愛は繋がり4
ブラーは元気そうだった。
ただ無傷とはいかず、あちこち青アザや擦り傷ができちゃったと言っていた。
それでも、あいつを組み伏せて警察に引き渡してきたらしい。その手続きで遅れたんだとブラーは説明してくれた。
「戦争終わって価値観混ざって、一気に変態が増えてるからなー」
レットは笑う。
あなたもそのうちの一人ですよ、とは流石に面と向かって言えなかった。
「でも、彼には、可愛そうなことしちゃったなぁ」
最後にぼそりと呟いたブラーの一言が耳に残った。
それで、三人になっても待つことには変わりなかった。
ブラー曰く、こうして待機するのはこの仕事では珍しくないらしい。
だけど人数が増えた分、お喋りが弾んだ。
「マルチテロカルト、ですか?」
「盛り沢山だろ? まぁ田舎者の新入りには難しすぎるか」
「聞いたことぐらいはありますよ。詳しくは、小さかったんでよくわかりませんが」
「仕方ないよレット、あれは結構すぐに沈静化したじゃない」
「沈静化してねーし。あれは最近の話だろが、今でも現役バリバリで暗躍中で、それこそこの新入りバカらしく信じやすいからコロッといくぞー」
「あーーうん、確かに注意は必要だね。レット、説明してよ」
「詐欺ペテンの専門はお前だろブラー、あん時のバカ騒ぎ一番楽しんでたのお前だし」
「楽しんでないよ。っていうか大変だったじゃないか」
「楽しんでたさ。最後はリバーブに全部持ってかれたがなー」
「何やらかしたんです?」
「俺じゃねーよ。あーあーもーじゃあー、俺が説明すっと、あれだ」
言いながらレットは立ち上がり、そこらから小石をいくつか拾い上げた。
「まずマルチだ。例えばの話、マルチという組織に入ってメンバーになるには毎月小石が三ついる。まず一つを会費として組織に渡す。それで入ったら中のメンバーの一人が先輩となり、自分は後輩となる。で、後輩は先輩に毎月小石を二つ上納する。これが支払いの内わけだ。んで、メンバーになれたら新しく入ったメンバーを最大二人まで後輩にできる。そいつらもまた、各々が毎月二つづつ上納してくれるわけだ。さー算数だ」
「毎月一つの黒字ですね」
「問題の前に答えを答えるな。引っ掛けだったらどーすんだ新入り」
「でもあってたでしょ? それで儲けるのがマルチですね」
「儲からないよ」
「え! ブラーそうなんですか?」
「レット、やっぱり僕が続き説明しようか?」
「任せた飽きた」
「あーーーー、うん。それじゃあ。このマルチは、後輩からの上納で儲けるシステムだから、その後輩がいない一番下の後輩は、後輩となる新しいメンバーを入れないといけないんだ。だけどそれに必要な人数は、最初は二人だけど今度は四人で、次が八人、でその次が十六人」
「あ、いっぱいになっちゃいますね」
「二桁でいっぱいって、どんな人口比だよ。これだから田舎者の見る世界は」
「でもそういうことですよねブラー?」
「うん、合ってるよ。それで、なかなか新しい後輩を見つけられなくて、なのに上納だけ続けてって、苦しい生活を見て、そんなんになりたくないってまた避けられようになって、後輩ができないまま、ただ出費するだけの人が続出したんだ。これがまた大きな社会問題になって、それで規制する法律ができたんだけど、法律って、できた後の事象しか適用できないんだ。だから今までの後輩たちも救済できない」
「ダメじゃないですか」
「そうだねトルート、だかたテロが出てくるんだ。マルチの人たちはこのシステムを新しい社会福祉って宣伝してたから、それを理由に今ある社会福祉システムへの攻撃、すなわち国家転覆ってね。その被害者なら救済できる」
「こじ付け、みたいですね」
「そういう人もいたんだ。特にまだマルチのシステムを信じてた人たちがね。自分たちが不幸なのは弾圧されてるからだーって、でもメンバー増えないから、勧誘に大きなイベントやるようになって、更に怪しい水とか売るようになってって、いつの間にかカルトになっちゃったんだ。それであちこちで無理な勧誘するようになって、これがまた社会問題で。僕たちはその被害者の会の説明会の警備をやったんだ」
「凄かったなアレ」
「襲われたんですか?」
「それが勧誘だったんだよ」
レットが笑う。
「護衛、警備で呼ばれたのに豪勢な部屋の真ん中の席に座らされて、取っ替え引っ替え宣伝する。俺たち専用のコマーシャル劇場よ。ご丁寧に個々の後ろにも屈強のに左右をがっちり固めて逃げらんなくして、そもそも仕事だから逃げるもくそもなくてよー」
「大変だったよ」
「嘘つけブラー。お前、あん時食い放題だったじゃねーか。マルチなんざに騙されるような頭軽いやつらにジーン教の素晴らしさ説いてごっそり改宗させようとしたてたの、忘れたとは言わせんぞー」
「そんなんじゃないよ。ただ僕らが精神の幸せをただで引き受けますから、お金の幸せは任せしますって、提案しただけで」
「それだよ。楽して儲けようと騙された連中が、小石無しで幸せになれるなんて言われたらもー、即刻なびくだろーが。あのままならマジで血を見たぞ」
「あ、平和的に解決できたんですか?」
「最悪なオチだよ。ブラーが絶好調で盛り上がってきたタイミングにずっと黙ってたリバーブがよー、こっそり出された菓子食って泡吹いて倒れやがったんだ。空気も読まずに苺アレルギーとか、おかげでパニック、後に解散、おかげで全部台無しだ」
「でもレット、彼ら僕たちをちゃんと病院まで連れてってくれたじゃないか」
「バーカ。説明会で死人出たなんてもう、完全に詰みだぞ? そんなリスクおうか!」
パン! と音がして、学校に小石を投げ入れようとしたレットの手をブラーが捕まえて止めた。
「レット、危ないから」
「鐘を狙ったんだよ」
「それもだめ」
「暇なんだよ」
「もう終わるから」
なんて、二人が言い合ってるうちに、鐘が鳴った。
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