第2話 覚醒

「ヒャッハー! おめぇら、楽しい年貢の取り立て日がやってきたぞ!」


 巨大な馬に乗った巨漢が、ヘラヘラ笑ってやってきた。

 油ギッシュなこの男が、領主様だ。

 腹の出たお腹をさすりながら、濠かなマントをひるがえした。

 手下の取り巻きが、醜悪な笑みを浮かべてぞろぞろとついてくる。

 どう見ても悪党とその子分たち。



 恐れていた日がやってきたのだ。

 今年は見事な不作。



「ん? 駄目じぇねぇか! おめぇら! 全然たりんぞ。

 このままだと、おめぇら全員に超痛ぇお仕置きをしてやる必要がある。

 だがワシはヤラ……いや、優しい。エルフの女は人間界で高く売れる。おい、小娘。お前、村を代表して肉奴隷になれや!」


 領主様が指差した先はエルフのローザ。

 彼女の髪の毛は緑、細身で色白の少女である。


「私が行けば、皆は助けてくれるんですか?」


 エメラルドグリーンの瞳を赤く染めて言う、ローザ。 


「あぁ、そうだ。お前が超不幸になれば、他の連中はちょっぴりだけ幸せになれる」



 他の小作人が、「駄目だ、ローザ。お、俺が奴隷になるから……」


 領主様の足元で土下座して嘆願する男を蹴飛ばした。


「ムサい男なんていらねぇ! おい、アキヒコ。なんだその顔は!」


 ローザは優しい子だった。

 小作人という絶望的な職業を選んだことを毎日後悔していた。それでも俺が頑張れたのは、彼女がいたから。

 彼女が励ましてくれるから俺は頑張れた。


 くそぅ。

 剣士や魔法使いを選んでさえいれば、こんな奴なんかに……



「おい、てめぇは今、ワシに恨みをいだいているな。その目、その根性が気にいらねぇ! おい、アキヒコにムチをくれてやれ!」



 手下の一人が俺にムチを振った。

 ど、どうしたというのだ。

 ムチがスローモーションに見える。

 

 簡単によけれそうだ。

 だけど下手によけたら、余計に怒りを買うだけ。

 俺は強く目を閉じて、奴の攻撃を耐えようとした。


 

 ピシャリ。

 どうしたんだ?

 痛くもかゆくもないぞ。


 今度は棒で叩こうとしている。

 これまた何ともない。

 それどころか、勢いよくぶつけてきた棒の方が折れた。


「な、なんだ? 何をしやがった。おめぇ、小作人のくせに生意気だ」


 手下共が俺を取り囲み、ムチや棒で叩いてくる。

 俺は反射的に、手で押しのけた。

 なんだ、これは!?

 手下の一人が遥か上空へ吹き飛ばされ、そのまま星になったぞ。

 次々と襲い掛かってくるチンピラ共を、俺はハエをはたくように軽く撫でた。それだけで吹き飛んでいく。


 領主が目玉を丸くして、

「……どうなっているんだ!? あの小作人のアキヒコが……。てめぇ、小作人の分際で……

 グググ。だがな、お前は、何やったのか分かっているのか?

 その行為、謀反だ。一揆だ。ワシに逆らったら、てめぇらは皆殺しだ。そういう掟になっている」

 

 

 もしかして、俺は――

 

 

 「……うるせぇよ……領民を泣かすゴミ野郎」

 

 「なっ!?」

 

 「うるせぇって言ってんだろ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る