2#猟犬と野犬
「ねえ、君!あ!!猟犬?!」
そこに現れた、耳が垂れ下がって黒ブチのポチと同じポインター犬が黒い鼻をクンクン鳴らし、舌を垂らして口をハアハアさせながらポチにぶっきらぼうに話した。
「君こそ猟犬じゃん?!」
「僕は・・・それより、僕の風船どこ行った?そこで遊んでたら、吹っ飛んじゃった!!」
「ちげえよ!それ俺の風船だよ?!こんなに萎んじゃって・・・俺のご主人様に怒られちゃうよ?!」
猟犬のポチは、すっかり空気が抜けてゴムが伸びた赤い風船をくわえて、慌てる相手に見せつけた。
「え?そうなの?!あそこの河原でプカプカ浮いてたのを泳いで拾ったの。何度も流されて苦労して、拾ったのに口から離したとたん吹き口がほどけて・・・あっ!!めんご!めんご!こんなにしちゃってごめん!!」
黒ブチのポインター犬は慌てた口調で謝った。
「いいよ別に、謝らなくても。俺だって風船使った訓練でしょっちゅう割っちゃってるし。それより早く俺は・・・」
「だって、萎んだ風船を持ってったって怪しまれるじゃん?なんなら、僕が口で膨らませてあげるよ?!」
黒ブチのポインター犬は、興奮の余り艶々したオレンジ色の鼻の孔をパンパンにして言った。
「そ、そんなことして、こ、困るよお?!」
ポインター犬のポチは、風船を取ってくるのをヤキモキして待っているハンターの御主人のことが気になって気になって仕方がなかった。
・・・また怒られてちゃうよ~~~・・・!!
・・・今度は飯抜きじゃ済まないかもなぁ~~・・・?!
ぷぅ~~~~~~~~~っ!!
「ばうっ?!」
ポチは顔の側で、黒ブチのポインター犬が頬っぺたをはらませて萎んだ風船を口で息を吹き込んでいることに仰天した。
ぷぅ~~~~~~~~~っ!!
ぷぅ~~~~~~~~~っ!!
・・・あっそうだ・・・!!
黒ブチのポインター犬はニヤリとして息を思いっきり深く吸い込むと、頬を更にめいいっぱいはらませて顔を真っ赤にして、
ぷぅ~~~~~~~~~っ!!
ぷぅ~~~~~~~~~っ!!
ぷぅ~~~~~~~~~っ!!
ぷぅ~~~~~~~~~っ!!
とパワフルに息を吹き込み、大きく大きく大きく大きく風船を膨らませた。
「ちょ・・・ちょっと!!そ、そんなに膨らませたらぱ・・・パンクしちゃうよ!!」
猟犬のポチは、垂れ下がった耳を前肢で塞いでふためいた。
「この位でいいかな?」
黒ブチのポインター犬は、洋梨のようにネックの部分もめいいっぱい大きく膨らんだ風船の吹き口を爪でキュッと縛ると、ぽーん!と鼻で優しく風船を突いてヘディングしてきた。
「わー!わー!」
ポチは、牙がパンパンに膨らんだ風船に触れないように慌てて右往左往した後、牙と牙の間に結えた吹き口をくわえて、ぱくっとキャッチした。
「獲物のキャッチ上手いねー!さすがエリート猟犬!!
あ、そうだー!俺、元猟犬の『カイザー』!食い物より風船が好きな元猟犬よお!で、君は?」
「おーーーーい!!ポチ!!おせえぞ!!何時まで投げた風船探してだ?」
「やば!!御主人様が俺を呼んでる。
じゃあ、また逢えたら今度な!!萎んじゃった風船膨らませてどうもな!!」
ポチは慌てて、風船を口にくわえてパートナーのハンターの元へ大急ぎで去っていった。
・・・あいつ、『ポチ』ていうんか・・・
・・・バリバリの猟犬なんだな・・・
・・・それに引き換え俺は・・・
猟犬のポチが叢の中へ去っていくのを、寂しい顔をして見詰めてた。
「遅かったなポチ!!
あれ?ポチ?俺はこんなに大きく膨らませたっけ?」
猟犬のポチは、御主人のハンターに持ってきた風船を渡すとハッハッと舌を垂らして何食わぬ顔をして、ニッコリと微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます