第3話

○同・302号室

   スヤスヤ寝ている赤ちゃん。雅彦たちが、興味津々で赤ちゃ

   んの顔を見ている。

   ベッドでは、千恵子がリモコンを片手にテレビを見ている。

   汚いお下がりのベッドやおもちゃが病室の隅に置いてある。

   そこへ、中川が入ってくる。

中川「お、生まれたか」

千恵子「慣れたモンよ」

   中川、赤ちゃんを見て。

中川「あれ? あの、ショーケースみたいなのに入れなくても良い

 のか?」

千恵子「先生がね、大丈夫だろって。あっちも慣れたモンよ」

   中川、隅のおもちゃを見て、

中川「おいおい、それ、まだ使うのか?」

美樹「わたしの!」

忍「美樹はもうお姉ちゃんでしょ? 妹にあげようね」

中川「そのベビーカー、壊れてるんだろ?」

忍「美樹が壊したのよ」

中川「じゃ、使うなよな」

千恵子「じゃ買ってよ」

中川「(笑って)きついこと言うなぁ……」

太一「父ちゃん、職探しどうだった?」

中川「う、うん。まぁ幾つか、よさそうな所は見つけたよ。明日か

 ら面接に行く予定だ」

太一「じゃ、もうキャッチボール出来るね!」

中川「キャッチボールはいつでも出来るだろ?」

雅彦「落ち込んだ父ちゃんの玉は、ちょっと荒れるから禁止にした

 んだよ」

中川「どういう意味だマサ」

雅彦「怪我でもしたら大変だぜ。病院代とか」

中川「ませやがって」

   中川、赤ちゃんを見て、

中川「どれ、父ちゃんが抱いてやろう」

   中川、赤ちゃんを抱く。

中川「おお。可愛いなぁ……」

   急に泣き出す赤ちゃん。

   テレビを見ている千恵子が、ボリュームを上げて、

千恵子「あなた、テレビ聞こえない。外に出てあやしてよ」

中川「(あやしながら)よしよし……お外行こうな」

   中川、部屋を出る。


○同・廊下

   赤ちゃんを抱いた中川が廊下に出てあやす。

   ふと中川が見ると、303号室に豪華な新品のベビーカーが

   木下の手によって運ばれてくる。

   中川、部屋の中を覗き見ると木下がベビーカーを止め、窓の

   カーテンを開け、全開にしている。

   木下が出てくるので、中川は慌てて知らん顔をする。

   木下が歩いていく。

   中川、赤ちゃんを抱いたまま303号室のベビーカーを見る。


○同・303号室

   豪華なベビーカーに赤ちゃんを寝かせる中川。

   満足気な中川。

中川「いいなぁ」

   中川、少しベビーカーを動かす。

   上の装飾が回転し、赤ちゃんが笑う。

中川「おお。笑ったぁ。面白いなぁ……」

   うれしそうな中川。

   廊下から木下と葉月の声がしてくる。

葉月の声「ジイ。わたし、不安で一杯……」

木下の声「大丈夫ですよ。ジイがついております。お嬢様ならきっ

 と丈夫な赤ちゃんをお産みになられますよ。安心してください」

   中川、慌てて周囲を見回す。

   窓しかない。

   葉月と木下が病室に入ってくる。

   ベビーカーに赤ちゃんが乗っている。

葉月「(驚いて)まぁ!」

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