6#野犬の正体
ぽーん。ぽーん。ぽーん。ぽーん。ぽーん。
猟犬のポチは、御主人が膨らませた緑色の風船を鼻で突いてリフティングをしていた。
ぽーん。ぽーん。ぽーん。ぽーん。ぽーん。
・・・御主人様が集中力を養う為に、風船を突けと言ったけど・・・
・・・これ、面白え・・・!!
・・・ゴムの匂いと空気の感触・・・
・・・突っつくと、ふわふわと舞い上がる風船・・・
・・・癖になりそう・・・!!
ぽーん。ぽーん。ぽーん。ぽーん。ぽーん。ぽーん。ぽーん。
・・・それにしても・・・
・・・あの時、俺を前の御主人から救ってくれた時に、御主人の車の中に転がってた空気の抜けてベッタリ底に引っ付いてた風船はいったい何であったんだろ・・・?
・・・まさか、俺の前に先代の猟犬を御主人がパートナーにしてた・・・?
・・・俺と同じように、その猟犬は御主人様が風船を使って狩猟の練習を・・・?
・・・風船・・・
ポチは、あの森で訓練の風船に戯れた野犬のカイザーの事を思い出した。
・・・まさか、あのカイザーさん実は・・・?!
ふわふわふわふわ・・・
「わあっ!!風船が降りてきた!!」
ぷすっ。
「やば!風船に牙剥出しちゃった?!」
ぱぁーーーーん!!
「きゃいん!!」
すぐ側で、犬の悲鳴が聞こえてポチは気まずくなって振り向いた。
「うっせぇな!!こんなとこで風船で遊んでるんじゃねーよ!!」
垂れ下がった耳を前肢で押さえて、1匹のビーグル犬が現れた。
「君も・・・猟犬?」
「当たり前だ!!俺は名うての外来種専門の猟犬『セルパ』だ。」
・・・名うてっておまいう・・・
「お前!!クスッとしただろ?!ポインター犬!!」
「なんでもないっす!!」
「お前の風船のせいで、追い掛けてたアライグマが逃げられたじゃねーか!!」「めんごめんご!!」
「御免で済んだら保健所要らねーよ!!あ、お前は知らんだろうが通告することがある。」
セルパはポチに顔をおしつけ、声色を低くして述べた。
「『カイザー』って野犬知ってるか?」
「カイザー?カイザーなら・・・僕、この前逢ったけど?」
「なにぃ?!」
セルパはそれを聞いて、更に顔をグッとポチに近づけた。
「な、なんだよ・・・!!」
「あいつに気を付けろ。あいつは既に『オオカミ』になっちまった。根は犬だが、心は『オオカミ』だ。
ついこの前も、この山林に入った人間が噛まれて大怪我をした。
もし、あいつは『狂犬病』になってたらあの人間は既に死んでるかもな。」
セルパの顰めっ面を見たとたん、
・・・この猟犬はあのカイザーに恨みがあるのではないか・・・?
と、ポチは感じた。
更にセルパは話を進めた。
「それにしてもあいつ、やたら風船が好きらしいという情報もあるんだ。」
あの襲われた人間どもには目印の為にリュックに風船を付けてたし、たまに人里に降りて、店の飾りの風船を店員を襲って全部奪って逃走したって噂もある。
あん時はさすがに、人間の警察や保健所が動いたらしいが。
「そんなことをしたの?!あいつが?!」
「俺はカイザーに出逢ったという、お前に聞きたい。
お前はカイザーと何をした?」
「えっ・・・と、あっちの沢で一緒に僕の風船で遊んだ。」
「なにぃ?!」
セルパはまたポチに顔を近づけた。
「あいつが風船が好き・・・なのは、あいつが元猟犬に違いない。
とすると、あいつは風船で何度も狩猟の訓練をしたものの、成果は散々で愛想を尽かした心無いハンターに『捨てられた』んだろうね?
おめえはどう思うんだ?え?」
セルパは、責めるようにグッと顔をポチに押し付けて迫った。
「それは・・・そうだとも・・・知れませんね。」
ポチはこう答えるしかなかった。
「じゃあ、またカイザーの奴に逢ったならこう言え。
「お前は何処から来たんだ?」と。
そして、俺のとこへ突き出せ!!
俺は名うての外来種専門の猟犬『セルパ』だ!!命懸けでそいつを狩る!!
通告してやったからな。俺は・・・
ああっ!!いけねえ!!俺、アライグマ追いかけてたんだ!!おめえのせいでアライグマを見失ったじゃねーか!!チクショウ!!」
ビーグル犬のセルパは、黒光りする鼻を地面に押し付けてクンカクンカと逃げていったアライグマの匂い嗅ぎながら、その場を去った。
「カイザー・・・」
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