外伝その3.アシスタントは電気猪の夢を見るか

 さて、リーヴさんに約束した手前、キチンと御褒美アシスタントの用意をしないといけませんね。

 まずは、現実の地球でコンプスの『HMFL』用サーバーのひとつに介入し、亡くなった牧瀬双葉のプロフィールデータから、必要な情報を入手しましょう。

 遺族も本人のゲームアカウントにまではまだ気が回っていないのか、停止申請されていないのは幸いでしたね。


 ──電子情報読取……歴程確認……自我形成……


 おっと、このあたりで一応“本人”の許諾も得ておきましょうか。


 形成(より正確には「再形成」と言うべきでしょうか)された“自我こころ”に仮初の“身体うつわ”を与えて、しゃべれるようにします。

 ──本当は、自我だけの段階でも、わたくしどもなら意思疎通できるのですが、相手側に「身体がある」ことを実感したうえで、決めて欲しいですからね。


 「はれ? こ、ここは、いったいどこデスか?」

 目の前の相手──『HMFL』のゲーム内でリーヴを支援役アシスタントとしてサポートしてきた狗頭族コボルの少年は、キョロキョロ&キョトキョトとあわてふためいていますが、これは仕方のないことでしょう。


 『これ、少し落ち着きなさい』

 そうたしなめるような声をかけると、はじかれたように此方に視線を向けてきます。

 「ワフッ! お、お化けデスか? それとも小さめの怪獣デーモン!?」

 ああ、そうでした。いつもの“認識阻害”を掛けたままだと、ふわっとボヤけた人型の光のように見えるんでしたっけ。

 認識疎外を切ってから、できるだけ穏便な口調で再度話しかけます。

 『わたくしのことは、神様みたいなものと思ってください。それより、狗頭族のケロくん』

 「は、はいデス」

 耳を伏せ、尻尾も丸まったままですし、まだまだおっかなびっくりな様子ですが、とりあえず此方の話は聞く気になってくれたようですね。

 『貴方の雇用主マスターである狩猟士リーヴさんより要請がありました。再び彼女のもとで働く気はありますか?』


 * * * 


 オラの名前はケロ、今年8歳になった狗頭族の男デス。

 狗頭族は35から40歳ぐらいが寿命で、だいたい5歳で一人前せいじんになる種族デス。

 たいがいの狗頭族は、村に住んで畑を耕すか、鉱山に出稼ぎに出て掘削人になるかで生活してマスが、なかには町に行って並人の狩猟士さんと契約して支援役アシスタントになる者もいるデス。

 ちょっぴり他犬たにんより好奇心が強かったオラも、5歳になると同時に村を出て、一番近くの町に行って支援役をめざしマシた。

 何のツテもコネもなかったのに、町に出て半月ほどで狩猟士さん(しかも上級までランク上げた人!)に専属で契約してもらい、それ以来ずっと雇ってもらってるオラは、とても幸運だったと思いマス。

 すぐに雇用先しょくばが見つかったこともそうデスが、雇ってくれた狩猟士──リーヴさんも、ちょっと無口だけどすごくいい人デシた。

 「リーヴだ。支援役という立場は、色々大変だとは思うが、よろしく」

 五歳おとなになったばかりの若僧で、狩猟どころか町や並人のことさえよく知らない、未熟なオラを見放すことなく、一人前の支援役になるまで面倒を見続けてくれたんデスから。


 リーヴさんのもとには、ほかにも立猫族ケトシーのカラバさんと小猿族マンクスのチーチーさんという支援役が先輩として雇われてマシた。


 「あニャたが新しい支援役ですの? 御主人様マスターも物好きニャこと」

 「HAHAHA! そーゆーなって、カラバ~。ミーたちだって、支援役になったばかりの頃は、いろいろ旦那マスターに迷惑かけまくっただろ~?」


 カラバさんはちょっと気が強くてキツいことも言いマスが、それはマスター想いだからこそ。

 チーチーさんは、ふだんはちょっとおちゃらけて見えますが、ピンチの時の機転はオラたち支援役仲間でもいちばんデス。

 ふたりはオラが雇われた時点で、すでにランク10のエキスパート・アシスタントになってマシたが、なんだかんだいって、支援役としての心得や心構えなんかを親切に教えてくれマシた。


 そして、何十回、もしかしたら100回を超える狩猟を経て、オラもどうにかこうにか支援役としてのランクが10まで上がったころ、後輩となる支援役が新たにふたり雇われマシた。


 「ちょっと、ケロさん! 今度の新人の教育はあニャたにお任せしますわよ」

 「え!? お、オラがやるんデスか?」

 「わりーな、ブラザー。ミーたちはこれから旦那の支援でちょいと忙しくなりそーなんだわ」

 「あっ、ハイ」

 ──確かに、オラ自身も先輩格のおふたりに世話してもらいマシたし、次に後輩の面倒をみる番だと言われたら、納得するしかありマセん。

 それに、雇用主マスターのリーヴさんがここのところよく行く狩猟場は溶岩地帯で、暑いのが苦手な狗頭族のオラには向いてないこともわかってはいマス。

 (でも……ふたりともいいなぁ)

 最近リーヴさんがオラを巨獣相手の狩りに連れていくことは、あまりありマセん。

 気候的な適性を抜きにしても、おふたりよりオラの戦力が劣っているから……というのは、考え過ぎデスかね。

 カラバさんは、立猫族特有の勇敢さと強敵相手でも勝機を探る冷静クレバーさをというふたつを兼ね備えた稀有な性質の持ち主で、おまけにリーヴさんへの忠誠心も抜きんでていマス。

 チーチーさんは、ただでさえ頭のいい小猿族のなかでもとび抜けて賢いというか……ずる賢い? で、でも、悪人ではありマセんし、手先の器用さや木登りの特技も併せて、リーヴさんの狩猟おしごとでもいっぱい貢献してマス。

 ふたりに比べるとオラは……と、ちょっと落ち込みマス。

 いえ、ぜんぜん役に立ってないってことはないと思うのデスよ? 狗頭族だから嗅覚はなはいちばん利きマスし、山で鉱石掘るのは巧いと思いマス。経験を積んで成長もしマシたし、大型獣や巨獣の攻撃を1、2発くらっても、しぶとく戦線に残れる自信もあるのデス。

 でも、純粋に「強敵相手の援護役せんりょく」としては、やっぱりおふたりにはかなわないとも思うのデス。


 * * * 


 「──オラでいいんデシょうか? カラバさんやチーチーさんの方がお役に立てるんじゃあ……」


 簡単に事情を説明したところ、この犬頭の青年(?)は、そんなことを言って悩み始めました。

 犬は飼い主に似るとも言いますが、自己評価が微妙に低いところなんか、“雇用主リーヴ”とそっくりですね。

 この子を選んだのは彼女の意思なのですが──ふむ。

 ちょっとばかり神力を都合して、ふたつの意識こころも励起します。


 『ニャに甘えたこと言ってますの、このバカ犬は!』

 「え!? まさか、カラバさん?」

 『せっかくの旦那のご指名なんだ。ショボくれてるのはcoolじゃねーぜ、ブラザー』

 「チーチーさんも!?」


 ケロくんと違ってふたりには実体からだは与えていませんけど、私の補助で会話はできるようにしたのですが、予想通り先輩格ふたりの情&理両面からの説得おいこみに、ケロくんはタジタジとなっています。

 この獣人たちも個性的ですけど、とてもいい子ですね。ケロくんが辞退すれば、自分が代りに彼女の元に行けるかもしれないのに、それよりマスターの意向を重視しているようですし。

 また別の隠し課題を達成できたら、この子たちを実体化して派遣するのもアリかもしれません。わたくしの権限で自我いしきを散らさずに保管っておきましょう。


 「わ、わかりました。オラ、精いっぱい頑張ってみます」

 『ふん! 最初から素直にそう言えばいいのです』

 『旦那のコト、頼んだぜ~、ブラザー』

 どうやらアチラの話もまとまったようです。


 『それでは、行ってらっしゃい。貴方の新たな生にも幸いあらんことを』


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次回より本編第二部再開です

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