第二話

 その後片付けも道路掃除人の仕事であり、ペリルもそのような行き倒れの者を、どれだけ墓所に運び込んだか知れません。

 ただ、すべての力を使い果たした躯はとても軽く、魂分の重さが抜けただけとは思えないほどでしたから、それは重労働ではありません。

 また、なによりも躯が持っていた僅かばかりのお金は、道路掃除人達の臨時収入となります。

 ですから、そろそろ亡くなりそうな信者達の周りには道路掃除人達がまるで死黒鳥のように群がっております。

 ところが、ペリルは誰もが「移るかもしれない」と言って嫌がる業病の信者だけを運んでおりました。


 そして、きっかけが何であったのかは全く分かりませんが、ある日からペリルは、教会の目の前にある道から順に、石を置くようになりました。

 石は町の外の荒れ地から運んできます。

 それを教会の階段の下にある土の上に置きます。

 最初、歩行の邪魔にしかならないその石は、歩行者や教会の司祭によって即座に取り除かれました。

 しかしペリルは、いかに歩行者に邪魔者扱いされても、教会の司祭から怒鳴りつけられても、石を置くことをやめようとはしませんでした。

 そして、とうとう根負けした教会の司祭たちが白い目で見る中、彼は道に石を敷く作業を延々と続けるようになります。

 最初のうちは邪魔だった石も、歩行者が踏むことで土に食い込み、ならされていきます。一年もすると大聖堂の前はおおむね石で覆われ、それが均されて格段に歩きやすくなりました。

 ただ、それによってペリルが褒められたかというと、決してそのようなことはありません。

 彼は相変わらず、誰も目を向けようとしない道路掃除人であり、町の人々は小さな変化の積み重ねに気が付くこともなく、時折「なんだか歩きやすくなったな」と考えるだけでした。

 それでもペリルは、道路掃除の合間、躯の後片付けの合間に、黙って石を敷き詰めていきます。

 大雨で石が流されても、端のほうを馬車で崩されても、何も言わずに石を敷いていきます。


 それが大聖堂を起点とした一ゲールの範囲を超えた頃、王都の中央教会から大司祭様がアルスライムにお見えになることになりました。

 さて、そこからが大騒ぎです。

 大司祭様がお越しになることなんてめったにありませんから、教会の司祭達は建物内を隅々まで掃き清めていきます。

 そして、教会の意向を汲んだ町の役人達は「不浄の者」を掃き清めようとしました。

 その中には貧しい信者や、道路掃除人が含まれます。彼らは大司祭がやってくる前の日に、町の外に追いやられてしまいました。

 しかも、その前までは役人達が総出で監視している中、全力で掃除をしなければなりませんでしたし、時間になると食糧すら与えられずに町の外に追い立てられます。

 ペリルは町外れにある崩れかけた屋敷の中で、空きっ腹を抱えて夜空を見上げながら、寸前に敷いた石が崩れていないかどうかを心配していました。


 そして、王都から大司祭様が大勢の従者を従えてアルスライムにやってきます。

 華やかな音楽が姿が見える前から聞こえてくるほどで、それはまるで神様の降臨のようでした。

 実際、当時の大司祭様は腐敗した教団組織の中で唯一といえるほど高潔な人物として敬愛されておりましたので、神様といっても間違いではありません。

 大司祭様は高い輿こしの上からあたたかな眼差しで、町の人々を見回しておりましたが、町の中央にある教会まで残り一ゲールのところに来た時、急に従者に命じて、輿を止めさせました。


 大司祭様はゆっくりと輿から降りて参ります。

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