名探偵アミメキリンとまかされたアライさんと消えるふわふわin密室

ふくいちご

いせき




 + 名探偵アミメキリンとまかされたアライさんと消えるふわふわin密室


 ごちそうが見つかった。


 それは雲のように真っ白でふわふわした食べ物で、なめてみると口の中で溶けて、しかも甘いのだ。

 遺跡探検ごっこをしていた最中の出来事で、偶然その場に居合わせたのは私とツチノコ、アライグマにフェネックだった。ふわふわは大きめの箱の中に詰まっている。ちょっとやそっとじゃ食べきれなさそうだ。


 ヒトが作った珍しいものに目のないツチノコは、だらしない顔でふわふわを眺めていた。

 私はふわふわの中に顔を突っ込んでなめまわしてけれど、顔中がベトベトになった。ちょっと汚いけれど、気にしなければどうと言うことはないわね。

 フェネックはお行儀よくふわふわを少しずつちぎって食べていた。

 アライグマはちぎったふわふわを持ってキョロキョロとあたりを見回していた。


「美味しいわ。でもこれ、のどが渇くわね」

「ちかくにおみずがあったのだ!」


 アライグマが指差すところには、確かに水飲み場があった。アライグマはなんでもかんでも洗って食べる子なので、このふわふわも洗わないと気が済まないのでしょう。


「……ウェヘヘへへ。このお宝はここにいるみんなで分け合おう」


 ツチノコは心底幸せそうな顔をしている。


「そうだねぇ。でもさっき近くにセルリアンがいたのを見たから、先に倒しておこうよ」


 私もフェネックの意見に賛成だ。ふわふわをペロペロとなめている間に後ろから襲われたらたまったものじゃない。


「……だったら誰か見張りをしておこう。セルリアンが盗んでいくかもしれない」

「そんなことがあるの?」

「あるかもしれんだろ。だって……だってこんなにおいしいんだぞ?」


 ツチノコが言うと、アライグマが元気よく胸を叩いた。


「だったらアライさんにまるっとおまかせなのだっ!」

「じゃあアライさんにお願いしよっかなー」


 フェネックから任されるとアライグマは嬉しそうに箱の周りをぐるぐると歩き始めた。

 アライグマ一人じゃ不安だけれど、まあ、ここにセルリアンが来ることもないだろう。それよりも近くにいたセルリアンの方が危ない。

 私たちはそのままアライグマを置いて、セルリアンの討伐に向かった。



 +


 セルリアンを討伐して、ツチノコはダッシュでふわふわの元へと向かった。

 よっぽどふわふわのことが気に入っていたのでしょう。

 私とフェネックはのんびりとふわふわの方に歩いていた。


「ふわふわ美味しかったね。でも、なんであんなところにあったんだろうねぇ」

「さあ。ちょっと形はおかしいけれど、あれは木の実かもしれないわ。少しだけ食べて、ふわふわを残しておいたらそのうち増えるかも」


 遺跡にはこんなものばかり置いてあるから不思議だ。

 不思議な四角の道を歩いていると、道の奥からツチノコの叫び声が聞こえた。


「ヴォエアアアアアア⁉︎」


 何か大変なことが起きたのかもしれない。

 急いで戻ってきた私たちは、そこで衝撃の光景を見た。

 ひっくり返された箱が水飲み場に浮いていて、しかもふわふわが全て消えていたのだ。

 水飲み場のアライグマは四つん這いになって泣いていた。

 ツチノコはショックのあまり真っ白になっている。心ここにあらずだ。


「アライさん。ふわふわはどこにいったの?」


 フェネックが訊ねる。


「どこにいったのかはわからないのだ。でも、とにかくきえたのだ……」


 悔しそうに歯を食いしばりながらアライグマは説明を始める。


「アライさんはきちんとふわふわがセルリアンにとられないかみはっていたのだ。でもアライさんはまえしかみえないから、ちゃんとうしろもふりかえってみはっていたのだ」

「アライさんはえらいねぇ」


 フェネックがアライグマの頭を撫でる。


「でもっ。……でも、ずっとみはっていてもセルリアンなんてこないから、みんながたべるぶんのふわふわもあらっておこうとおもったのだ」


 それで箱が水飲み場の上に浮かんでいるのだろう。


「だったら綺麗になったふわふわがあるはずだわ」


 私が言うと、アライグマは首を横に振った。


「ふわふわをみずにいれたら、きえてしまったのだ」


 私たちはじっと水飲み場を見つめた。だけど、ふわふわの影も形も無いじゃないの。


 不思議な出来事だった。

 不思議といえばこの私。名探偵アミメキリンの出番だ。さっそくなぞときを始めましょう。


「……分かったわ。ふわふわは生きていたのよ。食べられちゃうのが嫌だから、あなたが目を離した隙に逃げ出したの。そうに違いないわ!」

「そ、そうだったのだ⁉︎ わるいことをしたのだ……」


 アライグマがしゅんとなった。


「でもおかしいのだ。よそみなんてしてないはずなのだ」


 だとすると、本当にアライグマの目の前でふわふわが消えたことになる。


「……まさか、ゆーれいだったんじゃ」


 アライグマがぼそりと呟く。

 幽霊⁉︎ いや、そんなはずはない。いつぞやの幽霊騒動も結局はボスの仕業だったじゃないか。

 でもちょっとだけ怖くなってきたわ。ツチノコはぼーっとして頼りないし、アライグマたちのそばにいよう。


「あ。じゃあ、ボスよっ! きっとボスが持っていっちゃったの。そうに違いないわ!」

「んー? だけど私たち、ボスとすれ違わなかったよねぇ。ここって行き止まりだよ?」


 ボスでもないとすると、やはりふわふわを持っていったのは、ゆ、ゆ、幽霊……。

 フェネックはアライグマにしがみついた。


「フェ、フェネック。くるしいっ。くるしいのだぁ……」


 そ、そんなはずはないわ。きっと犯人がいるに決まってる! だから私はこれっぽっちも怖くないもん!

 ここからじゃ見れないけれど箱の裏側はまだ見てない。そこに隠れているかもしれない、いや、隠れているに違いない!


「そこねッ!」


 私は水飲み場に飛び込んで箱を捕まえた。

 だけど空っぽだった。


「や、やっぱり幽霊ってこと? そんなぁ……」

「……ふぇね……っく……」


 いけない。フェネックが更に強い力でアライグマを締めつけている。はやくこのなぞを解かないと!

 だけど犯人はどこに隠れているのだろう。そもそも犯人なんて本当にいるのかな。

 私は水飲み場の中で立ちあがり、両手で顔をぬぐった。


 ……あれ?


 この水ちょっと、ベトベトしてる。まるでさっきのふわふわ見たいだ。

 ためしにペロッと舐めてみると、甘い。やっぱりさっきのふわふわみたいだわっ。


「みんなっ! 見つけたわっ! 犯人っ!」


 アライグマとフェネック……そしてツチノコがこちらを向いた。



 +


 それからお腹がタポタポになるまで水を飲んだ。こんなに水を飲んだのは生まれて初めてかもしれない。

 結局どうしてふわふわが消えてしまったのかは分からずじまいだ。


「……ふわふわ。……不思議な事件だったわ」

「きっとふわふわさんはやさしいおかたなのだ! たべられるのはいやだけど、アライさんたちがかなしむだろうから、みずをあまくしてくれたのだ!」


 うん。言われてみるとなんだかそんな気がしてきた。それでいいじゃないか。


 こうしてなぞはすべて解けた。

 でも、このジャパリパークにはまだ見ぬなぞがたくさんあるのだ。

 次のなぞが私を呼んでいる。いかなきゃ。


「お、おなかいっぱいで、苦しくて、うごけないのだ〜」

「……とりあえず休憩しよっかぁ」


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