごめん、でもほら」
そう言ってブラーが体を退かして、ドアの向こうをあたしたちに見せた。
そこには普通の玄関が見えた。
開けた空間の端には茶色い下駄箱、傘立てには傘が三本、奥への廊下が天井に吊るされた小さなランタンにまとめて照らされている。
「やっぱ平和だ。サインを貰って帰ろう」
「「レット」」
リバーブにブラー、二人は同時にレットを睨んだ。
「何だよ、何が問題なんだよ」
言い返すレット、悔しいけど同じ感想だった。
「ランタン、つけっぱなし」
「あ」
ブラーの指摘に思わず声を出してしまった。
確かに、ランタンはガラスの中とはいえ火が灯ってる。これは危ない。倒れて火事になるし、そもそも油がもったいない。留守にするなら消さないといけない。消し忘れた、とも考えられるけど、そもそも明るい朝からは普通点けないから、確かに不自然だった。
「そんなに言うなら、もー警察呼んじゃえよ」
レットの発言にリバーブは首を降る。
「この程度じゃあ、警察が動かないのは、あなたも知ってるでしょレット。だから私たちが雇われたのよ」
深々とリバーブはため息をついた。
「なら、どうするんですか?」
あたしの質問に、今度はブラーが答える。
「セオリー通りなら先ずこの場を離れて、ご両親と連絡とって、あとは相談次第かな」
「そんな、それまでタダ働きですか?」
「そうなるわねレット」
無意味に尻を振るレットをリバーブが睨む。
「あ、でも今回は期限付きだったはずだよ」
ブラーの発言に視線が集まる。
「期限、ですか?」
「そうだよトルート、本来は僕たちに対して遅刻しないようにの制限時間だけど、今回の場合は、今のところ僕たちに落ち度が見られないから、サインなしでも契約終了にできるんじゃないかな?」
「後で面倒な調査とか受けなきゃいけないけどね」
そう付け足すリバーブは、考えてる顔だった。
「ブラー、それ何時までだよ」
「ごめんレット、正確には覚えてないけど、晩御飯前に帰れるとは覚えてるから、それぐらいかな」
「ならそれまで待機だ。その前にリバーブ、紙出せ、正確な時間知りたい」
レットに言われても、リバーブは考えてる顔のままだった。
「おい聞いてんのかよリバーブ」
「レット、あんたちょっと見てきなさい」
「はぁ?」
「仕事よレット、これが私たちの仕事なの」
リバーブは幼い子供に教えるように続ける。
「これであなたが見てきて、そこで何かしらの危険を感じたなら、それを理由に警察を呼べるわ。それで警察に引き継いでおしまい。なければないで、あなたのお望み通りサインを頂いて解散よ。それでどうでしょうか?」
思い出したみたいにリバーブがバヨットさんにお伺いをたてる。
それに、少し迷ってからバヨットさんは頷いた。ただ、その顔には不安が見えた。
「あ、大丈夫です。このトルートも見張りに付けますから」
え?
「何でこんな危なそうなのにまだ不慣れな新入りが参加しなきゃいけないんですか?」
「それはあなたが信用できないからよレット」
「そんな、あたしできません」
「レットあんたいい加減にしなさいよ」
「でも、あたし」
「お願いトルート、あなたにしか頼めないの。ブラーは回復役で前線出せないし、あたしは、体力的にあやしいから」
あ、そうか、あの試験会場でリバーブは一人で見張ってたんだ。
仕事してたんだ。
なら、あたしもがんばらないと。
「任せてください」
胸を張って答える。
「これは危険な仕事よ。同時にこれぐらいこなさないと、今後はやっていけないわ。だから、テストだと思って」
「わかりました」
いつになく真剣なリバーブに、気が引き締まる。
「いい? テストの鉄則はやれることからやる。あなたは、とにかくレットの後ろをついていって、絶対にはぐれない。何かあったら真っ先に出てくる。いいわね?」
「そしてレットを逐一見張る。わかってます」
「あ、レットは見捨てていいよ」
「おいブラー!」
「レット優秀だから、そのレットのピンチにトルート一人は辛いから、外に出てきて、助けを呼んで、それが一番の早道だかレット! 勝手に独りで入っちゃダメだよ!」
「うるせーヤギ! お前らのことがよーーくわかったよ! 覚えてろー!」
「レット、見落としが合ったら全部あなたの責任だからね」
「あーあーあー頑張りますよーっと」
悪態をつきながらレットはドンドン入っていく。それを急いで入る。
「気を付けて」
「はい!」
リバーブに返事して、あたしはレットを追いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます