真 3 覚醒、運命との邂逅

 意識が覚醒してくると、次第に物がはっきりと見えてくるようになった。まだ少し曇って見えるが、目の前にいるのは長く黒い髪の女の人で、そのままの顔ならとびきりの美人だろうが、何か面倒なことに巻き込まれたような、気だるげな顔をしている。


 その人は、こちらが目を覚ましたのに気が付いたのか、話しかけてきた。しかし……


「66、gtぜqt。」


 理解不能だった。少なくとも、自分が知っているどの言語とも似つかない物だった。これを聞いて、やはり自分は異世界か、少なくとも地球でも辺境のようなところに来てしまったんだなと自覚する。


 しかし、即座に後者は否定されることとなった。女の人は言葉がわからないことに気付いたのか、納得したように、


「33、bsftlてwぐえkt。c;うおあ9zsj-46t:94。」


 すると、自分が光に包まれる。これは教室の時と同じものだろうか。


 しかし、そのあとすぐに目が飛び出るような光景を見ることになる。


「さて、これで大丈夫?ステータスの人工知能の学習能力を応用して作った『永続無属性超級最上位魔法 《意思疎通》』で私の言葉に込められた意思が直接あなたの国の言語に変換されているはずだけど……」


 そ女の人の言葉がなぜか理解できるようになっていたのだ。それも、本人が言うには魔法を使ったからという。こんなことをされると、もはや異世界転移したんだと認めざるを得ないな……。とりあえず名前でも聞こう。


「ええと、俺は前の世界では『東野 真』って名前だったんですけど、あなたはどちら様でしょうか」


 ……声がかなり高くなっている。感覚的には銭湯なんかによくいる遊んでいる子供みたいな声だ。体もなんか感覚が違うしやっぱり若返ったのかな。


「私の名前はイア、とでもいうかしら。他にも名はいっぱいあったりするんだけどね。……ところで、あなたはどこまでことを理解してるの?」


 隠してもしょうがないので、正直に言う。


「気が付いたら勇者召喚に失敗した様で気が付いたら拷問を受け(精神的な)、そのあと気が付いたら神と話していたんですが気が付いたらここにいました。」


「ずいぶん気が付いたらが多いのね……。しかし、そんな認識だったとは……あいつ、後でしばくぞ……」


 え?今神様のことをあいつとか言ったよね!?そんなぞんざいに扱っていいもなの!?イアさん口調変わってるし!!


「私はあいつに君がこの世界で生きていけるように世話を頼まれたのよ。あなたも突然あの糞にこんなところに放り込まれても訳が分からないでしょう。何でも知らないことを聞いていいわよ」


 あ、今度は糞とか言ったよ。やっぱり神様のことどうとも思ってないよね。


……それはともかく、聞きたいことを聞けるチャンスだ。自重せずに思いっきり聞こう。ここはどこだとか肉体のことだとか聞きたいことはいっぱいあるけど、まずはこれだ。



「この世界には、魔法があるのですか?」


「あるわよ。属性とかもあったりするの。そこからはちょっと面倒な話になるけど。」


「じゃあ、僕も使えるんですか?」


 イアさんは、少しむっ?としたような顔をしてから答えた。


「ああ、あなたなら文句なしね。ちょっと魔法で適性を調べてみましょうか。《基本を一としステータス彼の能力を開示せよオープン》」


 すると、目の前に光輝く板状のものが現れた。すごい。ステータスなんてあるのか。どれどれ……?



 NAME 無し(東野 真) 3(16)歳 女 聖人(適正) 精神生命体

 適正属性 毒 水 氷 火 風 土 電 闇 聖 無 増 止 反 空間 時

 HP 10/10     189250

 MP 150/150   259000

 ATK 5        34500

 DEF 10       78000

 MATK50       128000

 MDEF1500     1087645

 能力及び技能

《完全記憶》《思考加速》《肉体変化》《不死》《不撓不屈》《ポーカーフェイス》《整理》《理解》

 祝福及び加護

《気まぐれな神の加護》《転移者》《界渡り》《傍観者》








「ちなみにHPとかの横に書いてある数字は《素質値》と言って、まあ、読んで字のごとくって感じかしらね」


 ……チート臭いぞ。なんだよ。MDEF……おそらく魔法防御的なものか……の素質値が百万超えてるし、不死とか字の通りだと明らかにチートかな?それに適正属性もちょっとおかしいやつが混じってる気が……


 まあ、アレだ。異世界だから、価値観が違うかもしれない。だからみんながみんな時とか空間魔法を使えるのかもしれないからな。糠喜びは禁物だぞ。


「すみません、少し質問をしてもいいですか?」


「もちろん。さっきも言ったけど、何でも遠慮せずに聞いてちょうだい」


 イアさんは快く引き受けてくれた。この世界についての説明を神は殆どすっ飛ばしていたので、貴重な情報源だ。ありがたい。


「このステータスは普通なんでしょうか?」


「素質値が高い以外は界渡りで鍛えられたのならそこそこって感じ。適正も職業も素質値も鍛えられたようだしね。属性も、私が知っている二十八の中の十五だし。頑張ればあと四、五個はとれると思うわ。まあ、界渡りをこんな無茶な加護でする人なんて今まで見たこともなかったけど」


「ちなみに界渡りっていうのは、あの糞から聞いてるとは思うけど、世界から他の世界に渡ることね。まあ神の力でもないと世界間を渡るなんてことできないから、普通は渡れる直前の空間に行って魂のレベルから鍛えることを言うんだけど。転移魔法でやるのが一般的なんだけど、あなたはどうやら違うようね。貴方の方法だと保護ありでも魂が四散して消滅する可能性もあるから、最低限の保護で消滅しなかったあなたはもともと心が強かったんでしょうけど」


「属性ってどんなものがあるんですか?」


「知る限りだと毒、火、水、氷、風、土、電、闇、聖、無、邪、空間、理、星、増、止、反、動、静、変、振、重、核、時、獄、真の理、超、虚ぐらい。私の知る範囲だからもっと多いと思うわ」


 最後の方とか物騒な属性があった気がするが、気にしないことだ。ちょっと質問しすぎたかな。


「あとは、《理解》ってどんな能力なんですか?」


他のスキルは《思考加速》とか《肉体変化》、《完全記憶》みたいに見てくれで何となく効果がわかるが、唯一これだけは全く分からん。


「友達で持ってた人がいるけど物の意味とかを理解できる能力だった気がするわ」


 お、これならステータスの能力の意味も分かるかもな。結構チートな能力かもしれない。……何で俺にこんな能力が与えられたんだ?こんなもの、体が作り替えられただけでは手に入れられるはずもないし……まあいいや。手に入れた能力は手に入れた能力だ。察するに所謂召喚チートだろう。これで俺もハーレムの主だ!!……いや、前ハーレムメンバーが全員ヤンデレ化して殺しあってたラノベを見たぞ。やっぱやめとこうかな……


 ……ハーレムと言えば、ちょっとおかしな表記がステータスにあったね。まるで冗談の様なものがね。まあ、一応聞いてみよう。きっとバグってるって笑い飛ばしてくれるはずさ。うん。俺は俺だ。まさか……な。


 意を決して俺は聞いてみた。


 だが、その質問の答えを、それを聞いた瞬間をこれからの人生俺は決して忘れることは無いだろう。


「あのーもしかして……もしかすると俺って女になっちゃってます?」


「もしかしなくても、もともと女じゃないの?」











「い、嫌だああああああああああああああああ!!!!」




 ……俺が異世界で最初に失ったものは、自分の「性」であった。そう、俺は女になっていたのであった。







◇ ◆ ◇





 この時の俺は知る由もない。この、異世界初の邂逅が、後の運命を百八十度変える事なんか。


 出会って良かったのかもしれない。ある意味運命的な出会いだったのかもしれない。でも、それはとてもとても悲しい物語の、最序盤。今までの話は前座に過ぎなかったんだ。彼女に会わずに異世界転移してたら、もしかしたら俺TUEEな別の物語が始まったかもしれないしね。俺の物語は、この、イアさんとの出会いを以て始まりを告げたんだ。


 今は掴み処が無い話だとは思うけど。何ていうかな、その出会いは……あんまり言葉が思いつかなくて、こんな使い古された格好悪い言葉を使うのもなんだけど……


……〝終わりの始まり〟だったんだ。 

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