俺の拳に一つの想い。必ず届くと信じている


 俺が沙那と約束した場所。

 GPSを頼りに滅多に近寄らない森の中へ踏み入ると、見覚えのあるアジサイの小路が俺を待っていた。


 あの日、沙那と俺。

 並んで雨の空を見上げて口を開いてた小路。


 沙那が、今、甘かったとか言うから。

 俺もムキになって大口広げて。


 そしたら、多羅たら高の制服を着た姉ちゃんが振り返りながら言ったんだ。

 しー君、しーちゃん。虫歯になっちゃうわよって。


 慌てて口を閉じて、姉ちゃんの傘を追いかけて。

 俺が赤い傘。沙那が青い傘。

 並んで歩いた先に建っていたのは…………。


「間違いない! あの教会だ!」


 いる。きっとあそこにいる。

 待ってろ、沙那!


 俺の遥か後ろでわめき散らす花蓮の声。

 いったん止まって作戦を立てるだのなんだの聞こえるけど、わりいな。

 今の俺を止めることができるのは、沙那の笑顔だけだ!


「待ちなさい変態! さっき話した通り、沙甜から今朝預かった封印呪だけが切り札で……、って、人の話を聞きなさいよ! 作戦会議!」

「それは俺が突撃した後ゆっくりやってろ! 待ってろ、沙那ーーーーーー!」



 ………………。



「なーんて熱いセリフを叫ぶほど、若い時代も俺にはありましいだだだだだっ!」

「はぁ。絶望的な状況だった十秒前が懐かしいわ。もう絶望すら感じない。なんであんたはかけらほどの希望を面白おかしく消し去っちゃうのよ」


 両開きの扉をバーンと開いて、教会の中央あたりに立ってた治人に殴りかかったところまでは覚えてる。

 でも、そこからこの姿勢になるまでのコマが記憶にない。


 気付けば天井が見える。

 そして俺の周りから大量の埃が舞い上がる。

 あっという間の仰向けダウン。

 圧倒的な実力差。


 普通なら恐怖におびえるところだろう。

 でも、俺を和ませるものが二つもあるせいでビビったりしねえ。


 一つは、また治人に触れられたんだろう、ふらっふらになったまま俺にのしかかって感電させるバカ。

 苦しそうにしてはいるけど、まだ息があるようで安心した。


 もう一つは仰向けに倒れたせいで見えた、天井に掴まるハト。

 緊張感ねえなあお前。

 その金ダライの落書き、なんの真似だよ。


「……さて、そのかけら程だった希望も断たれた君たちは、どうする気なんだい?」

「てめえ! はるひいででででで! お前をぶんなぐぐぐぐぐぐっ!」

「その状態でかい?」

「腕は! 動くっ! でも他は無理だから、沙那のおっぱい揉むことくらいしかできないけどねっ!」

「あははは! 君はこんな状況でも相変わらずだね……」


 うるせえな、この状況じゃ悪態か冗談しか言えねえだろうが!

 おい、我が家の天才! これなんとかしてくれ!


 扉の外、呆れ顔で俺を見つめる金パツインテ。

 そんな花蓮が、細い顎を軽く引いて意味深に頷く。


「……変態。あんたそれ、覚えときなさいよ?」


 なんだそりゃ。


 覚てやがれってことか? それとも今のセリフを覚えなさいってこと?

 ……俺が言った言葉って、どれだよ。

 沙那のおっぱい揉む宣言しか覚えてねえぞ。


「治人様! もうやめて!」

「そうだぜ治人様! 今ならまだ間に合う!」

「治人様、何が望みなの?」


 花蓮に並んだ、チーム・ロワイヤルの三バカから聞こえる必死な声。

 それを聞いた治人が、眉根を寄せる。

 どうやらあいつらが反対することが気に入らないみたいだな。


 ……おお、そうだ。

 朱里ちゃんの鞭で綴夢ちゃんをこっちに放り投げてくれ。

 『罰』の射程距離に入ったら、この電気ウナギはチビ助に寄っていくからな。


 俺は天才か?

 さて、この天才的な作戦を朱里ちゃんに……、あれ?


 扉に並ぶ影は四つだけ。

 朱里ちゃんがいない。


「僕の望みを君たちが理解してくれていないとはね。心底残念だ……」

「てめえの望みなんてだれにも理解できるわけねえだろ。ここんとこめちゃくちゃじゃねえか。全部、魔眼が開いたせいか?」


 首を動かす度に激痛が走る。

 そんなしかめた顔で治人を見ると、何やら寂しそうに俺を見つめ返してきた。


「君にも理解できないのか。……そうだね、僕の望みを言っておこうか、雫流」

「おお、最初からそうしろっての」

「君が好きな、紅威さん。彼女を永遠に手に入れることができないと知った時、君ならどうしたいと考える?」


 なんだそりゃ。


「ぜってえ諦めねえけど」

「……いや、前提を理解してくれ。どうあっても手に入れることができない場合、彼女を消してしまおうと思うだろう?」

「思うわけねえだろ! 俺はなにがなんでも諦めねえからな!」


 ……なんだよ当たり前じゃねえか。

 なんでてめえは、こめかみを押さえつけて溜息をつく。


 そんなやり取りをしていたら、体の上からいつもの厭味ったらしい笑い声が聞こえてきた。


「うへへへへっ! さっすがウチの姫。バカだなぁ」

「なんだよてめえまで! どけやこら!」

「いや、体中に針が刺さってるみてぇだ。まるで動けねぇ」

「動けねえ奴がバカとか言うなバカ!」


 ああもう、ほんとどいてくれ!

 そろそろ電撃の痛みが限界に達してきた!

 意識がもうろうとする……。


「バカとか言ぅんじゃねぇよバカ姫。褒めてやってんのに」

「いつからバカって言葉が褒め言葉になったんだ? じゃあてめえなんか天才だ!」

「へへっ……。てめぇがそうやって紅威のこと諦めねえから、ウチも治人も、好きなヤツのこと諦められねぇんじゃねえか。……そうさ、治人ならぜってぇ諦めねえ」

「……僕がフルーレティだから、諦めたとでも言いたいのかい?」


 こいつ、沙那に負けねえほどの嫌味顔で見下ろしやがって。

 こんな顔もするんだな。初めて知った。


「さて、無駄話はここまで。もう誰の意見も聞く気はないよ。皆さんにはご退場願おうか。僕に必要なのは、この二人なんでね」

「あら残念ね。でも、もうちょっとお相手していただこうかしら? ……だって、せっかく私たちの勝ちが見えたんだから」

「どういう意味かな?」

「あなたは白銀治人じゃない。ただの大精霊六柱、フルーレティ。沙那と、その下敷きが教えてくれた」

「…………その方が倒しやすいとでも?」


 花蓮と治人。

 その立ち姿はまるで昨日のドラマの感想でも話しているよう。

 でも言葉の剣が必殺とばかりに振り下ろされて、お互いに火花を散らす。

 

「あなたは、雫流の事を知らない。その男が持ってる唯一の能力を知らない」

「超回復のことか。それは君の勘違いさ、彼の能力じゃないよ。僕が一番、彼の事を知っているんだ」

「いいえ、あたしの方がよく知ってるわ。その男が持ってるスペシャルな能力は、ゼロパーセントの可能性を1パーセントにできることよ。なんたって、腕が動くなんて奇跡、ある?」


 おお、花蓮。

 俺のかっこよさ、やっと分かってくれたか。


 でもすまん。

 そこまで持ち上げてくれといて心苦しいんだが、俺、首から上と右腕以外まったく動けないんだけど。


 キャッチコピーは『役立たず始めました』。


 できることと言えばただ一つ。

 お前の言った通り、こいつのでかい胸を揉むことくらい。



 ……おおいかん、ちょっとドキドキしかけちまった。



「言ったはずだ。もう、誰の話も聞きたくないと。可能性がゼロから1になったところで君たちには何もできないんだ」

「いいえ。あたし達は、1パーセントでも可能性があったらそれを100にする力を持っている! 朱里っ!」


 花蓮の叫び声と共に、治人の背後から鮮血のように赤い鞭が襲い掛かる。

 治人はそれを振り向きもせずに腕で弾きながら、正面から一瞬で飛びかかって来たキースの拳を指一本で止めた。


「……無駄だ」


 すげえ。


 すげえぜ、さすがは俺たちの司令官。



 …………二つもおとりが飛んだら、本命が隠せるってわけだ。



「ぐおおおおおおおおおおっ! はぁるひとおおおおおおお!!!!!」

「くっ! 沙那! 貴様っ!」


 激痛に耐えながら、沙那が治人の足を掴む。

 魔眼を開いた悪魔とは言え、数秒は痺れて動けない。


 その数秒で、朱里ちゃんの鞭が俺たちの『ワイルドカード切り札』を治人に叩きつけた。


「ぐえっ! いだぐないっ!」


 絵梨さんの祝福ブレスで防御された綴夢ちゃんが治人の腹にしがみつく。

 でも、当然沙那の『罰』がターゲットを無理やり変更させられる。


 体をろくに動かすことができない沙那の腕が治人の足を離して綴夢ちゃんの方へ向くと、治人は腹に綴夢ちゃんを抱えたまま数歩だけ俺たちから離れた。


 …………さて、司令官。

 俺にはちゃんと聞こえてたぜ。

 お前がって言ってたことを。


 これがどんな結果を生むのかまるで分からねえ。

 分からねえけど、俺はお前と『八人目』の相棒を信じる!


 綴夢ちゃんを目指して、いや、こいつの頭に落ちればいいんだな!



 あの、落書きしてあるタライが!



「ひゃっ!? こら姫! なにしやがっ!? いやーーーーん!」

「うおおおおお!!! やわらけーーーー!!! ドキドキするっ!!!!!」


🐦ガンッ…………




 …………パリッ




 ……………………バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!!!



「こ、これは!? …………ぐぅぅぅぅぁぁぁぁあああああっ!!!」


 抱き着いていた綴夢ちゃんを剥がす直前、治人の頭にタライが直撃。

 すると、体中に稲光を這わせながら体を硬直させて叫び出した。


「触れた者の魔力を糧にその体を縛り付ける電撃結界よ。あなたの強大な魔力が尽きるまで、何世紀でもそうして発動し続けるわ」

「ああああああああああああああああああああっ!!!」


 朽ち果てた教会を埋め尽くさんばかりの絶叫。

 耳にしたものすべてがその絶望的な光景を目に、指一本動かすことができない。


 …………最強の魔眼。

 俺たちは、それを封印することに成功した。


「あああああ! ぐあああああああああああああああっ!!!」


 ……でも。


「ちょっと……っ! 変態! 危ないわよ!」


 沙那が暴れたせいで解放された体は、至る所から軋みが聞こえる。

 でもな、今動かねえでどうするよ。


「苦しそうだな、治人。…………今、助けてやるから待ってろ」

「何考えてんだ、姫っ!」

「雫流! ちょっと待って!」

「変態! やめなさい!」

「うるせえ!!! 俺は、バカな事ばっかやってるこいつをぶん殴りに来ただけだ! こんなに苦しそうな思いをさせるために来たんじゃねえ!」


 どいつもこいつも、頭いいくせになんでそんなことも分からねえ!



 俺は、バカなんだよ!

 止まるわけねえだろ!



「やい治人っ! ぶん殴られたくなかったら、俺が納得できる返事をしやがれ!」

「ぐうっ! がはっ…………、はあっ! はあっ!」

「てめえ、好きな女ぁ手に入れようとしてめちゃくちゃやったんだよな! だとしたら許してやる! さあ、答えろっ!」

「はぁ…………、違う。手に、入らないから、一緒に消えようとした…………」

「こんの……っ! 大馬鹿野郎っ!!!」


 完全に硬直して、まるで鉄みてえに硬い治人の腹に渾身の拳を叩き込む。

 すると俺の右腕も稲光に包まれて、沙那から食らう電撃の比じゃない激痛が脳天まで突き抜けた。


「きみ…………、は、なに、を…………」

「バカな俺にだってこれぐらい分かる! いくら嫌われようが、諦めんじゃねえ!」

「いや、無理だ。…………僕は、このままここにいようと思う」


 右腕が痛い。

 治人の方が、きっともっと痛い。


 …………でもてめえは、そうやって楽しようとしてるんだよな?


「ふざけんじゃねえ! 諦めるんじゃねえよ! 好きだったら、その気持ちを抱えたまんま悶えろ! 苦しめよ!」


 治人の赤い目が、激痛に見開いた目が、俺を見つめる。


「ああ分かるぜ! 誰かを好きになるってな、苦しいさ! でも逃げるんじゃねえ! 悪魔の力に頼るんじゃねえよ!」

「逃げ…………? 僕が?」

「おおよ! それがわかったら…………、とっとと! その赤い目を閉じろ!」

「だか、ら……。僕は…………」


 俺を凝視したまま震える赤い瞳。



 ……それが、元のグレーの色を取り戻すと共に、電撃は嘘のように消えた。



 そして俺の胸に倒れ込む治人が、かすれるような声を絞り出す。


「だから僕は…………、君が、嫌いなんだ」

「そうかよ、構わねえぜ。……俺は勝手にお前の事を親友だって思ってるけどな」


 ふふっと笑う治人の声が聞こえると、チーム・ロワイヤルのみんなが駆け寄って来た。


 治人に飛び着いて泣きじゃくる綴夢ちゃん、絵梨さん。

 二人が全身で主の帰還を喜ぶ脇で、キースもその瞳に涙をためていた。


「……これで白銀は、二度と魔眼を開くことはないわ」


 魔眼の無い悪魔。

 それは人間と何ら変わらねえ。

 この状態なら、魔力なんか練れねえから変な電撃だって生まれる訳がねえ。


 でもな。


「姉ちゃんの変な呪い、効果は切れたんじゃねえかな」

「え? うそ」

「多分ほんと。でも、こいつはもう魔眼なんて開かねえだろうけど。……俺の親友は、そういう奴だ」

「……僕も知っている。僕の親友が、ずっとそれを信じてくれるってことをね」


 ああ、安心しろ。

 それに何度裏切られたってかまわねえし。

 いつだって、俺がぶん殴って思い出させてやるよ。


 ようやくいつものかっこつけた笑顔で俺を見つめた治人が、しがみつく二人を引きずるように床に崩れる。


 限界だったみたいだな。


「…………絵梨。急いで美優様に連絡をしてくれ。バカ息子は、命がけで想いを貫くことにしましたと、そう伝えてくれ」

「はい、分かりました」

「じゃあ変態、あたし達は先に行くわ。三人で話したいこともあるでしょ、後から来なさい。……じゃあみんな! 帰るわよ!」


 朱里ちゃんも、綴夢ちゃんも。

 一瞬だけ心配そうな顔を浮かべたけど、すぐに笑顔を浮かべながらみんなの後へついていく。


 そして俺たち満身創痍の床にぶっ倒れたままトリオが残されたわけだが。


「なに言ってんだあいつ? 別に三人だけで話すことなんかねえよな?」


 俺の言葉に、沙那と治人は顔を見合わせて大笑い。

 また、あれですか?

 なにか変な事言いましたか?


「こら、なんで笑ってんだよ!」

「がははははっ! ……姫、てめぇはあれだな。やっぱバカだな」

「知った風な事言ってんじゃねえぞ? それは俺の方がよく知ってるんだからな!」

「はぁ、ほんとバカなやつだ。何にも分かってねぇてめえばっかり幸せそうで羨ましいぜ。……おい優男、ウチの姫に近付くんじゃねえぞ?」

「ふふっ。何を言っているんだ、沙那。君がどこかに消えるといい」

「あぁん!?」


 ああもう!

 なんだよお前らはいつもいつも!


「いちいちケンカすんじゃねえよお前ら! 仲がいいのかわりぃのか!」

「仲良しだよ、僕らは」

「その仲良しさんを殺そうとしやがったのは誰だコラぁ!」


 この一件を経て、ようやく俺にも分かった。

 治人の落ち着いた態度、優しいわけじゃねえんだ。


 ケンカ腰。氷の刃。

 お前、諦めねえって宣言したばっかじゃねえか。

 なんで好きな女にそんな態度とるんだ?


「ったくよ! おい、姫!」

「んだよ」

「てめえ、責任とってくれるんだろうな!」

「なんの」


 気付けば俺までケンカ腰。

 花蓮の気遣い、三人で話しなさい。

 ……まさかあいつ、こんな厄介なことになってるとは思ってもいねえだろ。


 口を尖らせた俺。

 怒髪天を突く勢いの沙那。

 ニヤニヤ顔の治人。


 ……とんだ仲良しトリオだ。


「なんで偉そうなんだよてめぇ! ウチの胸、散々揉みやがったろうが!」

「ああ、そんなことか」

「そんなことじゃねえだろ! 責任とれっ!」

「バカか? てめえは王子だろうが。姫ならともかく、なんで王子の胸揉んで責任とらなきゃなんねえんだよ」

「タライ落とした奴が言うか!? バカかてめえは!」

「手前こそバカか? 高校生男子なめんな! 相手がてめえだってことを瞬間的に忘れることくらいできるんじゃ!」


 売り言葉に買い言葉。

 とうとう引導を渡された沙那が大の字に倒れ込む。

 へっ! ざまあみろ!


「……なあ、ウチ、やっぱり諦めてもいいか?」

「それ、君が僕に聞くことかい?」

「へへっ…………。ウチの事を分かってくれるやつがいる。それだけでも救われるってもんか」

「いや? 僕は君の事を認めたりはしないよ?」


 沙那が、俺にはトンと分からない会話の果てに大笑いしながら起き上がる。


 心から愉快そうに。

 爽やかで、凛々しい笑顔。



 ……久しぶりに見た気がするよ。

 それ、俺が大好きなヤツだ。



 なんだか分かんねえけど、楽しそうでよかったよ。

 治人については処分だのなんだのあるだろうけど、そんなこと分かったうえで、こうして一緒に笑ってるし。


 ……一件落着、なのかな?


「おお、ブラウスもビリビリだ。姫、これぐれぇ弁償してもらうぞ」

「何で俺がべんしょ……っ!? 具がっ!! 零れてるっ!!!!!」


🐦🐦🐦🐦🐦ゴガガガガガンっ!!!!!


「ごああああっ! 頭が肩と肩の間にめり込んで無くなるわ!」


 今までの痛さじゃねえぞこれ?

 ……まさか、罰がグレードアップしてる!?


 青ざめる俺の気持ちを知ってか知らずか、ここぞとばかりに企み顔が迫って来た。


「んだよ姫~! ウチで興奮してんじゃねえか~!」

「四つん這いで近付くなっ! まるで水風船両手持ちっ!!!」


🐦🐦🐦🐦🐦ゴガガガガガンっ!!!!!


「ぐおおおおっ! これやば……、意識が……。てめ、今はらめ! だきつくんじゃねばばばばばばばばばばばばば!」


 頭の激痛と体を締め付ける電撃。

 俺をいたぶってご機嫌そうな女と、意外にも腹を抱えて大笑いする治人。



 ……こうして命がけの非・日常は、間違いなく終わった。


 そして。


 再び命がけの日常が幕を開けることになったわけだ。




 ……バカじゃねえの!? それじゃ何も変わんねえじゃねえかっ!!!




「はななななれれれれれっ! バカおうじじじじじじっ!」

「姫~! 照れてんじゃねえぞこの~! うりうりうりうりりっ!」




つづく



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