墓地に住む

 俺の住むアパートは一階部分が駐車場になっていた。その上に鉄骨を組んで、二階に三部屋の住居があり、俺はその真ん中に入居していた。


 その駐車場がいつの間にか墓地に変わっていた。


 もともとこの辺りは墓地が多く、窓を開ければすぐ裏手も墓地だ。下も墓地になったからといって何か不都合があるわけじゃなかった。それに、もともと相場よりだいぶ安かった家賃を更に下げてくれるという。線香の匂いは絶えないし、念仏で起こされるようなこともあるが、我慢できないことじゃなかった。


 ある日、アパートの階段の最下段に墓が建っていた。


 階段の幅半分に、細長く薄っぺらい墓石が置いてある。一階部分が早くも埋め尽くされ、階段まで侵入してきたのだ。下が地面じゃなくてもいいらしい。


 外出する度に下段から順に墓が建っていくのが分かり、階段は狭くて不便になった。


 さすがにこれはない。そう思って不動産屋に苦情を言おうとしたが、そんなエネルギーの要ることは俺にはできなかった。だが、こんなことが許されていいはずがない。俺が何も言わなくても、不動産屋か大家か、誰かが何か手を打ってくれるだろう。


 そうこうしているうちに、二階の通路まで墓が建ちはじめた。図々しい奴というのはどこにでもいる。誰も待ったをかけないと、平気でこういうことになる。


 やはり苦情を言わなければと思ったが、今更何かしたところでもう手遅れだという無力感に襲われ果たせなかった。カウンセラーに相談すると、妄想の症状が出たのかと心配された。分かってはいたが、誰も信用できない。


 台所で向こう脛を思い切りぶつけた。墓があったからだ。


 俺は不安になった。考えてみると、墓というのは増える一方で減ることがない。このままでは、いずれどこもかしこも墓だらけになってしまう。


 トイレに行くにも洗濯物を干すにも、墓が邪魔で仕方ない。どこを向いても常に墓が見えるから気分も沈みがちになる。身体を伸ばして寝ることさえできないし、それに毎晩妙に寝苦しい。墓参りに来た奴が俺を見つけてわっと驚く。失礼な話だ、人の部屋に勝手に上がりこんで。


 両隣の奴らもまだ住んでいるようで、ときどき物音が聞こえてきた。壁越しにお経が聞こえることもあるから、やはり墓場になっているんだろう。世の中は平等じゃなきゃいけない。


 引っ越すことも考えたが、やらなければいけないことの多さに逆に何も手をつけられなくなる。何より金がない。俺は今働いてもいない。だからここの格安家賃は助かる。だがしかし、いずれ金は尽きる。


 そうしたらどうなるのか。飢え死にするんだろうか。すでに供え物を盗み食いして空腹をごまかしている現状だ。


 俺が死んだって墓が一つ増えるだけだ。いや、いったい誰が身内に縁を切られた俺の墓を建てるというのか。


 それより、この部屋に住んでいればオプションか何かで、ある日、誰かが、俺の頭の上に墓石をどかんと落っことしてくれて、色々な手間を省いてくれるかもしれない。

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