第47話 辺境の噂


ヒノ大陸・ガルダ王国の南部辺境にある広大な湖の周りには幾つかの村々がある。


プルー湖東部・夢追いの村【エッジ】


元は東部から南部を開拓する村であったが、今では冒険者や各国の勇者一行がプルー湖南部にあると言われる【魔王の死体】を求め集まっていた。


現ガルダ王国の武の象徴とされる剣王が打ち倒したとされる魔王【冥王トーン】。

その【魔王の死体】を一部でも持ち帰れば、国王陛下から直々に勲章を賜り、多額の報酬金と栄誉を手に入れられる。


そんな夢追い人一同が拠点として利用し歪な形で発展した村は治安が悪く一月に何人かは南部に出没する【魔物や魔獣】以外によって死体となり打ち捨てられる。


南部辺境の管理者であるハーディス家の私兵団もたまに顔を出すだけで治安の悪さに、特に注意はしない。


領民さえ無事であれば余所者同士のイザコザに関わる利が薄いからである。


そんな村にある木造一階建ての雨漏りしそうな酒場で大樽をテーブルに立ち飲みで語ろう男性冒険者たち。


「おう、最近どーよ」

野太い声が店に響き渡る。


「どーもこうもあるか、この前組んでたBランクのパーティの1人が【アーヴァンク】の群れにやられて解散しちまったよ…クソッ」

既に出来上がってるのか顔を赤らめた男性冒険者。


【魔獣・アーヴァンク】

前歯が特徴的な毛深い四足獣の体をした【魔獣】である。

巨大なビーバーの様だか鋭い爪で掴まれると、湖に引き込まれ、【水系の魔法】による渦で動きを封じ、溺死した死体を巣に運び、肉は食べ、骨は巣の材料にする。


陸地では雑魚だが水辺では強いとCランク指定だが油断出来る相手ではない。


「ああ、【廃坑】近くまで行ったのか、あの辺りの水辺にに近づくと襲われるんだっけか」


「【廃坑】へ入る前に沼地で歩いた泥を落とそうと思ってな…ワニを警戒して水辺ばかり警戒してたら草むらから飛び出してきて落とされたよ…クソッ」


「そりゃあひでぇ…【廃坑】に入ってからが本番なのにな…」


「つーかよぉ、【廃坑】って言っても入り口が色んな所にあるじゃねぇか、どれが正解か教えてもらえないのかよ…【剣王】は知ってんだろ?」


「いや、【剣王】は覚えてないとさ、もう1人の【冥王討伐の勲章】貰った奴が案内したって話だぞ?」


「じゃあ、そいつから聞きゃあ良いじゃないか」


「6年前の【論功式典】で暗殺されたらしい…剣王の褒美を横取りしようとした連中がいたとか」


「うわぁ、可哀想に…褒美って何だよ」


「【竜王】のお姫様さ」


「おお!?あの!?第一回の武芸大会出てから三連覇した女の子!オレ生で見たわ!?てか褒美がそれじゃあ狙われるだろ…」


「成人の儀を終えても、まだ結婚の話とか聞かないよな。国王の弟と帝国の皇子との関係が怪しいらしいけど…」


「式典暗殺の話って本当なのか?【竜王】はもう【剣王】並みの人気だけど、そういう話は聞かなかったぞ?」


「箝口令も出されてたらしい、何処まで真実か怪しいが…まぁ話を戻すと【廃坑】の先にある【冥王の洞窟】の【魔王の死体】は地道に探すしかない…」


「あー!クッソォ…一攫千金狙ってきたのによぉ、たまに落ちてる【ミスリルの粒】拾ってちまちま稼ぐしてねぇよ!」

ダンッダンッと大樽のテーブルを叩く男性。


「【ミスリル】かぁ、あの石には助けられてるなぁ、そこそこ高値で売れるから助かるわ」


「これか?鑑定では【青金剛石】だっけ?変質した魔力が宿ってるらしいが、発見から10年経ってもまだ解明出来てないとか」

コロンッとズボンのポケットから取り出した青く輝く石の粒をテーブルに放り投げる。


「ああ、こんな粒ばっかじゃ武器も無理だろ?大理石の加工にダイヤの粒を刃に混ぜて切断しやすくする要領で試したみたいだか効果がサッパリだとさ」


「はぁあ、色々頑張ってんだなぁお偉いさんは…実用性が証明できれば【世界初の魔石】だろ?【魔石】なんて物語や伝説にだけ出てくる都合の良い石ころだと思ってたけどな」


「ああ、それなんだが【宝剣カークス】に使われてる竜鱗こそ【魔石】では無いかと発表している研究者もいて、こっちの方が【世界初の魔石】となるかも知れん」


「…お偉いさんはよく分からない争いしてるんだなぁ」

理解出来ないと呆れた顔をして酒を飲む男性。


「貯金がてら【ミスリルの粒】を集めとくのもありかもなぁ…【廃坑】か【冥王の洞窟】の何処かに鉱脈が埋まってんのかねぇ」


「【廃坑】…あっ、そういや【廃坑】に行った連中に聞いたんだけどよ。少年冒険者の話聞いたか?」


「ん?ああ、何年か前にハーディス家の私兵団に保護され連れてかれたガキの話か?」


「それがちょっと違うみたいでな、その少年冒険者が私兵団を率いていたって話らしいぞ?」


「ハァ?んなバカな、ハーディス家の私兵団とか俺の先輩とかも務めてるけど、Aランク冒険者を集めた【クラン】みたいなもんだって聞いたぞ?それを率いるっていうことはAランクなのか?」


「いやBランクだ、【大鰐(ディノスクス)】ってハーディス辺境伯専属の冒険者なんだと」


「Bランクが専属になるって、あんま聞かねぇな…」


「いや、少年でBランクだぞ、つまりは…」


「はぁ?未成年でギルド登録してるって事は武芸大会で【剣王十字勲章】授与されたってことか?【ガルダの趾(あしゆび)】に第3趾(し)の【竜王】以外に未成年で授与された者なんていたっけな?」


「詳しくは分からん【ガルダの趾】って今、第9趾まであるんだっけ?」


「ああ、確か…


【第1趾・剣王エンヴァーン】【剣王大十字勲章】初授与

【第2趾・不明】【剣王十字勲章】初授与

【第3趾・竜王フィオ】第1回武芸大会優勝者

【第4趾・眼鏡割りシベック】第2回武芸大会準優勝者

【第5趾・貴族狩りジャンテ】第3回武芸大会準優勝者

【第6趾・赤王デフェール】第4回武芸大会優勝者

【第7趾・右翼アルメラー】第5回武芸大会準優勝者

【第8趾・赤翼レド】第6回武芸大会準優勝


…だったな」


「相変わらず、第2趾って不明なんだな…第6趾以降って八百長疑惑がある王族や公爵だろ?4回目から武芸大会は【竜王】も出なくて評判が滅茶苦茶悪くなったし」


「いや、評判の悪さなら第二回の決勝で自分の眼鏡を割って棄権したシベックだろ?」


「ああ、大会後に伊達眼鏡がバレた奴か、伝説だよな」


「伝説なら第3回だろ?王族がハーディス家に勝った決勝戦、あれが1番盛り上がっただろ?」


「試合開始前にジャンテから渡した手紙何だっただろな?」


「何かの脅迫状だったんじゃないかハーディス家ならやりそうだぞ?」


「いや、【竜王】が凄い喜んで攻撃してたぞ、ジャンテは【あいつ、ハメやがったな!?】とかって叫んでた記憶残ってる」


「はぁあ、やっぱ武芸大会は【竜王】がいないと観る価値無いわ。4回目以降は絶対八百長だって!絶対!」


「さぁな、そんでその第2趾がその【大鰐】って噂さ」


「んん!そりゃあ、なかなか夢がある話だな!」


「更によ、お前が言うようにずっと評判悪かった武芸大会の信用を取り戻す為に【ガルダの趾】は全員参加させるそうだ」


「全員?…おい!それって!?」

訝しむ顔から一気に少年のような期待を含めた表情に変わる男性。


「そう、【剣王】もだ」

ニヤリと笑うと杯を傾けた。


「おいおい!そんなん見に行くしか…あっ、やばい…オレこのままだと夏はずっと【レール運び】になるかも…」


「あっ?お前もカプノス商会から金借りてんのか…」


「えっ?お前も?あの【レール運び】やってんのか?」


「いや、パーティメンバーの1人が返済仕切れなくなってずっと働いてる」


「最近、そんなんばっかだな、冒険者もダンジョン攻略しに来たらいつの間にか線路工事してるよな…まぁ、オレも何だが」


「俺としては線路が長くなればその分だけ採集した素材が運びやすくなって良いけどな!お前が運んだレールで【魔王の死体】を運んで儲けてやるよ!はっはっはっ!」


「テメェ!?俺だって【魔境】という最前線で稼ぐ冒険者だぞ!」

酒臭い息を吐きながら叫びを上げる。


夢追いの町では、今日も酒と共に冒険者や自称勇者が夢を語らう。


彼らは知らない、この魔境の最前線はすでに東部では無く西部であると。


【廃坑】の先にある迷宮ダンジョン【冥王の洞窟】。


その最奥にある【魔王の死体】はすでに新たな【王】の手中にあると。


追っている夢に先は無いと。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る