怪奇巨乳娘 夢なら覚めないで
駆け出しのアイドルIが亡くなった。窒息死であった。巨乳を売りにしていたIである。寝ているときに自分の乳が喉元に垂れてきて、それに呼吸を止められたのだった。所属事務所は詳しい事情を明らかにしなかった。
高野夫妻は結婚七年目、ようやく子供にも恵まれ円満な家庭生活を送っていた。そんなある日、妻の美紗子は夫の研治がひどくやつれていることに出し抜けに気がついた。頬がこけ、目の下には隈が濃い。まったく急な変化だった。
心配する美紗子に、研治は「ちょっと寝不足なだけ」とぶっきら棒に答えた。同じ時間に布団に入ってるし、子供が夜泣きしても起きないくせに、睡眠不足? 美紗子は妙に思ったが何も言わなかった。こっそり顔を伺うと、研治はなぜかニヤついているように見えた。
仕事は毎日ちゃんと行っているらしかった。多少残業することがあっても、家には真っ直ぐ帰ってくる。陰で携帯をいじっている様子もない。もちろん夜だって毎晩ぐっすり眠っているし、こっそり布団から抜け出してるような気配も微塵もない。それでも美紗子は、研治がよそに女を作ったのではないかと考えずにはいられなかった。
疑惑に眠れぬ夜を幾晩か過ごしたある深夜、浅い眠りにあった美紗子は夫の苦しげな唸り声に目を覚まされた。ところが、どうしたのかと起き上がろうとすると、金縛りにあったように身体がぴくりとも動かなかった。そんな経験は初めてだった。研治の切迫したうめき声が聞こえた。すぐ隣で何か異常事態が起きているようだった。
美紗子は必死になってそちらを向こうとして、何とか横目に夫の姿を捉えた。研治の上に若い巨乳の女が馬乗りにのしかかっていた。前のめりになった女は、その巨大な乳を研治の顔にぐりぐりぐりぐり押しつけていた。「うぅ」「あぁ」研治の声は、むしろ喜びに悶えているように聞こえた。美紗子に殺意が沸いた。
ふいに身体の自由がきくようになって、美紗子は布団から跳ね起きた。と同時に、巨乳女も身体を起こして美紗子の方にすうっと向き直った。美紗子はぎくりとなって、また動けなくなった。ずいぶん長い時間に感じた。巨乳女は、美紗子の肌蹴た胸元を一瞥すると意味ありげにふふっと笑って、そのまま幻のように消えてしまった。美紗子は己の貧乳を笑われた気がした。
再び自由を取り戻した美紗子は、研治を蹴り起こした。素敵な夢から覚まされた風の研治の襟元を掴み、巨乳女のことを問い詰めた。ところが、研治は何も知らない、何のことか分からないとシラを切ったのだった。屈辱にも程があった。
それから数ヶ月のうち、東京都内で睡眠中に謎の窒息死を遂げる怪死事件が相次いだ。被害者はいずれも男性。どのケースも、まるで何かとても柔らかいものに顔を挟まれていたかのようなニンマリした死に顔だという。高野夫妻は間もなく離婚したという話が伝わっている。少なくとも研治は死なずに済んだ。
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