深川江戸資料館にて


 庄司エリ子です。十九です。大学一年生です。今日は大学の落研の仲間と一緒に、江戸時代のことを調べに深川江戸資料館に来ました。夏を満喫してます、庄司です。閉館時間も迫ってそろそろ引き上げようかってとき、私、一人で船宿の升田屋にいました。縁側の奥に厠があって、まぁ戸があれば開けますよ。厠に入ったら人ってまずどこ見ます? 穴の中見ますよ。現代なら便器の中だ。私はそうです。厠は床が四角く切ってあるだけです。はぁーとか思ってたら、その中にいましたよね、なんか子供が。穴の底でうずくまって、こっちを恨めしげに見上げる子供。出た! 出ました。ヤバイもの見たと思って、戸をばたんと閉めましたよね。エリ子、焦ったときは数を数えて。1、2、3。そう。4、5、6。落ち着くのよエリ子、深呼吸。もう一度開けて確かめてみたりしませんよ。私は何も見なかった。いや、だけど、じっとこっちを見てた。私は見られていた。見られているのを見た。見てしまった。つまり、やっぱり私は見てしまった。厠の中に、暗い穴の奥底に、子供がいた、男の子が。出ました。冷えたわー。えーマジ? 今のマジ? 超怖ぇ。怖いんですけど。うけるー。いるんだねー。この目撃情報、みんなに教えるべき? いや、話したらみんな面白がって厠に行くだろう。みんなで見れば怖くない。いや、怖くならない時はあっちで出てこないかも。あの子にも何か考えがあるのかも。そっとしておくべきかも。本日のショータイムはおしまいかも。江戸時代の子か、君は。まさか。この資料館ができたより後に決まってる。てか、マジでそういうこと? 迷子とかじゃないの? かくれんぼしてて誰も見つけてくれなかったとか。あそこに落ちて亡くなった来館者がいるか係りの人に訊いてみるべっきー? でもそれで口ごもられたりしたらイヤじゃない? おっと、先輩が呼んでます。エリ子はここよ。もう行かなきゃ。早く深川めし食いてー。




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