第27話 夫婦と娘
ガルダ王国王都での【剣王エンヴァーン】の【冥王トーン討伐】の公式発表から1ヶ月が過ぎた。
【冥王トーン・討伐!!剣王最強伝説!!】
【剣王エンヴァーン=ヒノ=ガルダが語る三つ首魔王の実態!!】
【行方不明者の安否不明は変わらず!!恐怖の南部辺境!!】
【剣王が冥王討伐に使った宝剣カークスの素材は火竜の竜鱗!?】
【剣王の隠居先は双翼の二公の領地か!?】
【冥神を祀る聖女の夫は50歳差か!?】
【ミスリル鉱石に含まれてる魔力の特殊性に解明か!?】
【剣王引退!!宝剣カークスは相応しい者に譲られる!?3カ国武道大会開催か!?】
【我が儘お姫様!!双翼の二公の長男の縁談叩き割る!!】
【冥王の爪は未知の危険素材!?魔力を込めたものが体調不良に!!】
【役立たずの税金泥棒騎士団団長!剣王と決闘か!?】
【ガルダ王国王位継承権第二位メラハ様の恋事情】
【剣王の各国から弟子入り志願者殺到!!道場破りも多数!!】
【ガルダ王国東部のAランク冒険者ご乱心音楽活動に専念する!?】
【ガルダ王国東部で魔獣大量発生!!原因は竜?】
【宝剣カークスはAランクギルドの牛殺しの槌の形見か!?ドワーフ族からの調査申請!!】
【ガルダ王国西部の大盗賊団!!アジトを残して逃走!?】
【西の帝国王子は竜人にご執心か!?】
【消えた南部辺境伯爵家次男!!プルー湖付近で発見か!?多額の懸賞金もあり!?】
【剣王の空白の4年間の謎!!修行場所は竜峰か!?】
【魔窟!?プルー湖南部の生態!?】
【影が更に薄くなる炎王ライト=ヒノ=ガルダ引退間近!!】
【王都で水蒸気自動車事故再び!?発案者責任逃れで失踪か!?】
「…どう思うフィオさん」
「…お父様は人気者なんですね」
【獣人族の村・ワハシュ】
高原地帯にあるため平地というより坂道が多く見られる村。
その坂道に合わせて石を積んでいき建てられた蜂の巣を連想させる建物の周りには色鮮やかな庭があり、村の建物全体1つ1つに緑が生い茂っていて優しい印象を受ける。
広い道は少なく、まるで迷路の様だが。窮屈感は無く、木の看板やベンチ、道の脇を流れる水路のせせらぎなど、全体的に【カワイイ】という表現が似合う村である。
昼前なのもあってか大人も子供も忙しなく動いているが、全員が手を動かしながらチラチラとある一箇所を見ては去って行く。
村の1番大きな通りにある掲示板を見て立ち止まる少年少女2人。竜峰リャマ2頭。
お互い身長は130を超えておりスラリとした体型に目を引く。
少年は濃い肌色のターバンを頭に巻いていて髪の色が見えない。くすんだ茶色のローブを纏っており。背中には5枚程巻いた毛皮と【縦長の黒い革の筒】を乗せた鞄を掛けていて古臭い行商のような格好である。
少女は濃い茶色のターバン前髪を出しているが耳は隠れている。白いワンピースに小麦色ショールを肩に掛けていて少年と同じく毛皮を乗せた鞄を背負い【茶色の革の筒】を腰に下げた褐色の肌の少女も行商のようだ。
そして物凄いアンニョイな顔している竜峰リャマ2頭。竜峰ラクダと似ているが体毛用に飼育されている竜峰ラクダと違い、体も大きくガッシリしている。竜峰リャマは荷役、考えたくはないが一応非常食でもある。あと乗れるが馬ほどスピードは出ない。
「うーん、思ったより注目浴びちゃったなぁ」
「竜峰リャマや竜峰ラクダってこっちでは見かけないんですかね?」
「まぁ…リャマより馬の方が速いしね…体毛用の家畜くらいはいると思ってたけど、全くいないんだもんな…」
村に入ってからチラチラとリャマを見る周囲の視線が気になるのだ。
おかげでノーブルの顔を注視する人はいないのがせめてもの救いか。
高地で強い日差しを浴びてたせいか、結構日に焼けてしまった肌を見て変装する必要も無駄な気がしたノーブルは髪だけを隠した。黒いフードなんて怪しさ満点のものを羽織ったりでもしたら職質確定である。
「一泊くらいしても良かったけどね、買い物と休憩したら直ぐに発とうか」
「はい、私はそれで」
2人はリャマを連れて掲示板を離れる。緑に囲まれた街並みを歩いて行く。魚の養殖でもしてるのか大きな池で魚が跳ねた。
「【ベースキャンプ】の山小屋で補給した食料も丁度無くなりそうだったよね」
「はい、でも本当に良かったんですか?山小屋にあった食料を私たちだけで使ってしまって?」
「いいよ、来る時にぶっ壊した鍵は修理してあったし、鍵の場所まで記載した看板まであったくらいだ、そういうことでしょ」
「竜峰からいずれ帰ってくると…それなら直接竜峰へ訪ねにいらしても良かったのでは?」
歩きつつフィオは隣のリャマの撫でて、そしてノーブルに質問する。
「さっきの掲示板見る限りは一月以上かかる【竜峰訪問】してる暇はなさそうだけどね、【貴族様の大移動】もあるだろうしハーディス一家揃って王都にいる可能性もある」
「そうですかね?」
「ん?」
「いえ、ハーディス辺境伯爵様の領地内でお父様とノーブル様が別れたのが伝わっているなら一家揃っては無いんじゃないですか?」
「あー…それも…そうか…忙しいから誰もいないというのは安直だよね………おっ!あそこのお店良さそう」
村の通りの石垣に建て掛けられた小洒落た木の看板が目に入った。【ノクセク】という雑貨屋のものらしい。
ポンポンとリャマの背を叩いて座らせると、手綱を近くの木に繋いで看板のある石垣の階段を登りお店に入る。
カランカランという木製の扉についてた古びたベルが鳴る。
「あいよ、いらっしゃい」「いらっしゃいませー!」
品の良いエプロンと頭巾をかけ落ち着いた雰囲気の獣人族のおばあさんとフィオに近い年頃の娘が挨拶をする。
お婆さんの方は顔含めて全身が小麦色の体毛に包まれているが、娘の方は頭にある獣耳はだけで特徴的な体毛は無い。尻尾もないが変わりにポニーテールが揺れている。祖父か父母の出身が違うのだろう。
歓迎の声と共にお店に入ると木の匂いと花の蜜の匂いが混じった。優しい匂いがした。
目を引くのはコルクで栓をした大量の陶器である。大きいのから小さい、太いものに細長い物、様々である。
中にはシロップやドライフルーツ、木の実など入っているのか香ばしい匂いが漂う。
他にも木の皮を編んだカゴに毛糸玉や丸めた布生地。木炭や木の枝を束ねて作った箒に木の食器といった生活用品。雑貨屋の名に相応しい品揃えだった。
「はい、フィオさん」
そういってノーブルはフィオにジャラっと音を立てる小さい革袋を渡す。
「なんです?【ケール】様?」
革袋を受け取ったフィオは予め教えられていた【偽名】でノーブルに問いかける。
「外のリャマを道に放って置くのも何だし、買い物はお任せするよ、せっかくだし、分からないことは店員さん片っぱしに聞くといいよ」
「フフ、分かりました。お預かりしますね…何か欲しい物あります?」
「ん?そうだな特には…すいません、店主さん【干しブドウ】ってあります?」
「干しブドウ…レーズンかい?時期じゃないね、王都でも人気で商人が大量に買っていくからね…在庫もそこに出てる小瓶しかないし割高だよ。アンズなんかは丁度収穫の時期だから安くて質が良いよ」
「まぁ秋の果物だし無理か…にしてもアンズか…」
ノーブルが困った顔をする。その様子にフィオはクスリと微笑む。
「道中で実ってた野生のもの一杯食べましたからね」
【ベースキャンプの山小屋】から【獣人族の村】までの道中で野生に群生してたのを採ってノーブルたちは摘んでいた。つまりは食べ飽きたのである。
「あっ、お客さん!なら【山桃】【毛梨】を加工したのあるよ!」
すると商品棚を整理しつつ二人を見ていた獣人の娘は元気良く反応した。
「山桃か…ん?ケナシ?」
ノーブルが変な顔をしていると獣人の娘の商品棚にある小瓶の2つを取りコルクを開けてフィオとノーブルに見せる。
「こっちが山桃でこっちが毛梨ね!」
ノーブルが覗くと【山桃】は赤い粒々を集めた様な濃い赤い果物。ノーブルも道中見かけたことがあるため知っている。
「【毛梨】は緑色の実なんですか?」
「そうだよ!窓の外で生えてるあの卵みたいヤツよ!」
そう言われて窓の外を見ると緑のツル状にチクチクしそうな毛が生えたくすんだ緑の実がぶら下がっていた。【キウイフルーツ】である。
「…ん、ならこの2つを小瓶3つ分くらいまとめて買おうかな」
「はい、ありがとうございまーす!」
「あっ、そうだこの子に買い物頼むから色々教えてあげてもらっていいですか?こういった場は不慣れなのでお願いします」
「そうなんですか?分かりました!お任せ下さい!」
ノーブルの頼みに明るく返事をする獣人の娘。
「それじゃフィオさん後は頼むね。師しょ…フィオさんのお父さんから貰ったお金だし遠慮せず使っていいよ」
「分かりました、色々勉強させていただきますね!」
フンッと何やら意気込んでいるフィオ。そんなフィオを見送ってカランカランと扉をベルを鳴らして外に出る。
「パパ〜おウマさんいる〜でもねヘンなカオ〜」
「そうだね〜変な顔だね〜」
何やらリャマを置いてきた所から声がする。
石垣の階段を降りていくと夫婦と2・3歳くらいだろうか小さい幼女がいた。まるで絵画のような幸せそうな光景だったがリャマの何とも言えない顔のせいで何ともしまらない。
ふと思い出すのは4年前の入れ墨の幼女。彼女にもこういう優しい未来があったのだろうかと思うと少し悲しくなる。
ノーブルが黙って見つめていると夫婦がこちらに気付いたようだ。
夫と思われる男性は丸い眼鏡をかけ、暗めの髪を後ろでまとめている。知的な印象のイケメンである。茶色のベストと白いシャツ灰色のズボンと入った貴族のお忍びのような品の良い格好だ。
妻の方は金髪にフィオと同じくターバンで耳を含めて覆っている。実は流行っているのだろうか?とノーブルは変な思考が過る。腰まで掛かるローブに短パンを履いているのかスラリとした足が伸びている。主婦というより冒険者の狩人のようだ。
娘の幼女は大きな麦わら帽子被っているが母譲りの金髪がチラチラ見える。淡い緑のワンピース着ている。
夫と思われる眼鏡の男性はノーブルを見て驚いた後、リャマをポンポン叩く娘を離そうとする。
「あっ…申し訳ないです。勝手に…アディ〜おウマさんから離れてね〜」
「やー!」
「ええっ!?嘘っ!?ちょっ…ヘレネも見てないで助けて!?」
「そうね、困ったわね」
「それだけ!?助ける気無し!?アディ〜頼むよ〜…」
「やー!」
どうやら眼鏡のイケメンは娘がリャマを気に入ったのか離さなくて困ってるらしい。妻にもアッサリ切り捨てられオロオロしている。
ノーブルはクスリと笑うとイケメン夫婦に近付いて行く。
「大丈夫ですよ、連れがまだ店の中で買い物してるので、良かったら乗せてあげますよ?」
「ええっ!…あっ…そんな悪いです…」
「おウマ乗りたい?」
「うん!おウマさんのるー!!」
「……………………………お願いします」
「はい」
ノーブルの提案を慌てて断ろうとしたが娘の一声で折れてしまった。
ノーブルは夫妻の間に入り、リャマの荷物を下ろしていく。麦わら帽子の娘アディはノーブルをジッと見ていた。
「…」
「ん?どうかしたの?」
「ん〜ん?」
「そう?よいしょっと…はい、これで乗れるよ?」
リャマから荷物を下ろし終えたノーブルはアディに声をかける。
「うん、ノせて!」
アディはノーブルの前に小さな両手を広げた。
「アディ!?」
「…アディ?」
目を見開いて驚くイケメンの男性とその妻。
「ん?いいよ、はい」
ノーブルはアディを持ち上げ抱っこするとアディはノーブルの首に手を回した。
「ああっ…!?あれ?」
「…」
更に驚いた様子を見せる二人にノーブルは眉を寄せた。
「…どうしました?」
「あっ…いや、何でも…あれ?セレネこれって…?」
「…さぁ?」
「…?」
2人の反応にノーブルは訝しみながらもアディを乗せるとリャマの背をポンポンと軽く叩き立ち上がらせる。
「ワワッ…ワー!」
急な視点の上昇に驚いてリャマにしがみ付くが、すぐに周りを見渡して感嘆の声を上げるアディ。
「すご〜〜…!たかーいよ!パパ!ママ!」
「ははっ良かったねアディ、お兄さんにお礼言わないとね?何だっけ?」
「うん!ありがと〜ございます!」
「うん、どういたしまして」
ノーブルにお礼をいって再びリャマの上でキョロキョロしてキャッキャッと騒ぎ出す。
そんな娘が落ちないか心配そうに見守りつつノーブルを見て頭を下げる。
「すいません…いや、ありがとうございます。娘に気を使って頂いて…」
「私からも…ありがとうございます」
夫婦揃って頭を下げ、お礼を言う。
「いえ、大丈夫ですよ。ああ、それと…」
「はい?」
何やら言いかけるノーブルに眼鏡のイケメン夫が顔を上げる。
「ココで何してるんです?【シベック】」
イケメンの笑顔が硬直した。
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