殺人怪談

 その晩、ヨシオはインスピレーションに駆られて、その短い文章を一気に書き上げた。


 怪談だった。手応えがあった。


 読み返してみると、自分で書いたものであるにもかかわらず、あまりにも怖くて背筋がぞくっとした。


 その直後、彼は突然苦しげに胸を押さえ、床に倒れ込んだ。


 駆けつけた妻のチカがあわてて救急車を呼ぼうとすると、彼はいいから送信ボタンをクリックしろとうめくように言った。早く。


 チカは言う通りにした。


 改めて助けを呼ぼうとすると、ヨシオはすでに死んでいた。


 こうして、ヨシオの書いた掌握は深夜十二時の締め切り直前に、ある怪談公募サイトに投稿された。それは爆弾だった。一夜明けるまで誰もそのことに気づかなかった。


 翌朝、全国各地で百人に迫ろうという数の人間がパソコンの前で事切れているのが発見された。ネットでヨシオの書いた怪談を閲覧した怪談ファンや他の投稿者たちだった。


 全員がその公募サイトの同じページを開いたままだったことから、死因は直ちに判明した。


 極限の恐怖によるショック死。


「そんなバカな」


 捜査に当たった警官がすでに何人も犠牲になっているという話に耳も貸さず、津田刑事はてんからバカにした様子でその怪談とやらを読んでみた。


 軽蔑を丸出しにしてふんふん鼻を鳴らしながら読みはじめた津田刑事だったが、まもなくふごっと息が詰まるような音を出すと、ひっくり返って息絶えた。


 投稿者の身元はすぐに割り出された。


 訪れた二人の刑事に状況を知らされると、チカは信じられないというように首を振った。彼女はもう何年も前から夫が書いた作品を読まなくなっていた。理由は明白だった。


「素人の私が言うのもアレですけど、あの人には才能のカケラもありません」


 ヨシオの投稿した怪談は、タイトルが空欄になっていた。彼にはそれを決める十分な時間がなかったのだ。


 それはいつしか「殺人怪談」と呼ばれはじめた。

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