第3話 平原ちほー 蜂の巣 VS ラーテル
先回までのあらすじ
……セルリアン侵食。
博士たちはサーバルの身に起こった異変をそう説明し、そしてハンターたちに非情な命令を下した。サンドスターではなく、セルリアンの成分でその身体を蝕まれたフレンズは次第に身体が変質、最後には心を失い……最も危険なセルリアンに変貌し「仲間」を増やすためにほかのフレンズたちを襲い始める。
だが……まだ心までは侵食されていないサーバルは、かばんの手によって連れ出され二人はパークの逃避行の旅に出た。しかし、サーバルの侵食は止まらず……そして。
「……ごめんね、かばんちゃん……あたしのへしはここ、だから……おねがい――」
☆
「ここ! この下だよ、朽ち木の下に蜂の巣があるよ~っ!」
「おうっ! ハチがぶんぶん飛んでいやがる! やるぜえええ!!」
ミツオシエとラーテル、そしてクマたちが走っていくその先で。
「姉御、あんまり近づくと刺されるんじゃ……」
「ハラを決めろ。だが、ラーテル、あんな小さいなりでどうやって……」
上空の安全地帯からミツオシエがさえずる通り、木立のあいだに倒れた大きな丸太のあたりには……ヒグマたちでもギクッとするほどのハチの群れがワンワン飛び回っていた。
「うおおお!! あれかあああッ!! いったるぜえええ!!」
「あいつ、突っ込むぞ……!?」
ヒグマが声を漏らすと、ラーテルの小さな体は背中の赤いマントをひるがえしながら、警戒し怒り狂って飛び回るハチの群れの中へ……突っ込んだ。そして手の爪で、巣の出入り口らしき地面を猛烈な勢いで掘り返す。
その信じがたい光景。それを見、ドン引きしていたツキノワが、ふと。
「……? 姉御、あれ……あのハチ、なんか大きくないですか?」
「……。ああ、デカいな。……あれ、スズメバチの巣じゃないか……?」
つい、足を止めてしまったヒグマとツキノワがゾッとする中。
「う……!うお!? 痛……いっ!! 痛ええっ、ッッ! 痛くねえ……!!」
「あ~。ごめ~ん、ラーテル。それ、スズメバチの巣立ったわ~。ごっめーん」
「うおおおお!! 痛え!どおりでいつもより痛え!!痛くねえええ!!」
全身を凶暴なスズメバチに襲われながらも……ラーテルはバリバリと地面を掘り返し、そして……木の根の塊のようなものを掘り出していた。
「痛えええ!! けど、やったあああ!! 巣、とったぞおおお!!」
巣の一部を掘り出して走るラーテルを、スズメバチの群れが追撃する。思わず、ラーテルの進路からクマふたりが逃げ出した。
「……わっ、ばか! こっちくんな!」
◆
「ゴメンねえ、ラーテルさん。今度こそ、ミツバチの巣だから、マジマジ」
「おっしゃ、わかった!! それ食ったら次! つぎいくぜえええ!!」
「…………」
ようやくスズメバチの追撃を振り切った一行は……
走ったことより、刺される恐怖で息を切らしたクマふたりの前で、ラーテルは刺されたあたりをペロペロ舐め。
スズメバチの巣をもらったミツオシエは、そこに詰まっていたぷよぷよプルプルのハチノコをつまんで、いししと笑いながらそれを口に運ぶ。
「ヒグマさんたちも、どーですう? 美味しいですよ~」
「……私はいいかな……虫は、ちょっと」
ヒグマが、普段の凛々しさがしおれてしまったような顔と声で言う横で。ツキノワは受け取ったスズメバチの巣とハチノコを、ためらいなく口に運んで巣ごとバリバリかじっていた。ふよふよ動く白い幼虫を指で摘み、舐めるようにそのまま味わう。
「…………。ツキノワ、おまえ……」
「美味いっすよこれ、姉御。私、蜂蜜よりこっちのほうが好きかも」
満面の笑みで、少々グロいハチの巣と中身を食べるツキノワ。
「でしょでしょでしょ~? 私もハチノコ大好き! とくにスズメバチのは格別だよね~! ラーテルさんをけしかけたかいがあるってモン……おっと」
てへ、と自分の頭をぶってペロと下を出したミツオシエに……ヒグマは、
「……ハラグロ、いやノドグロミツオシエ。今度は頼むぞ」
「まっかせて~! じゃあラーテルさん。次、いきまっしょ~!」
「まかせとけ!! うおおお、燃えてきたああ!!」
「…………」
◆
「……おおお!! 痛くねえ、さっきと比べりゃ全ッ然ッ!痛くねえ!!」
森の中にあった、ひときわ大きな樹。
そのうろの中に手を突っ込み、雲のようにワンワン飛び回って刺してくるミツバチの大軍にもめげず、ラーテルはミツバチの巣を引っ掻いて。
「っ!っしゃああ!! まずはひとつ! ほい!!」
「おっと……!! うわ、これは……ほんとうに蜂蜜だ」
樹の下にいたヒグマに、上からラーテルが板のようなものを投げ落とした。薄黄色のそれは、蜂蜜がずっしりと詰まったハチの巣だった。
「おおお!! 痛え!!ハナ、鼻、鼻に!! ……ホイ、次!!」
「がんばれ~。ラーテルさん、がんばれ~」
ラーテルは今回も容赦なく刺されまくっていたが……それでも、ひとつ、ふたつとミツバチの巣の板をヒグマに投げて渡していた。ヒグマはその勢いに圧倒されながらも、その巣をツキノワに渡し、持ってきたツボの中に詰めさせていた。
「……姉御、なんか……すごいですね」
「……ああ。助手の言ったとおりだな。こんな子がいたなんて……」
ラーテルは樹の上でひとしきり声を張り上げ、蜜の詰まったハチの巣を下に落としてから……
「おっしゃあああ!! ここはカンバンだあっ! 次、次だつぎ!!」
「えー、まだその巣、ミツ入ってるじゃーん」
「これ以上とったらハチが困る!! ここはまた……うが! 唇刺された……!」
ラーテルは急に、作業を止めてスルスル樹を降りてくる。それを追ってきたミツバチの群れからヒグマと、ツボを抱えたツキノワも逃げる。
「あ、姉御! もう、ツボがいっぱいです!」
「わかった……! ラーテル!ミツオシエ! ありがとう、もういい……!」
◆
安全地帯の草むらまで逃げてきた一行は、金色のハチミツがたっぷり詰まった巣でいっぱいになったツボを囲んで。
「そんなもんでいいのかい? なんか暴れ足りねえけど! よかったぜ!」
「さすがだねーラーテルさん。最強だねホレるねーこれからもどうかよろしくねー」
「へっ、アタシなんぞまだまだ!! グズリの姐さんはもっとパねえぜ!!」
「……あんたより上がいるのか……」
「おうよ! グズリの姐さんはすげえぜ! あれは本物だ!!アタシでもびびる」
「……ああ、聞いたことがある。ハンターに勧誘しようという話があったが、リカオンに止められたな。……扱いづらい子だとか」
切れていた息が落ち着いてきたクマたちは、ちらと傾いてきた太陽を見、そして顔を見合わせる。
「今日はありがとう、助かったよ。ラーテル、ミツオシエ」
立ち上がったヒグマに、ツキノワも続く。その二人を、刺されたところをペロペロ舐めていたラーテル、そしてにしし笑いながら蜜でいっぱいの巣をつついていたミツオシエの目が追った。
「おう!! ミツが欲しいときはいつでも呼んでくんな!!」
「じゃあねえ~。あ、助手さんに言っといてくださいよ。これで貸し借りなしですから、って。おねがいしますよ~、にししっ」
その二人に手をふって。
風変わりな任務を済ませたハンターのヒグマとツキノワは、仲間のキンシコウとの合流点である図書館の森に向かって歩き出した。
つづく
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