王 1 いない!

 二年二組の面々は、今目の前で起きていること、そして自分の身に起こったことが理解できないでいた。とても簡単な理由だ。




 一つ目は、突然現れた魔法陣が黒板で光ったと同時に気を失い、気が付いたら中世のお城か、或いは宮殿といわれるようなところにいたからだ。目の前にはここのお姫様なのだろうか、水色の煌びやかなドレスを着た見た目から推測して十代後半と思しき美人がいて、その護衛なのだろうか、周りには「騎士」としか例えられないような人たちが、十数人ほどいる。




 さらに、それならば明らかに異世界とか外国に飛ばされたと考えるのが妥当だろう(集団で見ている夢の可能性も否定できないが)。


 ……となると、勿論文化も違えばしゃべる言葉も違うはずだ。冷静な生徒たちはそのように考え始めた。それなのに、なぜか目の前で話している人の言葉を聞き、意味を理解することができてしまったからだ。その会話の中には「勇者」だとか、「魔王」のような、ゲームの中でしか聞かないはずの言葉が入り混じっている。







 すると、突然姫様はこう言った。




「勇者たちよ、この世界を救ってください!!」



 その言葉を聞いた大半の生徒は茫然として姫様のほうを向いていた。




 ◇ ◇ ◇




 …最初に口を開いたのは、香先生だった。普段ののんびりとした感じからは想像することもできないような鋭い目つきをして、こう言った。


「突然ここに連れてこられて最初に告げる言葉がそれはないでしょう?」


 すると姫様は申し訳なさそうに、


「すみません、少し焦っていたもので……成功したと思うと、つい取り乱してしまいました…。申し遅れましたが、私の名前はアンネ・アレック。この国、イマグ・アレック王国の第一王女でございます。」


「何故ここに連れてこられたのか説明してください。」


 ここでアンネの周りにいた騎士(のような人達)の一人からヤジが飛んだ。


「お前、王女様に何たる無礼だ!!」


「お黙りなさい。逆にあなたが遠いところから来てくださった勇者さまに失礼ですよ」


 アンネの一言によって騎士は何か言いたそうにしながらも口をつぐんだ。


 アンネは一呼吸おいて世界のことについて話し始めた。


「数年前、我が国の南に魔王が現れました。その時点では脅威ではなく、十分対処可能であろうと皆考え、冒険者たちと大国の軍事援助を受けた、魔王の近くにある小国が魔王討伐にあたりました。……しかし、魔王は想像を絶する強さで魔物と魔族を従え、小国の攻撃を易々退けてしまいました。勢いに火が付いた魔王は南にあった小国を滅ぼしながら北に向かっていて、いずれはこの国も滅ぼされる憂き目に遭うでしょう。勿論、魔王討伐の遠征も国軍で行いましたが、魔王の圧倒的な力の片鱗で殆どが殺されてしまいました。その中には所謂英雄と言われている者もおり、被害は甚大。更に、この状況に近隣の国がチャンスとばかりに目を付け、経済、軍事、外交などあらゆる手を使い国を乗っ取ろうとしてきています。そんな四面楚歌の状況で、取れる手段は大方とりましたがすべて失敗してしまいました。そんな中、最後の手段として行ったのが、神代から伝わるとされる魔法陣を使った勇者召喚です。


 その為、召喚されたあなた方には、魔王を倒して、この世界を救ってほしいのです」



 ……ここで、突然クラスの中から甲高い悲鳴にも似た声が上がった。


 その人物……水野優月は、吐き出すように、こういった。












「マコト君がいない!!」

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