PIECE-3

「キュウ、お前今日は寝てろ!!またぶっ倒れるぞ!!」

「ふんふんふんもお!」


 僕だって休むつもりだったよ。

 だって、今日は彼女の命日だから。

 僕が一年に一度、激しい頭痛と貧血に襲われる日だから。


 でもね……


「体調悪くないんだよねぇ、なぜか」


 自分でも驚いているんだ。

 いつもは立っているのだってやっとなのに、今朝は体が軽くて仕方ない。


「シャ・クーラのクリスタルの様子も変だしねぇ」


 そう、今朝はクリスタルの様子がいつもと違うのも気になった。

 普段は何かを求めるように騒がしく光るのに……こんなに落ち着いた輝きを放つのは人間界こっちに来てから初めてだった。


 首にかけていたクリスタルの十字架を服の中から引き出すと、タマちゃんが仕込みの手を止め近付いた。


「……キュウ!!それ、姉さんのか!?」


「タマちゃん、近い近い」


 ハニー達に近寄られるなら嬉しいけれど、ゴリゴリの男はちょっと……

 無駄に声もデカイしさぁ。


「キュウ!!これ!!姉さんのなんだな!!」


「うん、そうだよ」


「そうか!!そうかぁ!!!」


「……だからタマちゃん、近いって」


 タマちゃんは両拳を目一杯掲げて喜んだ。

 その姿はまさに、モンキー・D……


 麦わら帽子でも買ってあげようかな、なんて思った。


「キュウ!このクリスタルはな!魔王の子供だけに与えられる特別な石だ!」


「へぇ、じゃあタマちゃんも持ってるの?」


「おう!!これがこんな風に光るってことはなぁ!!!」


 その時、店の電話が鳴った。


「お待たせ致しました。こちら人外レストランtrick or treatで御座います」


 話の途中なのに、電話を取った僕にタマちゃんがキレたのがわかった。

 受話器を付けていない方の耳を押さえ通話を続ける。


『我が、書読カクヨム社で出しております女性誌Can-onキャノンで、そちらのレストランを特集させて頂きたいのですが……』


 彼女の声を聞いた瞬間、鳥肌が立った。


「当店で宜しければ是非」


 努めて冷静に答えたけれど……


 彼女の名前を知った時、受話器を持つ手が震えた。



九十九つくも、九十九 美久みくと申します』

『漢字で99って書くんです。名前も、美しいに久しいで……えっと』

『キュウ、キュウ、キュウなんですよ』



 ――キュウ!ねぇ、見てみて!

 ――キュウ、聞いてる?

 ―― ねぇ、キュウ

 ―…

 ……

 …


「おいっ!キュウっ!!」

「………………どうした、キュウ?」

「やっぱり具合悪いのか?」

「だから寝てろって言ったのよ、色ボケ!」

「ふんもお?」


 みんな慌てた様子で、僕を囲んだ。


「キュウ!!」


 あと何年かかるのだろうと思ってた。


 もしかしたら、会えないかもしれないと思ってた。


 だけど……


 見続けていたら、夢は叶うのかもしれない。


「……明日だって」


 1000年だって待つつもりだったけど。


「……タマちゃん……みんな」

「明日は……気合い入れて頼むよ」


 みんなが息を飲むのがわかった。

 顔を上げた僕の瞳が潤んでいたからかもしれない。


 でも、泣くことを止められない。


 だって……



「明日、シャ・クーラが来るよ」



 彼女の声を間違うはずがない。

 ずっとずっと、もう長い間、聞きたくて聞きたくて仕方なかったのだから。

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