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 私が死にたいと思ったことは、心の内では何度もあって、仕事で疲れた日なんかは、まるで呪文のように、私の心を奮い立たせた。何処へも行けなくても、事態が悪くなるばっかりでも、だって最期は同じじゃない? そんなつもりだったかもしれない。


 電話口で、そんな私の細かい部分を話していると、胸がスッとした。電話の相手の人たちは、決して「分かるよ」とか、「大変そう」なんて言わない。ただ、「そうか」、「それで?」と、私の話したいように促してくれるだけ。


 

 これを、自然な会話とは言わないだろうけれど、でも、まるで時間を奪い合うように、互いの自慢話をする世の人たちを見ていると、相手の話に興味があるというより、ただ、自分の話をしたいだけのように見える。だから、私も、そんなに変わらない。相手と場所を選んでいる分だけ、自覚があるのは、いいことだ。


私が電話の声を区別できるようになってくると、向こうの人たちも、私が常連であることに、気づくようになった。そのせいか、”同じような”悩みを抱えている人たちとの交流を、仄めかすようなことも、ごく偶に言われる。


 「死にたい」という希望。これは、現代社会が人間に残した、最後の共通の話題には違いない。


無難で楽しい話題なんて、世の中にはたくさんある。それでも、みんな少しずつ違い過ぎて、全然、安心できない。私の楽しいものが、”同じように”楽しい人なんて、存在しない。そう気づいたら、どうでもよくなった。



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