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 地上にはころころとしてまるい黄色い破片が降り続けた。握りこぶしぐらいの大きさをしてぼんやりと光っていたので、誰からともなくそれを星と呼び始めた。星は夜の間粛々と道路や屋根に降り積もっていった。


 夜が明けてもなにも復旧しなかった。街の全てが停電してから、あらゆる連絡手段がダメになっていた。ラジオをつけると雑音が流れた。日は昇って、日は無事だとわかった頃、高橋はようやく外に出る決意をした。家に一人で居るよりは、外のほうがなにかしらわかると考えたのだ。


 空気がぬるく、秋が来たようだった。風が吹くたびに、星の放つ熱でぬるくなっていた空気が動いて涼しくなった。路上で老人がが竹ぼうきで星を集めて袋に入れていた。道の脇に積み重ねられた透明な袋は熱を持ってぼんやりと光って、熱気球のように膨らんでいた。溜めた星をどうするのか、高橋にはわからなかった。手頃な大きさの星をひとつ拾ってみると、角が取れていて、重くもなく、ほんのり暖かかった。手を放すと水中に沈めた小石のようにゆっくりと落ちていった。星がどかされて道が露出している地面を、子どもたちが転がるように駆け抜けていく。

 道路は静かだったが、時折自衛隊の大きな車が通り過ぎ、キャタピラに潰された星がぱきぱきと音を立てた。人は公園で、交差点で、駅だった場所で、寄り集まって噂話を交換していた。やっぱり月は昨日の晩からもう見当たらないこと、落ちてくる星のせいで交通網がダメになっていること。戻ってこない人が多いこと。隣町の女が星を拾っていたらガラスの破片のようなもので怪我をしたらしいこと。スーパーの前で炊き出しをやるらしいこと。スーパー行っても何もなかったから、炊き出しでもなければ行かないほうがいいこと。炊き出しはいつ? あしたの三時。それまでにはうちの主人も戻ってくるでしょうか、うちの主人も戻ってこない、連絡が取れない、うちのラジオは一瞬聞こえた。なんて? 学者先生が出てた、多分学者先生だったと思う、声だからわからないけれど。降ってきたものには触るな、危険があるかもしれないからって。それって星のこと? 星って危険なの? 危険って、先生が。気をつけないと、でもこんなに降っているのにどうやって? ここから離れたほうがいいんじゃない? そんなこと言ってもねえ。学校もやってないしテレビもなんにも見れないから子どもたちがうるさくて。星に触らせない方がいいのかしら。あ、そういや駅前の店、今晩やるらしいよ。どうせ混んでるじゃない。入れなかったら帰ればいいでしょう。

 人びとはなんとなく店に行く人と行かない人とに分かれていった。高橋は噂話を聞きながらうなずきはしていたが、知り合いは一人も居なかったし、溶け込む気もなかった。店に行く気もなかった。


 見つからない人が多いようだった。怪我をした人はあまり聞かなかったが、連絡手段も交通手段も断たれてなにもわからなかった。人だかりがあって見に行くと、ラジオのアンテナを立ててダイヤルを回している人がいた。ラジオからはがちゃがちゃと色とりどりの騒音が流れてきて、それを一言でも聞き漏らすまいと、みな黙って騒音に耳を傾けていた。時折人の声のようなものが聞こえた。がちゃがちゃ、じー、ぶつっ。……けませ、けませ? 高橋には最後まで意味がとれる言葉を聞き取ることはできなかった。黙って立ち去ると、また別の通りすがりが人だかりに混じっていった。いつのまにか犬を連れた人が混じっていて、犬は退屈そうに座っていた。

 売り物がほとんど消えていたコンビニで、ペットボトルと乾パンを買った。なんせトラックが来ないから非常食頼みで、このコンビニもこのままだといずれ閉店だな、と聞いてもいないのに店員がぺらぺらと教えてくれた。乾パンの缶から角砂糖を取り出しながら出た。駐車場にも、人が集まって喋り続けていた。楽しむために喋るというより、不安に追いつかれないよう声を出し続けているように見えた。除雪車こいよーと誰かが大声で言って、言った本人がはっはっはと息苦しそうに笑っていた。ダンボールでできた掲示板に安否確認のメモが並んでいた。高橋は両親や知り合いの名前がないか調べてみたが、こんなところに居るはずもない。

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