バスツアー

 変ね、また一人多い。


 添乗員の真央は、秋の陸奥バスツアーに団体で申し込んできた22人のはずの爺さんたちを数え直した。23人いる。もう五年もやっている仕事だ。数字にも強い。確かに年寄り相手に言うことを聞かせるのは難しいが、ただの点呼でそう何度も数え間違えるはずがない。なのに、また23人だ。これで三度目。前回も前々回も、みんなで数え直してみたらちゃんと22人だった。


 爺さんたちは互いに顔を見合わせた。全員町内会の顔見知りだという。「全員だよ」「みんないる」「いるいる、全員」爺さんたちは口々に言うと煩わしいのはゴメンだとばかりに、それそれと真央をバスの中に押し込んだ。


「ちょっと!」どさくさにまぎれて腰まわりや尻を触られた真央は、思わず声を荒げた。しかし、席に着いた爺さんたちを睨みつけてもう一度数えてみると、今度は22人なのだ。真央は狐につままれたような思いだった。


 バスは山道の下りに差し掛かっていた。遠くの山間に湖が見えるカーブで車体が傾いて、あっと思ったときにはガードレールを突き破っていた。落下したバスは、頭を下にした状態で何とか木に引っかかって止まった。

真央と22人の爺さんたちは、バスの底で揉みくちゃになった。いや、真央一人が爺さんたちに揉みくちゃにされていた。爺さんとは思えない力で押さえつけられて、少しも動けなかった。いやらしい手や指や舌が、これが生涯最後のチャンスとばかりに切羽詰った様子で真央の体中を這いずり回った。あちこちがぬめって、ひどい不快感があった。落下の衝撃で頭がずきずきと痛んだ。


 ふと、襲い掛かってくる爺さんたちの中に、死んでいる者が何人かいることに気がついた。爺さんたちは、死してなお真央の女の部分を目指してくるのだった。ぞっとしたが、されるがままになるしかなかった。うぅ、はぅ。爺さんたちの唸り声が、地獄と化した宙ぶらりのバスに充満した。

 

 真央ははたと目を覚ました。バスは山道を下りはじめ、遠くの山間に湖が見えるカーブに差し掛かるところだった。あっと思って横を見ると、運転手がうつらうつらしていた。咄嗟に声をあげようとした瞬間、後ろから爺さんの一人が真央の肩を掴んで言った。


「なんか一人多いみたい」


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