8#野犬とパートナー

 また、僕は狩猟のトレーニングをやりにあの山に来てしまった。



 ふ~~~~~~~~~~!!


 ふ~~~~~~~~~~!!


 ふ~~~~~~~~~~!!


 ふ~~~~~~~~~~!!



 ポチは、パートナーの猟師が口で一気に風船を大きく膨らんでいくのを、興奮で尻尾をブンブン振ってワクワクしながら見詰めていた。


 「そーれ!とってこーーーい!!」



 ぽーーーーん!!




 パートナーが洋梨のようにパンパンに膨らんだ風船を、思いっきり突いて向こうへ飛ばした。


 今日は何故か風が強く、風船は突風に煽られて遠くへ遠くへと飛ばされていった。


 「ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!」


 ポチは目を輝かせて、どんどんどんどん向こうへ飛んでいく風船を夢中で追いかけた。


 どんどんどんどん、どんどんどんどん、どんどんどんどん・・・


 ぽてっ。ころころころころ。


 風が止むと、風船は地面に堕ちてころころころころと転がっていった。


 「わーわー!!割れる前に取っていかなきゃ!!」


 ポチは足を速めて、延々と転がり続ける風船を必死に追いかけた。


 

 ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!



 「ああっ!!君は!!」


 その時だった。


 向かい側の森の中から、あの野犬のカイザーが舌を垂らして駆けジャンプして、脚の爪で風船を、


 ぱぁーーーーーん!!


 と、割ってしまった。


 「カイザーァァァァ!!」


 思わずポチは叫んだ。



 クンカクンカクンカクンカ・・・



 カイザーは、割った風船の匂いを夢中になって嗅いでいた。


 「カイザー・・・」


 ポチはカイザーに、あの時ビーグルのセルパに言われたこと・・・「お前は何処から来たんだ?」・・・ということを聞こうと、緊張で何度も深呼吸してそっと近づいた。


 「ポチ・・・」


 「なあに?」


 「何で、昔の俺のご主人様が膨らませた風船を持ってるんだ?」


 「カイザー・・・今、なんつった?」


 「あのご主人は俺のご主人だ!!俺の居ない間に奪いやがって!!」


 カイザーは、バクッ!!と割れた風船の破片を口にくわえると猛ダッュでポチのパートナーのとこへ向かって走っていった。


 「ど、どういうことだよカイザー!!」


 呆気に取られたポチは、カイザーを追いかけた。



 たったったったったったった!!



 カイザーは、鼻の穴をパンパンにしてご主人の匂いに向かって目を見開いて駆けていき、ついに・・・


 「ご主人様ぁーーーー!!俺だよ俺!!『カイザー』だよ!!はっ!はっ!はっ!はっ!」


 カイザーは喜びの余り尻尾をブンブン振って横たわってお腹を見せ、満面の笑みを浮かべた。



 ざざーーーーっ!!



 ポチが来たときには時はもう遅かった。


 「カイザー・・・君はやっぱり僕のパートナーの前の・・・」


 しかし、パートナーは信じられない行動に出た。



 カチャッ。



 持参していたライフルに弾を込めると、何も知らないで愛想を振り撒くカイザーに銃口を向けた。


 「わおおおおおおおおおんんんん!!!!」


 ポチはとっさに遠吠えをした。



 ダーーーーーーン!!


 ダーーーーーーン!!



 間一髪だった。

 

 カイザーは何が何だかさっぱり解らず逃げ出し、何発も撃つパートナーの銃弾を避け、


 「きゃいん!きゃいん!きゃいん!きゃいん!きゃいん!きゃいん!きゃいん!きゃいん!きゃいん!」


 と、悲鳴をあげながら逃げ去っていった。



 ダーーーーーーン!!


 ダーーーーーーン!!


 ダーーーーーーン!!



 「パートナーやめて!!やめてよ!!」


 ポチは、パートナーが走っていく野犬のカイザーへ構えるライフル銃の持つ腕に噛みついた。


 「いてえな!!なにするんだ!!ポチ!!」


 ポチが腕を振り上げると、ポチは揉んどりうって転がった。


 「くう・・・ん・・・・くう・・・ん。」


 ポチはショックだった。やっと再び逢えた元パートナーへの酷い仕打ちをしたパートナーへの信頼が一瞬揺らいだ。


 「ごめんな・・・ポチ・・・。

 ああするしか無かったんだ・・・

 あいつは、俺の落ち度でコンナ奴にしてしまったんだ・・・

 俺が、イノシシを狩ろうとあいつを連れて行ったばかりに、あいつが突然行方不明なってめっきり俺はあいつがイノシシにやられたと思い込んで・・・

 あいつが実は生きてて、人様に被害を加えてると知ったとき・・・俺の手で・・・見付け次第あいつを・・・葬らなければと・・・つい・・・

 お前、あいつと仲良しになってたんだよな・・・

 あの時、風船が俺が膨らませたより大きくなってたのも。あいつの涎の匂いが吹き口にベッタリ付いてた時胸が締め付けられた気分でな・・・

 ポチ・・・ごめんよ・・・!!」


 ポチはパートナーの流した大粒の涙を見てポチは複雑な気分になり、この時パートナーの裏切りで負ったカイザーの心の傷を思うとポチの目から涙が溢れ、お互い抱き締めて泣いた。



 カイザーのくわえて持ってきた割れた風船の破片が突風に煽られて、カイザーが逃げていった森の中へ吹っ飛んでいった。


 







 


 


 







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