第4章 いばらの道

 生温い風が髪を揺らす。その中にもどこか冷たさを感じ、季節はもう秋なのだとぼんやり思った。

 雪花は空を仰ぎながら、

「夏終わっちゃったねー。ほんと、あっという間だった」

 隣を歩くあおいは、無表情のまま反応しない。

「制服も冬服に変わったし。あたしは夏服のほうが可愛くて好きなんだけどな。冬服は地味だし、暗い色だからあんまり好きじゃないんだよね」

 雪花は鞄を肘にかけて、胸元で結んだ大きな白のリボンを玩ぶ。

「大体、土曜日にわざわざ授業しなくたっていいのに。サテライト授業で学力向上って、大学入試なんてまだまだ先なのに、そこまでしなくていいと思わない?」

「……私立だから、じゃないかな」

「あ、それあるかも。公立は土曜日休みらしいもんね。いいなあ、羨ましい」

 がっかりとため息をつく雪花を、あおいは不思議そうにちらりと見やる。雪花は憂鬱な表情をがらりと一変させ、

「でも、あおいが同じT田駅方面だったなんて! すごい偶然だよね!」

「……そう、かな」

「そうだよ。もっと早く知ってたら、前から一緒に帰れたかもしれないのに!」

「だって、いつもは一緒に帰らないじゃない。そういえば、今日はどうして?」

「どうしてって訊かれるとちょっと困るんだけどね。実はいつも一緒に帰る友達、舞と千鶴と沙弥香っていうんだけど、舞と千鶴が塾で先に帰っちゃって沙弥香は部活だから、今日は一緒に帰る子がいなかったの。一人で寂しいなって思ってたところに、下駄箱であおいを見かけたから声かけたの。だってあおい、ホームルームが終わると誰よりも早く帰っちゃうじゃない? 今まで一緒に帰ったことなかったし、ラッキーだと思って」

 あおいは目を丸くしていたが、ついと視線を逸らして黙り込む。雪花はざっと青ざめた。

「あ、ごめん! 違うの、誤解しないで。悪気なんか全然ないし、言い方はちょっとあれだったかもしれないけど」

「何で慌てるの? あたし、怒ってなんかいないよ」

 きょとんとしたあおいを見て、雪花はほっと胸を撫で下ろす。そして、あおいはもしかしたらこの学校で一番の美人かもしれないと、先の会話とは全く関係のないことを改めてしみじみと考えた。

 二学期の最初に出会った頃と比べると、あおいは雪花にだいぶ打ち解けてくれたようだ。ずっと硬い面持ちで近寄りがたいオーラを放っていたが、ここのところそれがやや丸くなってきた気もする。誰が話しかけても芳しい反応を返さないあおいは、しかし相手が雪花ならば会話らしい会話が続くようになった。あおいが人間嫌いというのはきっと周囲の偏見で、単に他人より口下手で不器用というだけではないだろうか。

 そう思ったら何だか嬉しさが湧いてきて、雪花はついついスキップをしてしまう。

「どうかしたの?」

「別にどうもしないよ。ただ嬉しいの」

 あおいが首を傾げる。

「あおいがあたしと話してくれて、笑ってくれてすごく嬉しい」

 あおいが虚を衝かれた顔になる。その反応を見て、雪花は少し不安になった。

「……あおいは嫌?」

 目を瞠っていたあおいは、やがて静かに頭を振る。

「嫌じゃないよ。あたしも嬉しい。雪花があたしに、無視せずに話しかけてくれること」

 あおいはふわりと小さく笑う。雪花はつい見惚れてしまい、すぐに言葉を返せなかった。

「そ、そっか、よかったあ。あたしもあおいが口利いてくれて嬉しいよ!」

 あおいは一瞬目を丸くするが、たちまち頬を柔らかく綻ばせる。その微笑に雪花は思わずどきりとした。凛と涼しげな表情も勿論だが、笑顔のあおいはもっと美人だ。自分や他の女生徒たちは足元にも及ばないだろう。これは持って生まれた才能の一つだろうか。自分にもほしかったと、雪花は心の隅でちらりと思う。

 静かに微笑んでいたあおいは、しかし次の瞬間、憂いげに表情を翳らせる。

「だけど、心配になるの」

 戯れ事ばかり脳内でつらつらと巡らせていた雪花は、つい間抜けな声を返してしまう。

「え、はい?」

「あたしと話すことで、クラスの子に嫌なことをされてない? つらいことを言われたりしてない? 雪花、他にもいっぱい友達いるのに、あたしと話すせいでその子たちと仲悪くなってるんじゃないかって……」

 雪花は思わず言葉に詰まった。不自然に目が泳ぐが、無理に笑ってみせる。

「大丈夫だよー。みんなそこまで幼くないし、あたし世渡り上手だから、あおいが気に病むことなんてないんだよっ」

 あまりにもわざとらしすぎたのか、あおいが表情をさらに曇らせる。雪花は励ますように明るく言った。

「そんな気にしないで! あおいに非なんて全然ないし、周りが何を言ってきたとしても、あたしは全然気にしないから。だから、あおいが気に病むことなんて何もないの。あたしは好きであおいといるんだし、周りが何を言ったって全然気にしないから!」

 あおいは少し懐疑的に雪花を見ていたが、やがて納得したようにこくりと頷いてくれた。雪花は悟られないよう、ほっと胸を撫で下ろす。

 真実を言えば、それは真っ赤な嘘だった。クラスの中で明らかに浮いているあおいに、積極的に話しかけるクラスメイトは雪花しかいない。そのせいで雪花は仲良しグループの中でも、若干とはいえ異端視されているきらいがある。理解してくれる友人が何名かいるから心強いが、他のクラスメイトたちが皆そうとは限らない。

 雪花以外のクラスメイトたちは恐らく、それまで忘却の彼方にいた二歳年上の留年生が、同じ教室で共に学校生活を送っている現状をまだ呑み込みきれずにいるのだ。だから好奇心を剥き出しにしてからかってみたり、何を言わずとも遠巻きに蔑んで見ていたりする。しかし、彼らにばかり非があるわけではなく、近寄りがたいオーラを放つあおいにも原因はあると思う。お互いがもっとフレンドリーになればいいのにと雪花はいつも思っているが、口にすればすぐさま双方から反感を買いそうなので心の内に留めている。

 そんなことを思い巡らせていたせいで、雪花の口から自然に疑問が飛び出した。

「あおいは人間嫌いなの?」

 しまった。これではあまりに単刀直入すぎて失礼だ。雪花は慌てて言い直す。

「何ていうか、人と関わるのが苦手? 話すのが苦手? なのかなと」

 あおいは表情を翳らせて目を落とす。言葉を選んでいるのか、落ち込んでしまったのか。どちらか分からず、雪花は内心はらはらした。

「嫌い、ではないの。ただ、分からなくて。人付き合いっていうの、よく知らないから。だから、周りとどんな風に関わったらいいのか、分からない」

「病気で入院してたんだっけ? それで留年したって」

 しまった。つい余計なことまで訊いてしまった。憶測の範疇を出ないただの噂を、当の本人にぶつけるばかがどこにいる。雪花は激しい罪悪感に駆られ、挙動不審なまでにおろおろする。しかしあおいは気を悪くした風もなく、静かにこくりと頷いた。

「そうみたい。だから余計に分からないの、学校とか勉強とか、人間関係とか。分からないから、苦手なんだと思う」

 雪花は相槌を打ちながらも、そうみたいとはどういう意味だろうと思った。他人のことだから断言できないというニュアンスに何だか聞こえる。自分のことであるはずなのに、随分と煮え切らない口ぶりだ。しかし、それを指摘するのはあまりに無神経だろう。

 しばしの逡巡の末、雪花は沈んだ空気を払拭する明るさで、

「分かった。でも、そんなに気にしなくていいよ! 周りと関わらないからといって、別に今すぐ死ぬわけじゃないんだし、勉強が分からないならあたしが教えてあげる。こう見えてあたし、数学とか理科とか得意なんだ」

 あおいは目を丸くする。随分とめちゃくちゃなことを言っていると自分でも思った。しかし雪花はめげることなく、

「あたしはあおいのこと、友達だと思ってるよ。周りが何を言っても気にしない。ていうか、あたしはあおいと友達になりたいの。あおいといっぱいお喋りしたいし、お茶とか遊びにとか、買物とかもできたらいいなって思う! だからあおいも、あたしの前では気を遣わないで。無理しなくていいし、自然のままでいいから。ね?」

 雪花は笑って何度も頷いてみせる。あおいはやや面食らっていたが、やがて綺麗な形の唇をほっと微かに和ませた。

「ありがとう、雪花」

「いやあ、そんな、こちらこそ」

 思わず見惚れてしまったとは言えず、雪花は誤魔化すような照れ笑いを浮かべてみせる。

「雪花はいい子だね」

「いやあ、そんな。ていうか、いい子はあおいのほうだよ、絶対!」

「そんなことないわ。雪花は優しいし、明るいし、とてもいい子だと思う」

 あおいの言葉に嫌味や妬みは欠片もない。滅多にない褒め言葉に、雪花はつい涙腺がほろりと緩みかけた。

「いやあ、そんな。家族や友達にもそこまで言ってもらったことないよ。何か顔が赤くなっちゃう。ありがとうね、あおい」

 にやにやとはにかむ雪花を、あおいは穏やかな眼差しで見ている。雪花は照れ隠しで額をぽりぽりと掻いた。浮き足立つ心を落ち着かせることに必死だった雪花は、次の瞬間あおいの表情に浮かんだ悲痛な翳に気付かない。

「あ、あたしこっちなの」

 雪花の言葉にあおいは足を止めた。雪花も立ち止まり、

「あたしの家、駅の向こうなの。この歩道橋を突っ切って二十分ぐらい歩いたとこ」

「この歩道橋、駅を通ってるの?」

「そう、駅を突っ切る感じ。歩道橋からも改札に行けるよ。他にも別の歩道橋を渡ったり、高架下を突っ切ったりして駅を越える方法もあるけど、この歩道橋のほうが人通り多いから、こっちにしなさいってお母さんに言われてるんだ」

「そうなの」

「あおいは電車だよね?」

「うん、F野駅」

「三つ先の駅じゃん。結構近いんだ。じゃあまた遊ぼうよ!」

 あおいは少し躊躇う仕草をした後、ごくごく薄い笑みを浮かべて頷いた。

「今度誘うからね! じゃあまた来週ね!」

 雪花が笑顔で手を振ると、あおいも振り返してくれた。

 雪花は浮かれたステップで歩道橋を進んでいく。心が喜びと楽しさで満たされ、不思議なくらい高揚している。ついつい鼻歌まで口ずさんでしまうぐらいだ。

 だから雪花は、あおいが悲しげな表情で自分を見送っていたことに全く気付いていなかった。そして別れた直後、あおいがふいに現れた少年に引っ張られ、車に乗せられてどこかへ消えていったことも、雪花は最後まで知ることはなかった。



 助手席に座るあおいはひどく仏頂面だった。

「そんなに怒るなよ。ちゃんと乗るか乗らないか訊いただろ?」

「答える前に腕を引っ張っていったのはあなたよ」

「だってあおい、五秒待っても答えてくれないから、こっちとしては、黙られたらもう連れてくっきゃないじゃないか」

「待ち伏せなんて最悪。ストーカーみたい」

「人聞きの悪いこと言うなよ。本当は学校前で拾ってこうと思ったんだけど、あおいが友達と帰ってくから、せっかく手にした友情を邪魔しちゃ悪いなと俺なりに気を遣ったんだ。それなら駅に先回りして確実に捕まえようって」

「じゃあ、そのまま諦めて帰りなさいよ。こんなの、まるで拉致だわ」

 あおいは低い声で呟き、亮太を睨めつける。

「もう会いたくないって言ったはずよ」

「あそこで引いちゃ男が廃るだろ。俺は図太くて打たれ強いの。一度や二度嫌われたぐらいで、あっさり引き下がるほど弱くないんだ。ていうか制服、冬服になったんだね。白のセーラーもいいけど、黒も結構似合ってるよ。でも今の季節だとまだ暑くない? 合服とかないの? ていうかそのスカート丈、やけに短いけど折ってんの?」

 亮太は右手でハンドルを操りながら、左手でダッシュボートにあるMDボックスを探る。

「ちゃんと前見て運転してよ」

「見てるよ。こう見えて前後左右にはちゃんと気を配ってるから。免許取ったのは春だけど、腕は確かだから信用していいよ。ちなみにこれ、俺の愛車。トヨタのカローラアクシオ。十八歳の誕生日に小父さんが買ってくれたんだ。この深い青色が気に入ってさ。小父さん、本当は外車にしようとしてたんだけど、それはさすがに遠慮したよ。普段は休みの日しか乗らないんだけどね。バイトはチャリ通だし。あとは任務が遠方だったりした時に使うかな。それからドライブ。休日どっかにばーっと走りに出掛けるのが、息抜きになって何よりも楽しいんだ」

 嬉々として話しながら、亮太はMDをプレーヤーに挿し込む。陽気なバンドサウンドの洋楽が大きめの音量で流れ始めた。あおいは苛立たしげに顔をしかめた。

「そろそろ、あたしを連れてきた理由を話してくれない?」

「え、話さなかったっけ?」

「とぼけないで。人を無理やり車に放り込んで、行き先も告げずにどこまで走る気なの? 用件と行き先ぐらい、教えてくれてもいいんじゃない」

「俺、とっくの昔に言ったつもりでいたけど、言ってなかったっけ?」

「言ってないわよ」

「そっか。ああ、鞄は後ろに置いといていいよ。そのほうが楽だろ? ていうか、今の中学って土曜も学校あるの? 面倒くさいね。まあ、ゆとり教育が崩壊してる昨今だから仕方ないのかもしれないけどさ。学校ってほんと、ややこしいことでいっぱいだよな。俺はもう二度と御免だ」

「いいから、人の質問には真面目に答えてくれない? 殴るわよ」

「おお、怖い怖い。もしかして学校でもそんな威圧的なオーラ放ってんの? やめなよ、それは。可愛い顔してても、そんなんじゃ誰も寄ってきてくれないぜ」

 あおいはひゅっと右手を掲げ、亮太の頬めがけて勢いよく突き出す。しかしそれと同時に、亮太は前を見たまま左手でその腕を掴んでくいと捩じ上げた。

「はいはい、分かったから怒らないで。運転中に殴られたらハンドル操作を誤っちまう。あおいは短気だな。もっと寛容にならなきゃだめだぞ」

「あ、あなたがからかうからでしょう。何を訊いてもふざけてばかり」

「ふざけてないよ。俺はいたって大真面目」

「どこが真面目なのよ!」

「ああ、怒っちゃった。ねえ、頼むから怒らないでよ。あおいとマジで喧嘩したら、俺なんて歯が立たないんだから。ただでさえ今は走行中。助手席の人は運転の邪魔にならないよう、おとなしくしててください」

 そう言うと亮太は、投げ捨てるようにあおいの腕を解放した。あおいは腕をさすりながら亮太を睨む。

「俺、そんなに悪いことした? 困ったな、何か俺だけ楽しんでるみたいだ。久々にまともに話せて、結構楽しいなあ、嬉しいなあと思ってるのは俺だけ?」

「あなただけよ。あたしは楽しくなんかない。むしろ不愉快。言ったでしょ、あたしはあなたのこと、何も覚えていないの。知らない人と話しても不自然すぎて、楽しくも何ともないわ。いいから話して、あたしを連れてきたわけを早く」

「凄むなよ、怖いなあ。可愛さ台無しだぞ」

「いいから早く! これ以上無駄口ばかり叩くなら、すぐにでもこの車から飛び降りてやるわ。それで警察に駆け込んで、知らない男に車に連れ込まれて乱暴されたって言ってやる。本気よ。嘘だと思うなら、今からでも実行してやるわ」

「うっわー、マジ怖い。あおいってそんな乱暴で無鉄砲な女だったっけ?」

 あおいは鋭利な刃の如き目で睨む。亮太は諦めたように嘆息した。

「今日は小父さんの命令。あおいに会いたいから連れてこいってさ」

「……父が?」

「そう。俺はあおいを屋敷まで連れてく係。竹田さんは屋敷で小父さんと一緒に待ってる」

「本当に? どうして」

「意識が戻ってから一度連絡を寄越したきり音沙汰もなく、自分や《ヴィア》を拒み続ける娘の顔を久々に見たいんだと」

 あおいは難しい顔になって黙り込む。

「まあ、実家に帰るのはいいことだよ。小父さんだって心配してるんだ。顔見せてやれば安心するだろうし、覚えてないなら尚更会ってみたいだろ? ぶっちゃけた話、一人娘がこんなことになって一番心配してるのは小父さんだと思う。屋敷の人たちも心配してるし、元気な顔見せて安心させてやって」

「……父はあたしを心配してるわけじゃない。《ヴィア》の暗殺者を心配してるの。本当に心配してる父親なら、娘に暗殺を強いたりしないわ」

 亮太は横目でちらりと見やるが、それについては何も言わない。そして、わざとらしく話題を変える。

「水島の屋敷はT田から五駅離れた場所、山の麓みたいなとこにあるんだ。T田から車で四十分ちょい、F野だと三十分あれば行けるな。屋敷と最寄り駅はかなり遠くて、周りは山と田んぼと畑と竹薮。交通手段は車か、一時間に一本あるかないかのバス。結構不便だけど静かな場所だから、きっと気に入ると思うよ。都会より空気は断然綺麗だしさ。まあ、めちゃでかい屋敷だから、初めはびっくりするかもしれないけど」

 あおいは流れる景色を見やる。車は交通量の多い国道を抜け、住宅街や田んぼが広がる道を走っている。田畑の中の一軒家が多く、遠くには濃緑のなだらかな山々が見える。

「……随分、田舎なのね」

「だろ? 子供が育つには最良の環境だ」

「ここであたしは育ったの?」

「そう。生まれてからずっと、俺と一緒に」

「あたしがあのマンションに住み始めたのはいつ?」

「確か中学入ってすぐだっけな。俺はこの町の公立中学に通ってたけど、あおいはT田の青葉学園に入ったから。一緒の学校だと何かと問題あるし、あおいは《ヴィア》の娘だから、学歴とかそれなりに体裁がいるの」

「問題って何?」

「問題っていうほど大層なもんじゃないな。秘密ってことに近いか」

「それはどういう」

「周囲に知られるのと知られないのとでは、知られないほうが都合いいなっていう類のこと。ま、いろいろあるんだよ」

 眉をひそめるあおいを、亮太は笑い飛ばした。

「そうしかめ面にならなくても、すぐに分かる時が来るよ。言ったろ? いつまでも知らないままではいられないってさ」

「……それが今なの?」

「さあ。全ては神のみぞ……いや、小父さんのみぞ知るってとこかな」

 その瞬間、車が止まる。

「どうしたの」

「着いたよ。ここが水島の家」

 あおいはきょとんと窓の外を見た。

「武家屋敷みたい……」

「すごいだろ?」

 呆然と呟くあおいに笑いかけ、亮太はシートベルトを外した。倣って降りようとするあおいを制して、自分だけ車から降りて門の側まで行く。そしてインターホンを押し、一言二言話しかけると車まで戻ってきた。

 亮太が運転席に乗り込むと同時に、両開きの門が軋みながらゆっくりと開いていく。それが開き切るのを待って、亮太は再びアクセルを踏み込んだ。門を開けたのは群青の半被を着た中年の男性二人で、敷地内へと入ってくる亮太の車を最敬礼で迎える。

 亮太は彼らに軽く手を挙げて応えると、広々とした庭の奥にある屋根つきの車庫に向かう。一家庭の車庫にしては明らかに大きすぎるそこの右端に止めると、

「降りていいよ」

 あおいは車から降りた。そして、外に出るなり周囲を怖々と見回す。

「こっちだよ、あおい」

 あおいは小走りで亮太を追い、その隣に並んでついていく。

「すごいだろ? これは表の庭。庭はここだけじゃない。奥や中にもあるぜ。特に離れの中庭はすごいぞ。真っ白な小石が所狭しと敷き詰めてあって、それで波紋が描かれているんだ。京都の有名な寺を真似たらしい。といっても、ただの金持ちの道楽じゃないぜ。手入れから石選びから、全部その道のプロがやってるんだ」

「この庭も?」

「そう。屋敷の庭は全部、小父さんが指定した専門の庭師が管理してる。木や花、池や石に至るまで全て。小父さんは日本庭園が大好きなんだ」

「……立派だわ」

 二人は円石で示された道をしばし無言で歩いた。

「あおい。ほら、ここが玄関だよ」

 亮太に導かれて足を踏み入れたそこは広い玄関だった。渋い色味をした廊下が左右に伸びており、中央の廊下は木製の衝立によって奥が見えないようになっている。平屋にしては高い天井から吊るされた丸い形の灯りが、純和風邸宅の玄関全体に淡い光を注いでいる。

「いらっしゃいませ、ようこそお越しくださいました」

 藍色の着物姿の年嵩の女性一人と、臙脂色の着物姿の若い女性四人が、上がってすぐの位置で横一列に並んで最敬礼している。あおいは反射的に亮太の背後にそっと影に隠れた。

「久しぶり民代さん、元気してた?」

「はい、亮太様もお変わりないようで何より。お顔を拝見できて嬉しゅうございます」

 亮太が靴を脱ぐと、臙脂色の着物の一人が素早く動き、二人分のスリッパを並べた。亮太は礼を言って履くと、

「どうしたのあおい、固まっちゃって。こっちへおいでよ」

「亮太様、そちらのご令嬢は」

「あおいだよ。最近ようやく目覚めて、動けるまでに回復したんだ」

「まあ、あおいお嬢様!」

 民代と呼ばれた藍色の着物の女性が途端に華やいだ声を上げ、ずいとあおいに寄るなりその手を笑顔で握る。

「これはお嬢様! ご無沙汰しております。まあ、こんなに大きくなられて」

「あ、あの」

「ようおいでくださいました。もう一度お会いできて感激の至りでございます! お元気そうで何よりです、あおいお嬢様」

 感涙に潤む民代は、包むようにぐっと握ったあおい手をなかなか離そうとしない。当惑したあおいは亮太を振り返った。

「彼女は民代さん。俺らがガキの頃から水島に仕えてる人だよ。この人たちみんな、水島の家に住み込みで働いてくれてる人たち」

 着物を纏った女性たちが揃って再び最敬礼をする。あおいは口をぽかんと開け、ぱちぱちと何度も目を瞬かせた。

 その時、廊下の奥から低く芯のある声が投げかけられた。

「民代、何をしている。あおいお嬢様が戸惑っていらっしゃるぞ」

 現れたのは竹田だった。着物姿の女性たちは彼を見るなり一歩下がり、横一列に並び直すと普通礼をする。それまでやや興奮気味だった民代が慌ててあおいから離れ、

「これは失礼いたしました、あおいお嬢様。久方ぶりにお顔を拝見したものですから、つい舞い上がってしまい……申し訳ございません」

「そんな、謝らないでください。そ、その……民代、さん」

 あおいが名前を口にすると、民代は心底嬉しげな顔で笑う。そんな和やかな空気を竹田の無愛想な声が一蹴した。

「お前たち、持ち場に戻れ。お嬢様のご案内は私が致す」

 その言葉を受け、着物の女性たちは一礼するなり次々と足早に離れていく。亮太はくつくつと笑いを噛み殺しながら、

「びっくりしたろ? だけど怒らないでやってくれよ。民代さんはガキの頃からあおいの世話係だったから、元気な姿でまた会えて喜びもひとしおなんだ」

 竹田は眉間に深い皺を寄せて亮太を一瞥する。そして直立不動の姿勢で一礼し、

「あおいお嬢様、お待ちしておりました。亮太、乱暴な運転はしなかっただろうな」

「してないよ。失礼だなあ。俺の運転の腕は折り紙つきだぜ?」

 さも不服そうに亮太は口を尖らせる。しかし竹田はそれを無視した。

「お嬢様、どうぞこちらへ。旦那様は離れの部屋でお待ちでございます」

 竹田はそう言って、人一人が楽に寝転べるぐらい幅広い廊下を進んでいく。あおいはその後を追いかけた。亮太も気だるげな欠伸をしながらついてくる。

「あの、訊きたいことがあるんだけど」

「遠慮なさらず、何なりと」

 竹田は振り返らずに告げる。

「この家、随分と大きいけれど、どれぐらい広いの?」

「敷地一帯の面積で申しますと、七百坪以上はありますでしょうか。他にも田畑をいくつも所有しておりますし、裏手の山一帯や周囲の竹薮も全て水島のものでございます。また、他に貸し出している土地も多くございます」

「そんなにたくさん土地を持っているの?」

「水島は古くより地主と建設業で栄えた家柄。その歴史は室町初めか、それより以前にまで遡ると言われております。よって、古より受け継いだ土地が現在も数多くあるのです」

 難しい顔をするあおいに、亮太が助け船を出す形で言葉を添える。

「さっきあおい、玄関までの庭を歩いてた時に、まるで武家屋敷みたいだって言ってたろ? それはあながち間違いじゃないってことだよ。この家の始まりは武士の時代。初代はここら辺じゃ名高い武士だったと言われてる。まあ要するに、気が遠くなるほどの歴史があるわけ、この家には。歴史がある分、家も広くて土地も山ほどあるのさ」

「じゃあ、この家は武家屋敷なの?」

「始まりはそうでございます。さすがに当初の姿のままというわけにはまいりませんので、その時々に合った姿に修繕しておりますが」

「このお屋敷には、どれぐらいの人が住んでいるの?」

「住み込みの使用人が十五人ほど。人の出入りも勿論ありますが、水島家の方と言えるのは旦那様だけでございます」

「……母は?」

「永利子奥様……あおいお嬢様のお母上は既に亡くなられております。お嬢様がお生まれになってすぐ、病を患われ逝去なされました。元々お体が弱い方でして、確か享年四十前であったかと記憶しております」

「あたしに兄弟は?」

「おられません。あおいお嬢様は旦那様の長女にしてたった一人のお子。従兄弟様は何人かおられますが、お嬢様と同年代の者はそこの亮太しかおりません」

「……父はどんな人なの?」

「どんな人と訊かれてもねえー」

 竹田が亮太に一瞬、険のある視線を投げる。亮太はすぐさま察して口を閉ざした。

「旦那様は素晴らしいお方でございます。我々にとって誰よりも尊き存在であり、この世界の全てと言っても過言ではありません」

「随分と大それた言い方ね」

「そうではございません、お嬢様。世界といっても、人によってその捉え方は様々です。この地球上全てと捉える者、日本全体と捉える者、あるいは別の捉え方をする者……人の数だけ答えがあり、それらが間違いだとは誰も言えません。私が申す世界というのは、私たちが生きる上での世界という意味にございます」

「そう難しい風に言わなくたって、自分にとっての全てって言えばいいじゃん。竹田さんは頭が堅いの。だから言葉も余計堅いんだ。慣れるまではしんどいけど、そんなに気にしなくていいよ」

 竹田が再び険のある視線で亮太を見やる。そして軽く咳払いをした後、

「話を元に戻しましょう、お嬢様」

 三人はようやく縁側を抜け、突き当たりの角を右に折れた。そして再び長い廊下を歩く。

「旦那様は我々の世界にとって最も大切なお方。旦那様なくして我々の全ては成立しません。旦那様は現代社会においても著名なお方です。その影響力は計り知れず、建設業界を始め、多方面において旦那様の名を知らぬ実業家はおりません。二十年前に不慮の事故に遭われてからは、水島コーポレーション社長の椅子を実弟の修一朗様に譲られ、ご自身は一線を退かれましたが」

「事故?」

「はい。事故の後遺症により下半身不随となった旦那様は、車椅子での生活を余儀なくされました。そのため社長職を退かれ、会長職にお就きになったのです。無論、それで旦那様のご手腕と影響力が失われたわけでは毛頭ございません。今も水島コーポレーションを実質的に指揮されているのは旦那様でありますし、《ヴィア》を統帥されているのも──」

「ちょっと待って。父は車椅子って、そんな」

「あれ竹田さん、言ってなかったの?」

 きょとんとする亮太を目で黙らせ、竹田は言葉を選ぶように口ごもる。

「旦那様は体調も良好ですし、患われている疾病などもございません。ただ、普段の生活に少し難を強いられているというだけのことです。いつもは我々使用人がお側について、旦那様の介助をさせていただいております。お嬢様が気に病まれることはございません。申し上げるのが遅れたことを心よりお詫び申し上げます」

「いえ、別に……」

 三人は廊下の突き当たりを左に曲がり、そのさらに奥へと向かう。そして建物と建物を繋ぐ長い渡り廊下を歩き、玄関がある表の庭からは見えない離れに足を踏み入れた。

「離れは比較的最近に造られた、旦那様の私的な建物でございます。そのため全ての部屋をリフォームし、バリアフリー化いたしました」 

 あおいは玄関を通り過ぎてすぐの窓越しに広がる、流麗な波紋が描かれた真っ白な石庭の前で足を止めた。

「ああ、びっくりした? これがさっき話した中庭だよ」

「すごい……。まるで海だわ」

「確かに白波が立ってる感じはあるよな。でもどちらかというと、果てなき大海原っていうより、陽がよく当たった静かな湖畔に近いかも」

 あおいはこくこくと頷いた。そして、先を行っていた竹田に慌てて追いつくと、

「ごめんなさい」

 石庭の死角に位置する扉の前に立つ竹田は、無言で頭を振ると姿勢を正す。

「こちらが、旦那様のお部屋にございます」

 あおいは息を呑んだ。それまで軽やかだった亮太の表情が一瞬ですっと引き締まる。

 竹田が小さなノックを三回し、ドアノブを丁寧に回して静かに開く。そして右手でドアを押さえ、左手でそっとあおいを促した。

 あおいは深呼吸をすると室内に足を踏み入れる。あおいの後に亮太が続き、最後の竹田が後ろ手にドアを閉めた。

 あおいは、部屋の奥に佇んでカーテンの隙間を見つめる人物に目を凝らす。黒のスーツに身を包んだ老人が、現れた気配に呼応して銀色の車椅子を動かし、ゆるりとあおいを振り返る。竹田が無言で最敬礼し、亮太が神妙な面持ちで会釈する。老人はそれに表情筋を微塵も動かすことなく、立ち尽くすあおいに射抜くような眼差しを向けた。

「久しぶりだな、あおい」

 地を這うような重々しい声が響く。幾筋もの深い皺が刻まれた顔に感情はなく、禿げ上がった頭にはまばらな白髪がほんの少しだけ生えていた。

 あおいは呼吸も抑えて老人を見つめていたが、やがて一つ息を吸うと確かな声で答えた。

「ご無沙汰しています、お父様」



 絵の具みたく澄んだ水色の空に、濃いオレンジ色が染みてくる。時刻は夕方の五時を廻っていた。

 亮太は離れから母屋に戻り、庭を横目に長い縁側を歩いていた。すり抜ける風がやや冷たく、そういえば陽が沈むのも格段と早くなった。暑かった夏の名残はもう見る影もない。

 口笛を吹きながら歩いていた亮太は、縁側に座るあおいの姿を見つけた。掠れた音を思わず引っ込め、そのすぐ側まで静かに歩み寄ってみる。しかし、あおいはそれに心を向ける様子もなく、どこまでも美しく整えられた庭を眺めていた。

「ここにいたの、あおい」

 あおいは一瞬だけちらりと亮太を見やるが、何を言うこともなく再び視線を庭に戻す。

「少し冷えてきたね。寒くない?」

 あおいは無言で頭を振る。静かな沈黙が二人の間を支配した。

 あおいはじっと庭を見つめている。彼女の視線の先には細い幹をした桜の木があり、色褪せた木の葉がかさかさと揺れている。しかし、その眼差しは当の桜の木を越えて、ここではないどこかへ向けられている気がした。

「……あたしは」

 ぼうっとしていた亮太は、その小さな呟きを危うく聞き逃すところだった。

「あたしは、ここで生まれたの?」

「ああ」

 亮太はあえて力強く頷いてみせる。

「あたしは《ヴィア》の娘として生まれた。そして、ここであなたとともに育った」

「そのとおり」

 亮太はもう一度頷く。ごくごく軽い口調で答えたのは、若干漂い始めた重い空気を払うためだ。

 あおいは遠い眼差しで、まるで独り言のように呟く。

「でもあたしは、それが分からない」

 消え入るような小さな声は、夕方の静かすぎる空気に溶けて消える。

「このお屋敷に来ても、父という人に会っても、ここに座っていても、あたしには何も分からない。何も覚えていないの。あたしを知ってると言う人も、このお庭の風景も、父でさえも」

 亮太は庭に目を向けた。今日一日の手入れが終わったただ広い日本庭園は、撫でるように吹く風に揺れながら、もうじき訪れる本格的な夜を待っている。翡翠色の池は少しの揺らぎもなく、まるで鏡のように透き通っている。その側で二羽の雀がちょんちょんと動き、やがて遠い空へ羽ばたいていった。

「ここがあたしの家だと言われても、あたしはここで生まれたのだと聞かされても、あたしの中には確かなものが一つもない」

「信じられないってこと?」

「そうじゃないの。信じることすら、分からなくなる。あまりにも何もなさすぎて。あたしの中が空っぽすぎて、何も分からない」

 亮太は平気そうな顔を装うが、内心は激しく当惑していた。こんなにも無防備でか弱いあおいを自分は知らない。亮太が知っているあおいと今の彼女はあまりにもかけ離れている。まるで同じ顔をした他人を見ているようだ。

 しかし、そんな心情をおくびにも出さず、亮太は軽く笑い飛ばすように言う。

「確かなものなんて、いったい誰に分かるっていうの。分かったとして、それはそんなに役に立つものなの? それがなかったら自分は死ぬわけ?」

 あおいが軽く睨むように亮太を仰ぐ。

「生きてく上で、記憶ってそんなに大事なの? 覚えてないと何もできないわけ? 別に命に関わるような大問題じゃないだろ。なかったってこれからに特に支障はないんだし、深く考えたら戻ってくるものでもない。いい加減割り切れば?」

 そう突き放すと、あおいは目元に険を浮かべた。亮太は物言いたげな彼女を制して、

「記憶にばかり囚われてたら前には進めないよって言いたいわけ。ここはあおいの生まれた屋敷。あの人はあおいの父親で《ヴィア》のトップ。そして俺は君の幼なじみであり仕事上のパートナー。思い出せなくてもこれは事実なんだ。あおいはただ、事実を事実として受け入れればいい」

 あおいは迷うように目を泳がせる。いつの間に彼女はこんなにも弱くなってしまったのだろう。こんなあおいは見たことがない。

 亮太は気付かれないよう、そっと静かに嘆息する。二年の歳月──そしてあの出来事は、あおいという人間を根本から変えてしまったらしい。

 そんな内心を薄っぺらい笑顔で繕いつつ、亮太はさりげなく話題を変えることにした。

「竹田さんから聞いた。どうするか、その後は決めたの?」

 あおいははっと瞬きし、痛みを堪えるような顔をした。亮太が尋ねんとしていることを察したのだと分かった。暗殺者に戻るか否か、その答えの期限は明日の夜である。

 あおいは黙り込んだまま、答えようとしない。

「迷ってるの?」

 亮太は畳み掛けた。

「迷っても仕方ないよ。だってもう、答えは出てるんだろ?」

「……あたしは、人殺し」

「そうだよ」

「だけどあたしは、そんなあたしを知らない」

 あおいはそっと身を抱く。目鼻立ちのいい小さな顔は紙みたく白い。何をそこまで恐れているのだろう。亮太には分からなかった。

「知らないから怖い。そんな怖いあたしは、あたしじゃない。あたしがほしいあたしは、そんなものじゃないの」

「だから目を逸らすの? 背中を向けて、逃げられるところまで逃げるつもり?」

 亮太は辛辣に追い討ちをかける。サディスティックな気持ちからではない。まるで人間みたいな危うさで揺れ続けるあおいが苛立たしくて仕方がなかった。だからつい、意地悪を越えた冷たい言葉を発してしまう。

「さっさと認めればいいじゃん。ただ逃げ続けて、認めないって目を背け続けて、そうやって辿り着く場所ってどこなんだよ」

 亮太の苛立ちを感じ取ったのだろう、あおいが当惑の眼差しで亮太を仰ぎ見る。

「覚えてないのは仕方ないのかもしれないけど、あまりにも知らない、あんたなんか覚えてないって言い続けられると、こっちもいい気はしないんだよな。ただでさえこっちは、今のあおいと前のあおいが違いすぎて戸惑ってるってのに。あまりにも変わりすぎてて、驚き通り越して腹が立つよ。知らないって連呼され続けるこっちの気持ち、考えたことある? 俺だってそんなあおいは知らないさ。あおいは俺のこと敵みたいに言うけど、俺からしたらとんだ言いがかりだ。ばかばかしすぎて笑う気も失せる。自分の傷は深く悩んで慰めようとするけど、他人の傷なんてこれっぽっちも考えたことないだろ」

 言ってしまってから、亮太は激しく後悔した。言ったところでどうにかなることではないと、初めから分かっていたはずなのに。苛立つあまり冷静さを欠いた自分を、亮太は呆れると同時に内心で思い切り罵った。

 あおいは神妙な面持ちで言葉を失っていた。その気まずい空気に耐えられず、

「ごめん、俺が悪かった。今のは単なる八つ当たり。忘れて」

 あおいは小さく頭を振るが、その面持ちは変わらない。それが亮太を余計に苛立たせた。それを何とか誤魔化したくて、亮太はあらぬほうに目をやった。

「亮太は、迷いはないの? 暗殺者であることに。人を殺すことに」

「迷いなんてないよ。今も昔も感じたことない。罪悪感も絶望感も単語でしか知らないね」

 あおいは小さく息を呑んで黙り込む。そしてひどく悲しげな表情で、

「……あたしは、人殺しなんてしたくない。暗殺者にはなりたくない」

 激しい水音と羽音が響き、亮太は反射的に音がした方向を見た。池の水面に浮かぶ蓮の葉に止まった鳩が飛び立つところだった。思いがけない音が空気を震わせるが、すぐに何もなかったかのような静寂が戻ってくる。

 陽はもう沈み、周囲はオレンジと藍が混じった夕闇に包まれていた。周囲の部屋に灯りが点いていないため、二人がいる空間にも次第に闇が侵食してくる。

「だけど、嫌と言ったらどうなるか、分かってるだろ」

 あおいの表情が痛ましげに歪む。それでも亮太はやめなかった。

「《ヴィア》は本気だよ。小父さんはああ見えて情け容赦のない人だ。小父さんの一声でたいていの人間は立場も金も、命でさえもあっさり切り捨てられる。俺や竹田さんだって例外じゃない。あおいは知らないだろうけど、《ヴィア》はそういう組織なんだ。人情や躊躇なんて持ち合わせちゃいない。あるのは闇を生きる者特有の冷酷さだけ。あおいの周りにいる人間なんて、小父さんがその気になればいつだってあの世に逝くよ」

「そんな」

「俺が冗談言ってると思う? 疑うなら今すぐ嫌だって言ってきて、その結果を体感すればいい。俺は止めないよ」

 夕闇に漂う空気が夜独特の冷たさに変わってくる。ふと見上げてみれば、藍色の空には刃みたく鋭くて細い三日月が昇っていた。一秒が経つごとに周囲は深い青に染められ、本来の姿は音もなく覆い隠されていく。 

「本当は答えなんかもう出てるんだろ。迷ってるって言うけどそれは違う。結論を口にするのを躊躇ってるだけだ。確かに出ている答えを、認められずにいるだけなんだ」

 あおいは黙っている。亮太はそれが答えだと受け取った。

「期限はあと一日ある。それまで考えればいい。選ぶものが分かってるなら、答えはもう出たも同じだ」

 亮太は苦い面持ちのあおいを無理やり立たせ、それまでと打って変わった明るさで笑う。

「あーあ、白の靴下のまま地面に足着けてたの? 汚れるじゃないか。家に帰ったらすぐ洗わなきゃ。マンションまで送ってくよ。今日はT田で任務があるから、そのついでに」

 あおいは少ししてから亮太の後ろをついてくる。その気配を背後で感じた亮太は、あおいの頬を一筋の涙が滑り落ちたことに気付いていた。ただ、それを見ると意味のない苛立ちが余計に湧いてくるので、あえて気付かぬふりをしてやり過ごした。



 バイトがない日の学校帰り、尋人は雪花にT田駅前まで呼び出された。

 指定された場所で落ち合うなり、雪花は尋人にドーナツ屋の箱を押しつける。

「あおい、今日欠席だったの。心配だから尋兄ちゃん、お見舞いに行ってくれる? あたし明日は英単語テストだから、帰って勉強しなくちゃいけないの」

 挨拶も抜きでそんなことを告げられ、尋人は唖然とするしかなかった。

「明日の英単語テスト、九十点以上取らないとレポートなの。どうしても受かりたいから勉強しなきゃいけないんだけど、あおいのことも心配だし。尋兄ちゃん、彼氏なんだから家も連絡先も知ってるでしょ? だから見てきてあげて」

 面食らった尋人は、家は知ってるが電話番号は知らないし、大体一人暮らしの女の子の家を男が訪ねるのはまずいだろうと反論した。しかし雪花は全く譲らない。

「あたしはあおいの家知らないし、それに、あたしが行くより尋兄ちゃんが行ったほうが絶対喜ぶから。ね?」

 雪花は渋る尋人を問答無用でF野方面行きのホームまで連れていき、電車の中にどんと押し込んだ。拒否権を奪われた尋人は、手土産を押しつけられた手前引き返すことができず、仕方なくあおいの自宅に向かうことにしたのである。

 あおいの自宅マンションは名前しか知らなかったので、駅で道を訊いてから歩いていった。F野駅から歩いて十分ほどの距離にある、十五階建てのマンションである。クリーム色の洒落た外観をしたそれは、オートロックの玄関といい駐車場が完備されている様といい、見るからに賃貸ではなく分譲型と分かるマンションだった。一人暮らしの女子中学生の住まいというより、新婚夫婦や核家族が住んでいそうと言ったほうがしっくりくる。

 ロビーのインターホンを押し、来訪の旨を伝えるとあおいは大層驚いたようだった。エントランスを開けてもらい、尋人はエレベーターで六階にあるあおいの部屋に向かう。

 部屋の前に着くと、尋人は覚悟を決めてインターホンを押した。一人暮らしの少女の住まいに上がる気は毛頭ないので、手土産を渡したらすぐに帰るつもりでいた。

 ドアが静かに開き、あおいが姿を見せた。尋人を見てやや驚く彼女の顔色は青白く、しかし病気というよりは、何だか疲弊しているような印象を受けた。

「よっ。ごめんね、突然訪ねたりして。雪花から今日休んでたって聞いてさ」

「あ……」

「雪花が心配してて。これ、お見舞いだって」

 玄関に入れてもらった尋人は、雪花から預かったドーナツの箱をあおいに手渡した。

「大丈夫? 少し顔色が悪いな。風邪か何か?」

「ちょっとしんどくて……。ごめんなさい、わざわざ来てもらって」

「謝らなくていいよ。俺も心配だったし。無理せずゆっくり休んで。それじゃあ」

「え、帰るの?」

 背後からきょとんとかけられた言葉に、今度はドアに手をかけた尋人のほうが驚いた。

「帰るのって……」

「上がっていかないの?」

「いや、上がるのはさすがに何ていうか、その、悪いしさ。あおいもしんどそうだし、俺は遠慮して」

「いいよ、気にしなくて。尋人が来てくれて嬉しい」

 そう言ってあおいはにこりと笑う。

「上がっていって。お茶ぐらいしか出せなくて申し訳ないけど」

「いや、そんな」

「嫌……なの?」

 悲しげに首を傾けるあおいに、尋人はぐっと言葉を呑み込む。あおいは柔らかに、

「上がっていって」

 もう一度帰ると言ったら泣かれるだろうなと、尋人は何となく思った。せっかく本人から申し出てくれたのに、無下にするのは冷淡だろう。尋人は腹を括ると、その言葉に応えることにした。

 あおいの後ろをついて歩き、尋人はリビングに入る。黄緑色の長いソファに大型液晶テレビ、食事用のテーブルにキッチンといった風景は、機能的だがどこかこざっぱりとしている。そして、中学生が一人で暮らす物件にしては明らかに広すぎると思った。置かれた家具や家電がどれも最新型である上、別室に続くドアが二つもある。

 群青色のワンピースに白のパーカーを羽織ったあおいは、冷蔵庫からお茶のボトルを出し、テーブルに並べた二つのガラスコップに注いでいる。尋人は鞄をカーペットに置いて、長いソファの隅に腰を下ろすことにした。

「二LDKなんだね」

 グラスを渡してくれたあおいは、尋人の言葉を受けて不思議そうに首を傾げる。

「この部屋。リビングとダイニングキッチン、それで他に二つ部屋がある」

 あおいは得心がいったように頷き、尋人の隣にちょこんと座った。

「一人で住むには広すぎるわよね。あたしもまだ慣れないの」

「一人暮らしって聞いてたからもっと狭いとこだろうと思ってたけど、何かすごい豪華だよな。家賃とかどうしてるの?」

「父が払ってくれてるみたい。この部屋は父が選んだらしいの。毎月、口座には父から振り込みがあって」

 尋人は感心しながらもう一度、室内をぐるりと見回す。そしてはっとして、

「ごめん、いろいろ訊いたりして」

 あおいは頭を振る。そして尋人から受け取ったドーナツの箱を開き、

「美味しそう。あたし、この店のドーナツ好きなの」

「そうなんだ。駅前のとこだよな」

「うん、前に雪花が連れていってくれたの。ありがとう」

「いや、買ったの雪花だから」

 全国チェーンで有名なドーナツ屋の箱には、アップルパイとオールドファッション、フレンチクルーラーが一個ずつ、ストロベリーリングが二個ずつ入っていた。あおいはストロベリーリングを一つ手に取り、

「尋人も食べて」

「え、でもこれはあおいへの土産だし、俺は遠慮するよ。実は甘いもの苦手なんだ」

 あおいは納得して、ストロベリーリングを一個取って食べ始める。少しずつ齧って味わっている様子を見ると、どうやら好きなドーナツであるらしいと分かった。その顔色こそ青白いが、食欲はちゃんとあるみたいだ。

 尋人はグラスのお茶を一口飲むと、

「その後、どう?」

「その後?」

「家族と連絡取れた?」

 あおいはドーナツを食べる手を止めて、少し視線を俯ける。

「……取れたよ。いろいろ話、教えてもらった」

「そうなんだ。父さんとか母さん、心配してたろ」

「母は、いない。あたしが生まれた後に亡くなったんだって。父は……」

 あおいの表情が翳り、言葉が止まった。沈鬱な空気が流れ始める。尋人は慌てて、

「ああ、ごめん。いいよ、話さなくて。嫌なこと訊いて悪かった」

 あおいが頭を振り、尋人はほっと胸を撫で下ろした。どうやら自分は彼女の憂い顔を、すぐ泣き顔と結びつけてしまう癖があるようだ。

「……何も訊かないの?」

 怪訝そうな響きをした呟きが鼓膜に触れる。そう言ったあおいの表情はどこか強張っていた。まるで怯えているような、もしくは引き攣っているような。

「訊かないよ。詮索してほしくないだろ? 俺からは訊かない。あおいが話したいって言うならいつでも聞くけど、無理やり詮索するような真似はしないよ」

 あおいの表情からほんの少し力が抜ける。その微妙な変化は安堵なのか落胆なのか、尋人には判断がつかなかった。

 思えば自分は、あおいのことをほとんど知らない。しかし無理に知ろうとすれば、逆に彼女をひどく傷つけてしまう気がして怖かった。あおいを深く知りたいという欲望と、下手に触れてはいけないという躊躇が脳裏でせめぎ合う。

 あおいは半分になったストロベリーリングを見つめ、

「……雪花」

「え?」

「雪花、あたしのこと心配してくれたの?」

「ああ。今日休んでたから心配だって言ってた。連絡先知らないから連絡も取れないって。……ああこれ、雪花の携帯番号とメルアド。渡してって言われてたのを思い出した」

 尋人はブレザーのポケットから出した小さなメモをあおいに渡す。あおいはそれを見ては丁寧に折り畳み、

「雪花、学校でとても優しくしてくれるの。誰もあたしに関わろうとはしないのに。だからあたし、心配で。あたしといることで、雪花が他の子に嫌われてるんじゃないかって」

「それは心配ないんじゃないかな。ああ見えて雪花、要領いいから。もし何かあったら俺に言ってくるだろうし、俺も今のところ何も聞いてないから」

 あおいはほっと頬を緩める。今の拙い言い回しで、果たして励ましになったのだろうか。我ながら自信が持てず、尋人はあらぬほうへ視線を泳がせる。

 あおいは少し沈黙した後、

「ねえ尋人。……訊いていい?」

「いいよ。何?」

 あおいは迷っているのか、すぐには口を開かない。やがて消え入りそうな声で、

「尋人の家族って誰かに殺されたの?」

 思いもかけなかった質問に、尋人は鼓動が跳ねてつい目を見開いてしまう。

「前にそんなこと言ってたから、少し気になって。でも、面と向かって訊くようなことじゃないわよね。……ごめんなさい」

 あおいは申し訳なさそうに俯いた。尋人は慌てて、

「いや、そんな、あおいが気にすることないよ」

 そう言いながら、尋人はその時の記憶を手繰り寄せようとした。しかし思い出せない。いったいどんな話の流れで、自分はそれを口にしたのだろう。尋人は首を捻った。

 そんな尋人を見て、あおいは表情に憂色を濃くして目を伏せる。思い出すことに集中していた尋人は慌てて、

「いいよ、気にしなくて。別に俺、怒ってないし。そうだな、あおいになら話してもいいかな。この話、幼なじみの奴らしか知らないんだけど」

 あおいは顔を上げ、尋人を見つめる。尋人はグラスのお茶を軽く口に含むと、覚悟を決めて語り始めた。

「俺さ、両親が死んでるんだ。今の両親は養父母ってやつ。生みの親は俺が五歳の時に殺された」

 自分でも意外なぐらい、心の中が研ぎ澄まされたように静かになる。尋人は当時の出来事を思い起こすため、少しだけ目を閉じた。

「俺の実の父さんは刑事でさ、母さんは元警察官。今じゃもう、面影ぐらいしか浮かばないけど。母さんは一番上の兄さんを産んですぐ、仕事を辞めて専業主婦になったらしい」

「ケントさん……?」

「あ、知ってるんだ、兄さんの名前」

 あおいはきまりが悪そうに視線を逸らす。佐知子から聞いたのだろうと思い、尋人はそれについて詳しく問うことはしなかった。

「俺と兄さんは十歳年が離れてて、俺と雪花は三歳差。だから、父さんと母さんが死んだ時、兄さんは十五で雪花は二歳だったんだ」

「どうして、亡くなったの……?」

「二人で車で買物に行ってた時、後ろから大型車に激突されて、父さんたちの車が大破炎上してさ、救急隊や警察が来た時にはもうだめだった。犯人は父さんが昔強盗で逮捕した男で、服役終えて出てきたその日に父さんたちを狙って車をぶつけたらしい。つまり逆恨みってわけ。父さんと母さんは死んだけど、犯人は全身打撲や骨折だけで助かった」

 さらりと説明しようと思ったのに、自然と訥々とした口調で語っていた。久しぶりに疼いた癒えぬ傷の痛みに尋人はつい、言葉にはならない感慨を覚えてしまう。

「それから俺たちは母方の叔母宅に引き取られた。今の杉原の家さ。本当の苗字は木村っていうんだ。あの頃の俺は今よりずっとガキで、物心はついてたけど状況を鵜呑みにできるほどじゃなかったから、親は死んだんだ、二度と戻ってこないんだぐらいのことしか分からなかったな」

 あおいが痛ましげ目を細める。その表情を見て、尋人は続きを口にするのを躊躇った。しかし、久々にはけ口を見つけた気持ちが迷いを押しやり、無意識のうちに自然と言葉が零れ出る。

「そんなこんなで一族は大混乱。兄さんは怒ってた。俺は泣いてた。雪花は……まだよく分からなかったんだろう。いきなり両親が叔母夫婦に変わって戸惑ってたのかもしれないけど、詳しい事情までは明らかに分かってなかったな」

 尋人はお茶を二口ほど飲むと、

「まあ、それからいろいろあってさ。今の父さんたちが話し合って、雪花には言わないでおこうってことになったんだ。幼い雪花に全てを受け止めさせるのはあまりに酷だから」

「……じゃあ、雪花は何も知らないの?」

「何もってわけじゃない。実の親は交通事故で死んでて、今の親は育ての親だって言ってある。でも、殺人とか逆恨み云々とか、背後の事情までは話は教えてない」

「でも……」

 あおいは言いかけて、思い留まるように口を閉ざす。尋人はその先に続く言葉を正確に理解した。

「分かってるよ。いつまでも隠し通すことはできない。いずれあいつも知る時が来るだろう。だけど、それはなるべく先延ばしにしたいんだ。傷つくのは何も今じゃなくていい。それが俺や兄さん、父さんたちの考え。……だから雪花には秘密。な?」

 あおいは何度か瞬いて、やがて小さく首肯する。そして気遣うような眼差しで尋人を見上げ、ブレザーの裾を指先だけできゅっと握った。

「……憎んでる? その人のこと」

 尋人はあおいから少し視線をずらす。

「そりゃあ憎いよ。憎くないって言ったら嘘になる。……でも成長するにつれて、冷静に考えられるようになったから。少なくとも前みたいに四六時中、恨み続けてやる、復讐してやるっていう感じじゃないな」

 その言葉に、あおいが心なしかほっとした表情になる。

「でも兄さんは、そういうわけにはいかなかったみたいだ。兄さんは刑事になった。一族中の反対を押し切って、大学を卒業したら警察に入った」

「復讐のために……?」

「それもあると思う。でも俺、それを否定することはできないんだ。あの時俺がもう少し年齢が上で、もう少し周りがよく見えていたら、きっともっと激しく犯人を憎んでた。恨みや呪いって言っていいぐらいに。俺はどっちかっていうと、犯人が憎いっていうよりも、許せないって気持ちのほうが強い。だから俺は人殺しが嫌いだ。この世で何よりも最低で最悪だと思ってる」

 底冷えした声音が響く。隠していた本音が口から漏れ、尋人は内心激しく動揺した。普段は目を逸らしている己の一面を、改めてまざまざと見せつけられた気分になる。それをあおいには気付かれたくなくて、話題転換も兼ねてわざと明るい声で話す。

「実は進学で法学部を選んだのも、そういう気持ちがあったからなんだ。高校卒業したら姉さんの事務所に勤めたり、警察学校に入学するっていう手もあったんだけど、少し考える時間がほしくてさ。法律を勉強しながら四年間の猶予期間の中でゆっくり考えたら、自ずと答えが見えてくるかなって」

 あおいがブレザーの裾を掴み、くいと引っ張った。物言いたげな表情で、しかし口にするのを躊躇っているのか、何も言おうとしない。尋人はその手をそっと包むように握った。

「ごめんな、こんな暗い話して」

 あおいは激しく頭を振る。そして尋人に寄り添い、その肩に顔を埋めた。尋人の心臓が突然跳ね上がる。

「尋人は優しいね」

 尋人は激しく戸惑って、すぐに返事ができなかった。

「すごく、優しい」

 消え入るような呟きが、ほんの少し震えを帯びていることに気付く。何があおいの心を揺さぶったのか、尋人には分からなかった。気の利いた言葉が見つからず、尋人は途方に暮れる。

 二人の間に沈黙が流れる。尋人は恐る恐るあおいの背に手を回し、微かに震える体をそっと抱き締めた。

「どうしたの?」

 囁くように尋ねると、あおいは肩に顔を埋めたまま、小さく首を横に振った。

「何でもないの、何でも……。ただ」

「ただ?」

「少しだけ、こうさせて」

 聞き逃してしまいそうな掠れた声が、尋人の心を鷲掴みにする。尋人はあおいの体を引き寄せると、抱き締める腕に力をこめた。あおいが縋るように尋人の背中に手を回す。聞こえる音はもう、肌で感じる互いの息遣いしかない。尋人はあおいの震えが止まるまで、時間も忘れて抱き締めていた。

 どれぐらい時が経ったのだろう。二人が体を離した頃、陽は沈み出していた。

「……俺、帰るよ」

 あおいの瞳が大きく揺らぐ。一瞬で決意を挫かれそうになった尋人だが、

「元気そうな姿を見て安心した。何かあったらまた来るから」

 寂しそうに表情を翳らせるあおいに、尋人は心をかきむしられる。だが思い直すと、尋人はあおいをもう一度引き寄せて口づけした。

「そんな顔するなよ。会おうと思えばいつでも会えるんだから」

 あおいは寂しそうにしながらも、ふわりと微笑んで頷いた。こみ上げる思いを隠して、尋人はソファから立ち上がり、鞄を持って玄関へ向かう。その後ろをあおいがついてきた。

「今日はありがとう」

 尋人は靴を履きながら頷いて、

「早くよくなるといいな。無理はするなよ」

「うん。……雪花にも、ありがとうって伝えておいて」

「分かった」

 尋人は玄関のドアを開けた。そして最後に振り返ると、

「じゃあまたな」

 あおいは両の指を胸の前で絡め、小さく頷いて淡く笑った。

 尋人は一度手を振ると、そっとドアを閉める。そして誰もいない廊下を、エレベーターに向かって歩いていく。ひっそりとした静寂の中、後ろ髪を引かれるような思いに駆られても、尋人はあおいの部屋を振り返ることはしなかった。

 そして玄関で見送ってくれたあおいが、ドアが閉まった瞬間、その場に泣き崩れたことを、尋人が知る由はまるでなかった。



 淡いオレンジ色のランプに照らされたリビングで、あおいはソファで膝を抱えていた。白いレースで飾られたガラステーブルに、解体された一丁の拳銃と弾倉が置いてある。

 瞼に溜まった涙をごしごしと拭い、あおいはようやく立ち上がった。濃い闇と淡い光が調和している空間を歩き、コードレスを手に取ってもう一度ソファに座る。あおいは登録した番号を呼び出すと、通話ボタンを押して耳に当てた。

 四回のコール音の後、明朗な声の女性が出た。

〈はい、杉原調査事務所です〉

 あおいは一瞬黙り込む。

〈もしもし、どちら様?〉

「あ、あの……水島あおい、です」

 電話の相手──杉原佐知子は息を呑むように言葉を止めた。

「ごめんなさい、こんな時間に電話したりして」

〈気にしないで。こちらこそごめんなさい。不意打ちだったからつい驚いてしまったの。いずれ連絡があるだろうと思っていたけど、随分と早かったわね〉

「お仕事、忙しいですか……?」

〈まあね、こんな時間に事務所の電話に出るぐらいだから。やってもやっても終わらないし、今日はこのまま泊まるつもりなの。……って、あなたに愚痴っても仕方ないわよね〉

 あおいは壁時計を見上げた。十一時四十分という時刻を見て僅かに目を見開く。

「ごめんなさい、こんな夜中に……」

〈気にしないでって言ったでしょ。こんな時間、夜中のうちにも入らないわ。……あなたはあたしに話したいことがあるんでしょう? これは所長室の電話よ。周りには誰もいないわ。時間を気にせず、あなたとゆっくり話すことができる〉

「あたし……あたし、暗殺者に戻ります」

 電話の向こうで佐知子が沈黙する。

「父に言われました、《ヴィア》に戻るようにと。あたしが歩く道は闇しかないのだと。もし逆らうと、尋人や雪花や、佐知子さんを殺す……と」

 あおいはコードレスを強く握った。

「あたしが暗殺者に戻れば、尋人は死なずに済む。だけど、あたしが嫌だと言えば尋人や雪花……みんなが殺されてしまう。あたしは、あたしのせいで周りの人が不幸になるのは嫌。あたしが罪を犯すことで尋人が救われるなら、あたしはいくらでも手を汚します」

〈それがあなたの答えなの?〉

「……はい」

〈だけどそれは、尋人への裏切りでもあるわ〉

 あおいは息を呑んだ。

〈尋人はあなたが好きよ。あたしの忠告を破ってあなたを好きになった。あの子は本気よ。尋人はあなたが心から好きで、あなたをきっと信じている。その決断は、表向きでないとはいえ、尋人の気持ちを裏切ることになるのよ?〉

「あたしは……あたしは、尋人が大切なんです。この世界の誰よりも、何よりも大切で。尋人はあたしを理解してくれた。あたしはあたしだと言ってくれて、抱き締めてくれて……。こんなにあやふやで、不確かで罪深いあたしを、好きだと言ってくれた」

 じわりと浮かんだ涙が頬を滑る。

「あたしも尋人が好き。空っぽで何もないあたしが、初めて見つけた確かなもの。あたしは尋人を失いたくない。尋人に死んでほしくない。尋人を失ったら、あたしはもう生きていけない。生きる意味なんてない」

〈だからあなたは選ぶの? 自分を傷つけることを〉

「あたしが罪を犯すことで尋人が救われるなら、あたしは傷ついたっていいです。そうすることでしか、あたしは尋人を……大切なものを守れない」

〈守りたいの?〉

「守りたい。死なせてしまうなんて、そんなことは絶対に嫌です。あたしが傷つくことで守れるなら、それがたとえ許されないことでも、そんなことは怖くない。死なせてしまうほうが……失うことのほうが、もっと怖い。誰よりも好きだから。自分よりも、大切だから。尋人を……尋人を、死なせたくないんです」

 あおいは左手で涙を拭うと、荒くなった呼吸を整えた。

〈それでも尋人は傷つくわ。傷ついて悲しんで、あなたから離れていくかもしれない〉

「それでも……それでも守りたい。嫌われてもいい、嫌われてもいいから……死なせてしまう、失うことだけは絶対に嫌なんです。騙すことになって、全てを知られて傷つけても……嫌われても、尋人が生きているならあたしは構わない」

〈決意は固いのね。自分が傷つくことよりも、相手が傷つくことのほうを恐れる……あなたをそこまで動かすものは何? 《ヴィア》の娘としての血? それとも尋人の存在?〉

「あたしでも分からない。ただ、守りたいと思った。きっと初めて、守りたいと思ったんです。傷ついてもいいから、失いたくないって。約束を……もう二度と誰も殺さないっていう約束を、守れなくてごめんなさい」

 長い沈黙の後、佐知子は深く嘆息した。

〈覚悟を決めてしまったのね〉

「……分かっていたんですか? こうなることを」

〈大体の予測はしていたわ。言ったでしょ、《ヴィア》はあなたを決して逃さないと。だけど、それを止めるのもあたしの役目だと思っていたんだけど、どうやら遅かったみたいね〉

「……ごめんなさい」

 あおいはコードレスを右手から左手に持ち替える。

「佐知子さん、お願いがあります」

〈何かしら〉

「あたしの過去を調べてください」

 佐知子は沈黙する。

「あたしは《ヴィア》の娘。あたしの過去を調べれば、《ヴィア》が何なのかがきっと分かってくるはずです。それをあたしに突きつけて、あたしを追い詰めてください」

〈そうしてどうするの?〉

「罪を犯すあたしを追い詰めて、本当のあたしをあたしに突きつけてください」

〈それで?〉

「……《ヴィア》を、壊します」

〈父親に反目するってこと?〉

「あたしは父を、父だとは思っていません。本当の父親なら、娘にこんなことを強いたりしない。父は罪人です。あたしはあたしの全てを知ったら、父がいる《ヴィア》を壊します。そして、あたしの罪を償います」

〈どうやって?〉

 あおいは口を閉ざした。

〈随分と大それた話ね。《ヴィア》を壊すだなんて、一筋縄どころの話じゃないわ。あなたは《ヴィア》の本当の恐ろしさを知らないからそんなことが言えるのよ。《ヴィア》はあなた一人でどうこうできるような生温い組織なんかじゃない。正気の沙汰とは思えないわね〉

「それでも」

〈父親を殺すの? あなたは〉

「……そうなったとしても、あたしはあたしの罪を償います。法があたしを裁けないなら、あたしがあたしを裁きます」

 佐知子は深々と長い嘆息を漏らす。

〈傍から見たら志は立派だけどね、現実問題として、あなた一人でどこまでできるかしら。具体的にどうやって罪を償うつもり? 自分で自分を裁くなんて恐ろしいこと言うけれど、まさか死をもって償うとか、そういう心積もりでいるんじゃないでしょうね?〉

 あおいは瞑目した。

〈いい? 罪を償うというのは、自らの死とは全く結びつかないのよ。罪を悔いて自ら命を絶つというのは、ある意味潔くて綺麗な決断に見えるかもしれない。だけど実際は違う。自殺は他殺と同じくらい罪深いの。もしかしたらそれ以上かもしれないわ。たとえ己の命であっても、命を粗末に絶つことに変わりはないのだから〉

 あおいは黙り込む。

〈自殺は決して償いにはならない。罪は生きて償うものなの。人生の中で犯した罪は、残りの人生をいかに生きるかによって償われる。それが己を裁くことに繋がるの。あなたの決意は裁きにも償いにもならない。とても愚かしい決断だわ。それにあなたはもう、一人で生きているわけじゃないのよ〉

 あおいは瞼を震わせる。

〈記憶があった頃のあなたは、恐らく地獄の中にいたんでしょう。闇深い中にたった一人で、孤独を抱えたまま生きていた。でも今はそうじゃない。あなたには記憶という確かなものがなくても、尋人や雪花がいて、今の生活がある。それはきっと、以前のあなたとは比べ物にならないはずよ〉

「そう、でしょうか……」

〈あなたが一番よく分かっているはず。あなたは尋人と出会った時にもう、一人ではなくなった。あなたには生きる理由ができた。失いたくないものを見つけた。その時点でもう、あなたは一人じゃない。あなたの苦しみや悲しみを共有したいと思う人間がいる。あなたはそれを失いたくないと願う。生きるとはそういうことよ〉

 佐知子はそこで言葉を切ると、先程よりも優しく強い声音で告げる。

〈覚えておいて。あなたの命は、あなただけのものではないのよ。たとえこの先何が起きたとしても、それだけは決して変わらないわ〉

「……はい」

 少しの沈黙の後、佐知子が一つ息を吐く。

〈いばらの道ね。通ろうとする度に棘が肌に刺さって、身も心も傷だらけになって。その傷はもしかしたら、一生消えないかもしれないわ〉

「それでも、歩き続けるしかないです。罪を償うために。……あたしがあたしを、取り戻すために」

 佐知子はしばし黙り込むと、

〈いいわ。その依頼、受けましょう。過去の自分を見つけることで、《ヴィア》を壊す糸口を掴みたい。それがあなたの望みね〉

「はい」

〈分かったわ。……そうね、あなたにはあらかじめ、伝えておこうかしら。実はあたし、《ヴィア》とは浅からず因縁があってね。尋人は知らないんだけど、ずっと前から《ヴィア》を追っていたのよ〉

「佐知子さんが《ヴィア》を……? どうして」

〈理由は機会があれば話すわ。要するに、事情は違えどあたしもあなたと同じってわけ〉

 あおいは激しく瞬きをする。

〈あたしはあなたを調べることで《ヴィア》に介入する。あたしの手で追い詰めて、その存在をぶっ壊す。そして全ての罪を白日の下に晒してやるわ。その目的のために、あなたを利用させてもらう〉

 高らかな響きを持った宣言に、あおいは瞑目した。

〈利害の一致ということでどうかしら。あたしはあなたを警察に告発しない。一調査員として、あなたの依頼を仕事としてちゃんと果たすわ。だけどその代わり、あなたはあたしに《ヴィア》の情報を提供する。協力体制とまではいかないけれど、お互いの目的のために一番手っ取り早い方法だと思わない?〉

「あたしは構いません。佐知子さんの好きなように使ってください」

〈怒らないのね〉

「怒るなんて……。《ヴィア》を壊したいという願いは、きっと同じだと思うから」

 電話の向こうで、佐知子がふっと微笑んだ。

〈交渉成立ね〉

 目を開いた時、涙は既に乾いていた。あおいはまだしっとりと濡れている頬に、そっと掌を当てた。

〈あたしが言ったこと、忘れないでね。あなたはあなたの道を行く。たとえいばらだとしても、己を取り戻すために歩みを止めない。でも、それは決してあなたが一人だからじゃないわ〉

「……はい」

〈生きることは、決して一人ではできない。己の意思で歩むことも、罪と向き合うことも全て。それがあなたの望みなら尚更、自分が一人だとは思わないことね〉

「はい」

〈何かあったらいつでも連絡してちょうだい。こちらからも何か分かり次第、連絡するから。あなた、学校はどうするの?〉

「通います。あと、このことは誰にも」

〈言わないわ。調査員には依頼者への守秘義務があるから。安心しなさい〉

 あおいはほっと息をついた。

〈夜はまだ長いわ。明日は学校でしょう? 早めに休みなさい〉

「はい。佐知子さん、ありがとうございます」

 あおいはそっと通話ボタンを切った。

 コードレスをガラステーブルに置いて、解体していた銃に手を伸ばす。無駄のない手つきで銃を組み立て、弾倉を装填してスライドを引く。そして照準を定めるように銃口を突き出した。黒いテレビ画面に銃を構える己が映る。その瞳に色や揺らぎはない。

 あおいは胸の前で銃身をそっと撫でる。そして、淡いランプの光を受けて黒光りするそれを、無言のまましばし見つめ続けていた。



 夕闇が青空に染み始める頃、あおいは学校を後にした。

 部屋に帰るなり制服をハンガーにかけ、チェストから小花柄のカットソーを引っ張り出し、その上にグレーの長袖パーカーを羽織る。そして紺色のミニスカートを穿いて、学校指定の白のハイソックスから黒の短い靴下に履き替えた。

 着替え終わると、あおいは菓子パンとインスタントのスープで夕飯を摂る。その後はダイニングテーブルで宿題を片付けた。数学のワークの三ページに差し掛かった頃、壁時計が九時前を示しているのを見て手を止める。

 あおいは寝室に戻り、クローゼットからベビーピンクのポシェットを取る。そこに拳銃と弾倉、折畳み式のサバイバルナイフを入れた。ガラステーブルにあった携帯電話を握り、家の鍵とポシェットを持つと室内の電気を消す。そして玄関でスニーカーを履き、ポシェットを斜め掛けにしてからドアに鍵をかけた。

 外はどっぷりとした深い夜だった。あおいは電車に乗って、T田方面の七つ先の駅を目指す。

電車を降りると、ネオンの少ない閑静な町に着いた。あおいは街灯も僅かで人通りも少ない道をひたすら歩く。

 無音で震えた携帯電話を取り出し、発信者通知も見ずに通話ボタンを押した。

〈向かっておいでのようですね、お嬢様〉

「……竹田」

〈任務内容は分かっておられますな〉

「ええ」

〈ターゲットは十人。全て《ヴィア》に害なす輩です〉

「ええ」

〈お嬢様の任務は彼らの抹殺です。躊躇や情けなどなさいませぬよう〉

「ええ」

〈後始末は我らがいたしますゆえ、お嬢様は任務遂行のみに集中なさって〉

「分かってる。ねえ竹田、一つだけ訊いていい? 約束は、必ず守ってくれるわよね」

〈無論。我々が違えることはございません。杉原尋人並びにその家族の命は、旦那様が保証いたします〉

「……ならいいわ」

 あおいは通話を切って携帯電話をポケットにしまった。そして足を止め、辿り着いた目的地を仰ぎ見る。

 それは三階建ての廃墟だった。灰色のコンクリート壁が剥き出しになり、人気や活気とはまるで結びつかない朽ち果てた建物。

「煙草と、人影。上の人影は、外を見張っている」

 あおいの独り言に呼応するように、建物の中でいくつかの影が大きくうごめいた。

「気付いているのね」

 あおいはポシェットから拳銃を出すと、消音機が着いていることを確かめて構える。そして銃口を二階の窓に向けて引き金を引いた。照準をほんの少しずらしてもう一度撃つと、間髪を入れずに三階の窓へと狙いを定めて今度は連射した。薬莢が地面に音を立ててぶつかる。あおいはそれに目をやることなく、朽ちかけの建物へと踏み出した。

 古く錆びた鉄の階段を、足音を殺しながら一段ずつ昇る。あおいは二階のドアの真横に張りつくと、片手でノブを音もなく回して勢いよく開け放った。

 あおいは壁から姿を現すなり、手慰みのように何発も続けて撃った。中にいた三つの影が立て続けに倒れる。

 その時、いくつかの足音が三階から慌ただしく駆け下り、後ろから派手な銃声の波が容赦なく押し寄せてきた。一発目の銃声が轟くより早く、太めの柱を盾に身を隠したあおいは、音が止んだ一瞬の隙を逃すことなく的確に撃ち返す。すると、それを掻い潜った一つの気配が柱に隠れたあおいに突進し、闇雲に手を伸ばして捕らえようとした。あおいは難なくそれをかわすと、よけられて身を崩したその心臓をすかさず撃ち抜く。

「だ、誰だお前は!」

「ガキが生意気な真似しやがって。死ねぇ!」

 一つの影があおいめがけて大きく足を振り上げる。その靴が腹に直撃する寸前で、あおいは地を蹴って飛び上がると相手の顎に回し蹴りを食らわせた。背後に回ったもう一人に腕を掴まれる前に、身を屈めてその両足を勢いよく蹴り払う。そしてすぐさま立ち上がると、反撃を食らって呻く影を撃ち抜いて息の根を止める。

「き、貴様……っ」

 顎を蹴られ仲間も全て倒された男が、今にも崩れそうな四肢を支えながら憎々しく唸る。

「お前、《ヴィア》の手の者か。やはり俺たちの動きを掴んでいたんだな。今夜ここで俺たちが取引すると」

 あおいは瞑目すると、トリガーにほんの僅かだけ力をこめた。次の瞬間、命を失った男がどさりと仰向けに倒れ、からんと落ちた薬莢が殺戮の終わりを言葉もなく告げる。

 あおいは建物内の死体を目で数えると、拳銃をポシェットにしまってその場を後にする。スニーカーの底がアスファルトを踏み締める小さな音だけが規則的に響いた。

「……いばらの道。それでも、あたしは」

 あおいはぎゅっと手を握り締めた。ただ前を睨むようにして歩を進める。

 あおいは立ち止まらない。暗闇の道をただまっすぐに歩き続けた。

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