捕獲


「つかまえたぞ! お前も来い!」


 久しぶりに連絡してきた友人の興奮ぶりに訳も分からないまま駆けつけてみると、幽霊を捕まえたということだった。


 それは、このところずっと彼を悩ませていた幽霊だという。外出しようとするたびに玄関のところにぬーっと現われては、出かけさせまいと邪魔していたらしい。


 仕方がないので部屋にこもって幽霊を捕まえる罠を作っていた、と彼は言った。


 どうやら、それがここしばらく大学で彼の姿を見かけなかった理由らしい。


 信じるか信じないかはともかく、これは変わり者で知られた我らの友人を、この黴臭い部屋から引っ張り出すチャンスだった。


 今度はどんな悪戯を思いついたのか知らないが、カーテンを閉め切った薄暗い部屋はゴミや物が散乱して足の踏み場もなかった。


 ろくに運動もしていなかったのだろう。睡眠だってまともに取れていないのかもしれない。彼は血走った目をしばたかせ、背を丸め、足を引きずるようにして歩くのだった。


「こいつだ!」


 彼は座卓を覆うようにして被せられた布切れを勢いよく引き剥がした。


 そこには足があった。


 より正確に言うと、片方の足の、足首から下の部分があった。


「本体は逃げやがったがな」


 そう言いながらも彼はほとんど誇らしげだった。幽霊を捕まえたなど前代未聞だろうとでも言いたいらしい。


 幽霊には足がないというが足じゃないかこれは、などと突っ込むのもバカバカしかった。よくできているがオモチャに決まっていた。それに、幽霊というにはちょっと実体感がありすぎる。


 彼はこれまで散々自分を悩ませた幽霊の足に向かって、たっぷり痛めつけてやると告げると、「けーっ、ひっひっひぃ!」といかにも趣味の悪い感じに笑った。


 この寸劇が終わるまで口を挟ませてもらえそうになかった。しかし、彼が台所から包丁を取り出してくると、さすがにこちらも身構えないわけにはいかなかった。


 そのとき気がついたのだ。彼の片足の、足首から下がなくなっていることに。


 あっと思ったが、何も言えなかった。


 痛くないのか、痛みも感じないほどおかしくなってしまっているのか、彼は座卓の上にあるのが自分の足だとは分かっていないようだった。


 彼はニタニタ笑って包丁を振りかざすと、かつて自分のものだった足に容赦なく振り下ろした。そして、快感に身もだえするようになって「けーっ、ひっひっひぃ!」と笑った。


 狂ったように笑いながら、彼は何度も何度も包丁を突き立てるのだった。

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