第3話 佐々木さん

佐々木さんの朝は早い。

常に一番乗りでダイニングへ現れ、朝からおかわりをして部屋を出ていく。



佐々木さんは大人しそうなヤンキーといった見た目で、髪の毛の色は黒と金と白(若白髪)。一重の細い目は弧を描くことはなく、整えている眉毛が眉間によると、怯える人もちらほら。


建設現場で働く体は焼けて年中黒く、細マッチョ的な(あずきに言わせるともう少し肉がほしい)体型は、ちょっとだらしない体型になってきたあっくんから見ると、羨ましい限り。


でもハウスの住人は、佐々木さんが優しいのを知っている。


「ヤマショー、お疲れ。」

「うっす。」

「ちょっと飲もうぜ。」

「いいっすよ。」


トーモリさんとは部屋が隣ということもあり、仲が良い。

入居して暫く、皆が怯えて話しかけるのを戸惑っている時、ヨシばあ以外に声をかけたのがトーモリさんだった。


「缶、テーブルに置いといて。明日缶ゴミの日だし。」

「俺出る時捨てて行くんで、部屋に持って帰りますよ。」

「いいよいいよ、ゴミ持って帰らせるなんてないわ。」

「明日トーモリさん休みっすよね。ゆっくり寝ててください。んじゃ。」



段取りよく、さっぱりしていて、男らしい。

余計なことはあまり口にせず、礼儀を弁えている。それが佐々木さんである。




ただ、あずきには例外のようだ。


「食べ過ぎじゃねえ?」

「量減らせよ。」

「ジムの割引券やるよ。」


あずきははっきり言ってデブである。

体重にまつわる嫌みを合うたびに言われるので、あずきは佐々木さんが嫌いだ。


「あーもーうるさいうるさい。」

「どーせ食べてすぐ寝てるんだろー。」

「あー聞こえない聞こえない。」

「佐々木。」


あまりにも貶すので、302号室の瀬川に注意される始末。

ふてくされてそっぽを向くが、少し経つとまた視線はあずきに戻る。


瀬川が睨み付けると、開きかけた口を閉ざし、コップの中の麦茶を一気に飲み干した。

そうしてあずきは食べ終わるとさっさと席をたち、佐々木さんには目もくれず、部屋を出ていく。きっとこのあと女二人で女子会でもするのだ。



「ヤマショー、やりすぎ。」




ハウスの住人は知っている。

佐々木さんは恋愛ベタであるということも。




しかし佐々木さんは知らない。

あずきに嫌われているということを。

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