第48話 鰐と妖精


ガルダ王国南部辺境プルー湖西部・炭と赤レンガの村セベク


【世界樹】があると言われる深い樹海とプルー湖に挟まれた位置にある総人口が200人にも満たない村である。


村と呼べるのは少ない人口の割に建築物がしっかりしており、大きな煙突が何箇所にも立ったレンガ造りの立派な工場があるからだろう。その工場の隣には共同浴場が建てられており、2つの出入り口からは男女が別れて出入りしている。


更にその隣にも同じく赤レンガの3階建ての建物が隣接されており、看板が立てかけられている。


【気まぐれ喫茶・ブローチェ】


その建物の3階。屋根裏の様な部屋には屋上に続く剥き出しの梯子、部屋の壁に沿って棚とテーブル、そして大きな木製ベットが置かれている。


日はまだ登らず、暗闇が支配する部屋。


そこに忍び寄る小さな影。


ベッドの主へと影は飛び乗った。


ボフンッ!


「ふんがっ!?」


「はい!ノーブル様〜!朝です〜お仕事の時間です〜」

蜂蜜色に煌めく髪を揺らした耳の尖った少女がベッドの上で揺れる。


「ゲホッ…アディちゃんとは分かってたけど飛び乗って来るとは…はぁ…起きた瞬間にお仕事か…アディちゃん今日くらいサボろうよ…スヤァ…」

ベッドに潜り込む灰色の髪の青年。


「え〜!それは行けません!スヤァ〜禁止です!ノーブル様がおサボりすると私兵団のパパが忙しくなって休みの日に遊べなくなります」

ポフポフと掛け布団を叩くアディ。


「そっかぁ…ふぁあ…でも僕がおサボりすると、何と!僕とアディちゃんが今日一日中遊ぶことが出来るんです!」


「はうあ!?…そっ…それは何とも魅力的な…あれ?…あっ!?ダメです!そう言って前に騙されました!パパが【キュージツシュッキン】して泣いてましたよ」


「ふーん、そっか、今日の予定分かる?」


「西セベク駅でパパ…じゃないシベック団長とカプノスおじさんと待ち合わせ、南西クンビーラ駅でアイザラさんと打ち合わせがあります〜」


「あのドワーフか…はいはい、何時に【トロッコ列車】に出発するの?」


「10時ですね〜」


「んん〜…今、何時?」

上半身を浮かすノーブル。アディと顔が近づく。


「5時ですね〜、おはようのキスですか?んチュッ」

アディは近付いてきたノーブルの額にキスをする。


「はいはい、ありがとう…って違うしっ!?早過ぎるよ!?こっから歩いて20分くらいじゃん」

ボフンッと浮かした上半身をベッドに沈めるノーブル。


「ん〜後でノーブル様が逃げ出さない様に早めに来ればいいと思いまして」

唇に手を当てて考え込む表情を見せる。


「頭いいな…アディちゃん…」

(理には適ってるけど極端だなぁ…この子)

ノーブルは薄く苦笑する。


「ですよね!」

褒め言葉として素直に受け取ったアディは喜ぶ。


「まぁ、理由は分かったけど、なんで枕?を持っているの?」

何やらベッドに見慣れない布の塊。


「はい、とりあえずノーブル様を確保したので二度寝しようかと…ふぁあ、というわけでお邪魔します」

そう言ってノーブルの横に枕を置くと布団に潜り込むアディ。


「…ぇえええ…頭良いのか…な?」

寝起きで頭が回らないノーブルは抵抗もせずに受け入れる。


「ですよね〜…スヤァ…」

ノーブルの体を全身で抱きしめると目を閉じるアディ。


「………ふぁあ…、ふむ、まぁいい、僕も寝るか…」

襲ってくる眠気にアッサリと負け、アディを巻き込んで布団を被るノーブル。


春の夜はまだ寒く、アディは目を閉じるとすぐ寝てしまった。ノーブルは数時間後の慌ただしくなのであろう未来の事を忘れ二度寝を決め込むのであった。


「やん、ノーブル様、お尻掴まないでください」

「いや…腕が下敷きになってたから動かそうとしただけ…」


「ふっふー、言い訳はいけません!」

何故かドヤ顔するアディ。今年10歳の女の子の成長がおかしな方向に進んでいる事にノーブルは微妙な表情をする。


「…あっそ」

アディの短パンに手を突っ込むノーブル。アディのツヤのある肌を滑るように撫でた。


「キャッ!えっ…あっん、ちょっ…と痛いです!痛い!痛い!ごめんなさい!ノーブル様ぁ!」

アディの尻を強めに掴むノーブル。


「なんか爺がシベック殴る気持ち分かったわ」

ノーブルは過去を振り返り、少女の悲鳴に何とも言えない顔をする。


その後、寝坊した2人は揃って悲鳴を上げるのであった。


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