我輩はゾンビである

 我輩はゾンビである。名前はもうない。


 己がどこにいるのやら分からない。何をしているのやら分からない。何かが起きたような気がする。だいぶ前か、ちょっと前のことだ。何か目的があったような気がする。薄暗いじめじめしたところをさ迷っているうちに、すべてがぼんやりとしてきた。もう何も思い出せない。


 かすかに光が洩れている場所を見つけた。しばらく引っ掻いていると、板切れが崩れ落ちた。我輩は外に出た。あとに続くものがあった。我輩と同じような者たちだ。大勢だった。この者たちがどこから湧き出てきたのか分からない。ただ匂いのする方に向かった。


 我輩はそこで初めて人間というものを見た。あとで知ったところでは、それは数に限りがあったそうだ。我輩は、それを捕まえて食うという話である。そのときは考えもなしにやっていた。別段、恐ろしいとも思わなかった。ただ、すうと快感に満たされる感じがするばかりだった。


 明るくなったり、暗くなったりした。何かが起きたような気がしているうちに、我輩たちは増えた。すごく大勢だ。我輩と同じような者たちばかり見るのは、妙なものだった。その後、人間というものには一度も出くわしたことがない。いなくなった。だいぶ前か、ちょっと前のことだ。


 ときどき匂いがした。近寄ってみても何もなかった。いくら考えてみても、何をしに来たのか分からなかった。何か目的があったような気がする。ぼんやりと水と緑を見ていた。ときどき、人間という考えがふとよぎった。しばらくしたらまた見つかるのではないか。そんなことを考えた。


 緑の中を歩いていたら、穴に落ちた。縁は不思議なもので、そこには人間がいた。我輩はいきなり胸を突かれ、穴から放り出された。いやこれは駄目だと思った。我輩は再び穴に入った。するとまた放り出された。我輩は放り出されては入り、放り出されては入り、同じことを繰り返したのを記憶している。


 そのうち、すうと快感に満たされた。


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