第4話

○同・302号室

   テレビにかじり付いて見ている千恵子。

太一「おせーなぁ。父ちゃん」

雅彦「探しに行こうぜ」

美樹「わたしも行く!」

忍「よーし。誰が最初に見つけるか競争!」

裕也「赤ちゃん、そこにいるよ」

   『え?』という感じで、雅彦たちが見ると廊下に葉月とベビ

   ーカーに乗った赤ちゃんがいる。

   葉月、コチラを見て微笑む。

忍「パパは?」


○同・外・ゴミ捨て場

   ダンボールやゴミに囲まれて、うずくまる中川。

中川「イテテテテ……クソ。くじいた」

   中川、左足をさする。

中川「思わず飛んじゃったよ……ごめんよ……ごめん……」

   中川、ふと何かを考える顔になる。


○同・廊下

   豪華なベビーカーに乗った赤ちゃん。

太一「なんか金持ちに見えっぞ」

美樹「こっちがいい!」

忍「ダメ!」

美樹「乗りたい!」

雅彦「美樹はもう大きいだろ?」

葉月「お兄ちゃんたちいっぱいいるのねぇ。羨ましい」

雅彦「そっか? 父ちゃん、暇人だからな」

太一「どうする? 探すか?」

忍「そのうち出てくるわよ。赤ちゃんほって行くなんて最低!」

美樹「乗りたいぃぃぃ!」

雅彦「そうだ。あれはどうだ? この前、美樹がデパートで迷子に

 なった時の。アレ」

太一「うん。アレしようよ!」


○同・ゴミ捨て場

   中川、首をひねりながら、

中川「ごめんよ……」

   中川、ポンと手を叩き、

中川「そういや、名前。まだだったなぁ……」

   中川、ゴミ捨て場から這い出て、地面に書く。

   『未子』。

中川「いや、これはイカン。お母さんに怒られるぞ。うーん……」

   そこへ、病院内にアナウンスが流れる。

アナウンス「院内での迷子のお知らせです。中川勘太さん。中川勘

 太さん。おられましたら一階受付窓口までお越しください」

   中川、病院を見上げる。

中川「マジ?」


○同・一階・受付

   受付の女性が、マイクを渡す。

   雅彦が受け取る。

   見守る葉月とベビーカーの赤ちゃん。

雅彦「父ちゃん。俺。雅彦。赤ちゃん置き去りにどこ行ってん

 だよ?」

   雅彦、マイクを太一に渡す。

太一「父ちゃん、太一だよ。赤ちゃん、金持ちに見えっぞ。見に来

 いよ」


○同・ゴミ捨て場

   中川、聞いている。

忍の声「パパ、忍です。ママ、カンカンだよ」

裕也の声「僕、裕也。え? 何言ったらいいの?」

雅彦の声「なんでもいいよ」

美樹の声「乗・り・た・いィ!」

   爆笑する雅彦たちの声が聞こえる。

雅彦の声「おい、赤ちゃんも何か言うかな」

太一の声「あ、赤ちゃん、名前が無いぞ」

忍の声「そうよ。名前、まだだわ……」

裕也の声「ごんべえさんは?」

   笑い声が聞こえる。

雅彦の声「どうするんだよ」

   赤ちゃんの笑い声が流れる。

太一の声「笑ってるぞ」

忍の声「パパにも聞かせてあげて」


○同・一階受付

   ベビーカーに乗った赤ちゃんにマイクを向けている雅彦。

   笑う赤ちゃん。

   周囲の皆のほほえみ。


○同・ゴミ捨て場

   中川、じっと聞いている。

雅彦の声「父ちゃん、赤ちゃんが名前決めて欲しいってさ」

   中川、突然走りだす。


○同・正面玄関

   走ってくる中川。

   痛い足を引きずってでも、必死に走ってくる。

中川のN「ごめん! ごめんよ! 明子!!」


○同・一階受付

   看護師や患者さんの間をぬって、中川が走ってくる。

   ベビーカーの赤ちゃんに釘付けの、雅彦、太一、忍、裕也、

   美樹、そして葉月。

   走ってきた中川に気付く裕也。

裕也「父ちゃんだ!」

   中川、倒れるようにベビーカーの我が子にすがりつく。

雅彦「何処行ってたんだよ」

中川「名前、決めたぞ。明るい子で明子だ。いつまでも、笑顔で皆

 を明るくする子だ!」

   中川、赤ちゃんを抱き上げる。

   雅彦、太一、忍、裕也、美樹、葉月が笑っている。

   周囲の患者や、看護師から拍手が起こる。

   中川、赤ちゃんを抱きしめる。


○同・302号室

   千恵子、テレビを見ている。

千恵子「名前はわたしが決めます。あなたは先に仕事を決めてくだ

 さい」

   うなだれる中川が立っている。

   赤ちゃんが笑っている。

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迷子のお父さん 弘恵 @kechapp

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