真 2 神

 魔法陣を見た途端何だかわけのわからない至極不快な体験をさせられた俺は、気が付くと人間でいう「悟り」の境地に達していたかもしれない。最後の方には、不快な感覚を受け入れている自分がいたからだ。……多分これから先どんなに不愉快なことがあっても耐えきれそうな気がする。



 そんな、悟り系男子の俺だが、今なぜか何もない白い空間にいる。


 もう驚いたりしないぞ。このくらいのことで動揺してたまるか。あれだろ。これってライトノベル系の異世界転生時の「神の間」的な場所だろ。おそらく美しい女神とか、仙人のような容姿の神とか、アホの子で、自由奔放そうな子供の神様とかがいたりするんだろ。……人外の可能性も無きにしも非ずなんだが。でもそんなことはないよな。根拠はないけど。



 すると見るからに清廉な雰囲気の白い髪の美女、いや美少女が、荘厳な音と輝く光とともに……






 ……登場しませんでした。一番予想しなかった展開です。なんかテレパシーでしょうか、頭の中に直接声が響いてきます。手抜きなんですね。


「手抜きではない。時間がないんだよ」


 それ、てぬk「だから手抜きではないって!!」


……どうやら考えを読み取れるらしい。勝手に考えを読み取るなんてハラスメントで訴え出てもいいと思うが、訴える相手もいないし、仕様がないから話を聞こう。


「まったく……最近の人間は……ゴホン、まずは自己紹介をしよう。僕は君の世界で『神』と呼ばれている存在だ」


 うん、知ってた。賢者タイムのせいか、思考が澄んでいて、なんとなくこの空間を作れるものを五個ぐらい考えた中でも真っ先に思い付いた。


「そこは驚くところではないのか……それはともかく、君は異世界に勇者として召喚されただった。わかりやすく言うと失敗しちゃったのかな」


 それも何となく察してた。あんな地獄、普通に体験できるはずがないし、魔法陣が現れた時点である程度予想はしてた。それにしても俺が外れくじを引くなんてな……こういう転生とかトリップ物では俺みたいな奴が逆にラッキーみたいな風潮があるけど、現実でそんなことあるはずもない。一番損な役回りだ……。


「ちなみに君が地獄とか言っていたのは『界渡り』……平たく言えば世界と世界の間の旅かな……を、ほぼ魂の保護なしで行ったからだよ。普通は何重にも保護をするんだけど、君の場合『一番大事なところ』だけしか保護を受けていなかったみたいだし。それでも普通は消滅するよ。まあ異世界人には圧倒的な魔力の鎧をまとって何とかする脳筋もいたりするんだけどね。でも君はそんな異世界人じゃない。現に君の肉体はその負荷に耐えかねて前とは別人……異世界人に近い構造になっているし。普通はこの処理もあの魔法陣の中で行われるはずだったんだけどね」


 ……ん?俺ってそんなことされていたのか?というか別人ってことは容姿も変わってるのか?


「察するにどんなに辛くても心の根本的なところは『折れなかった』んじゃないかな。さしずめ無間地獄って感じだったんだろうね。まあ、君の適応力のおかげでもあったりするんだけど」


 そうだったのか。どうやら俺はポテンシャルが高く、いや、高いが故己の首を絞めてしまっていたようだ。向こうでは考えられなかった話だけどな……。


「まあ、それしたの僕だけどね」


 はあ!?


「さらに言えば僕、精力とか子だくさんの神様だから」


 も、もしかして


「君が性欲絶倫なのもぼくの加護の副作用だろうね」


 ……話は終わりだ。嘘でもそんなことをいう奴なんか呪い殺してやる。


「ちょっと待ってよ!僕自体こんなことになるなんて予想してなかったんだ!そう、ほんの出来心でやったんだ。なんとなく地球に行ってたんだけど、君はなんとなくポテンシャルが他の人よりも高かったんだ!それで面白そうだから気まぐれについ……」


 なんとなく多いな……ふざけた神だ。まあそれは別の話として本題に入ろう。なんで俺なんかと『精力と子宝の神様』が話してるんだ。


「いやあ、僕はそんなことをして、さすがに何も感じないような無慈悲な神でもないわけよ。そこで、異世界でちゃんと生きていけるように、せめてちゃんとしたところに送り届けようと思うんだ。このままではどこかやばいところに行ってしまいそうだしね」


 変なところに送ったら承知しないぞ。


「大丈夫。僕が知る限りその世界ではかなり強い人の近くに移動させるから。常識には少し疎いけどね。……おっとどうやらタイムリミットのようだね。無理矢理界渡りの空間に干渉してるから制限時間があるんだよ。最後に君の今の状態について話そう。君は、人間を辞めてる」


 ファッ!?


「界渡りの時に肉体が作り替えられた話は先に言ったよね?それのことなんだけど、君は地球人を軽く超えるポテンシャルを手に入れちゃったわけだ。実は才能自体は元からあったんだけど、本来なら絶対に開花することのない才能だったんだ。けど、それが界渡りで大きく前面に出て、更に界渡りの魂自体の修練によって相乗効果でめちゃくちゃ強くなっちゃったわけ。……見た目的には人間の3歳児くらいで可愛らしいんだけどね。……成長はするよ?」


 まじか……最後に爆弾落としてきやがった……でも、そういうことならありがたい面も無きにしも非ずだな。所謂チートを貰えた……いや、自分で掴み取ったわけだし。


「君の異世界での生活が平穏なことを祈ってるよ。それでは、機会があったらまた会おう!」


 直後、白い世界は音もたてずに消え、俺の意識も糸が切れたようにぷっつりと消えていった。










◇  ◇  ◇









 この神の評価は、後に大きく揺れることとなる。彼は、果たして恣意的に事に及んでいたのか……それとも、しなければならない理由があったのか……









◇  ◇  ◇








 気が付くと、目の前では誰かが、顔を覗き込んでいた。

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