農民無双
弘松涼
第1話 プロローグ
In order to be irreplaceable one must always be different.
「かけがえのない存在になるには、常に人と違っていなければならない」
ココ・シャネル
20世紀を代表するファッションデザイナーのひとりで、ファッションブランド「シャネル」の創業者の言葉である。
成功者は常に人と違う生き方を選んできた。
だから俺は躊躇なく選んだんだ
職業――『小作人』。
小作人とは、領主様から土地を借りて田畑を耕し、年貢を納める最弱ユニット。
敢えて選ぶ奴なんて誰もいない。
みんな剣士や魔道士を選択して、冒険へと旅立つ。
ここは体感型オンラインRPG。
ヘッドギアを装着する事でネットへと意識が接続され、まるで本物のような世界で生活をしているかのように冒険できる。
この次世代の技術が評価され、今、爆発的に売れている。
このゲームのすごい所は、バーチャルリアリティ技術だけではない。
追及されたリアル志向で、マニアックな職業まで用意されている。ニートや泥棒、徒刑囚、奴隷といったものまであるのだ。
だが大抵詰んでしまうらしく、説明書にはその旨の注意書きが記されてある。
俺は単に遊び心で選んだだけだ。
怖いもの見たさってやつ。
職業――『小作人』。
それなのに……
まさかの事態が起きた。
ネット障害が起き、意識と体が完全に分断された。300万前後いたユーザー達は、このオンラインの世界に閉じ込められてしまったのだ。
開発者も何人かいたようで、彼らは復旧に努めたが内部からだとどうすることもできなかった。
彼らは告げた。
「すいません。我々の力ではどうすることもできません。
外からの助けを待つしかありません。
それまで絶対に生き延びてください。
今、皆さまの体は意識と分断されています。
もし死んでしまうと、通常ならログアウトされます。肉体に強制送還されるのですが、そのプログラムは機能しないのです。
――つまり、この世界で死ぬと、……終わりです」
ざけんな。
俺は小作人になっちまっている。
毎年多額の年貢を納めるだけのマゾプレイを強制されているんだ。
そして三年が経った。
未だ俺は小作人。
田畑を耕して領主様に年貢を納めなければならない。
明日はその約束の期日。
このエルフの村では、俺のように小作人のNPC達が悲壮感を漂わしている。
今年は雨があまり降らず、不作だったのだ。
だが領主様は容赦ねぇ。
もし年貢が足りなければ、ムチを食らい場合によっては借家まで没収される。
このままだと冬が越せない。
のたれ死んでしまう。
この時の俺は知らなかった。
プレーヤーは武器で攻撃すると経験値がたまり、その反復作業を繰り返すとレベルが上がることを。
俺は来る日も来る日も振り続けた。
雨が降ろうが、嵐が来ようが振り続けた。
年貢を納める為に必死に死にもの狂いで振り続けた。
睡眠時間まで削って振り続けた。
クワを。
ただひたすらクワを。
とにかく明日、領主様がやってくる。
ネーム:アキヒコ
レベル:9999
種族:エルフ
EXP:99999999999999999
武器:農民のクワ
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