第2話1

美桜みお、みーおったら。また異世界してるでしょお?」


 下校時に正門の脇の桜の木の下で、風に泳ぐ花びら達に見とれていると、後ろから幼馴染みの友里奈に言われた。


 この子は異世界ネタが好きで、マンガも小説もその手の物を集めている。いわく『中2が中二病で何が悪い!』だ、そうだ。…別に悪いなんて言ってないのに。


「異世界なんて行かないわよ。それより、部活無かったんだ?」


 友里奈は吹奏楽部だ。うちの吹奏楽は結構気合いが入っていて、春休みはほとんど無かったみたい。私の所属する美術部は、今日はミーティングだけだった。


「顧問の武田先生が離任しちゃったでしょ?新しい先生に代わったから顔合わせだけだった。先輩達は練習したそうだったけど、先生が、たまには早く帰りなさい、良い演奏の為には季節をきちんと感じて来なさい、だって!ちょっと面白い先生かも。」


「若い先生?これから音楽も担当するんだよね?」


「若そうだよー。音楽の授業はどうかなあ?藤平先生がいるじゃん。合唱部担当の。」


「あ、そっか。名前は?」


「吉野だって、…ってか苗字しか覚えてない。」


 生徒が学校の先生を下の名前で呼ぶ事は無いのだ。苗字だけ知っていれば事は足りる。


「ふうん、いい先生だと良いね。」


「うん。先輩達は、先生はああおっしゃったけど各自イメトレして来なさいって。最後の年だからリキ入ってて恐いかも。」


 そんな吹奏楽部事情を聞きながら歩いている内に、友里奈との別れ道に着く。


「じゃあ、またね。」


「うん、イメトレ頑張って!」


 最後にエールを送って帰路についた。




 夜。お風呂上がりに鏡の前で髪を整えていると、あの感覚が襲ってきた。


 何か、とても大切なことを忘れているような感覚。鏡の中の見馴れている筈の自分が、自分じゃない様な不思議な感覚。…そっと呟いてみる。


「あなたは誰ですか?」


「私だ!」


 洗面所のドアが開き、姉の美咲みさきが入って来た。


「あんた、この季節になると鏡見てるの長いわねー。…中二病?」


「もう!お姉ちゃん!」


 この姉は人にこう言うけど、彼女の本棚は小説にしろDVDにしろ、ファンタジー物で溢れている。


 友里奈も美咲も、結局自分達が現実的で無い物が好きなのだ。…私も嫌いじゃないけど、自分の事を棚に上げて人に考えを押し付けるのはどうかと思う。


 姉はさっさと服を脱ぐと、笑いながら浴室に逃げ込んだ。なのでコチラも自分の部屋に戻ることにした…。

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