第2話 平原ちほー ノドグロミツオシエとラーテル

先回までのあらすじ

……突如として出現した飛行型大型セルリアン。それは滅び去ったはずの人類が残した破壊と憎悪の亡霊、そして破壊という名の現象装置――かばんのいないこのジャパリパークはその死の翼によって本当の絶滅を迎えようとしていた。フレンズ、ハンターたちの反撃虚しく大型セルリアンはパークの外へとその無機質の眼球を向ける。

……こいつをかばんたちのところに行かせはしない、このパークで仕留める……!

博士はついに、図書館の最奥に封印されていた「ぼたん」の解除を決定する。だが、それに最後まで反対していた助手がとった行動とは――

「……さようなら、博士。これには、座席は一つしかありませんので……」



「りんご、ですか。……わかりました、そちらは私が引き受けますわ」


 ヒグマの戦友である名うてのハンター、キンシコウは空っぽの網袋を受け取って。にっこり笑う。


「実のついていそうな木のあてが何本かあります。この季節なら大丈夫でしょう」

「助かる。こっちは今から平原のほうで蜂蜜探しだ」


 ツボを抱えなおしてため息をつくヒグマと、妹分のツキノワグマ。その二人のフレンズに、キンシコウは小首をかしげ、


「そちらは大丈夫なんですか? 私も甘い蜜は大好きですが……あのハチの群れと針を相手にするくらいなら、私は大きなセルリアンと戦う方を選びますね」

「……実は私も、この体になってからは蜂の巣を狙ったことはないんだ」

「……痛い思いをして蜜をとらなくても、甘いジャパリまんがありますもんねえ」

「ほんと、博士たちもムチャをおっしゃいますわ」


 針に刺される痛みを思い出し、ションボリしているツキノワ。その肩をぽん、とヒグマが叩いて言う。


「だけど、アテはあるんだ。助手に紹介してもらったフレンズがいてね」

「まあ。蜜を探すのが得意な子、がいらっしゃるですか?」



「こんちゃ、っす~~~! ども、ノドグロミツオシエでえ~すっ」


 上空から舞い降り、ヒグマとツキノワの前でペコっとお辞儀し敬礼ウィンク。


「今日はすまないな。たのむぞ、ノドグロ……」

「助手っちからはハナシ聞いてますよ。このノドグロさんと相棒におまかせを~」


 いしししっ、と笑ったそのレンズ。

 ノドグロミツオシエは、パッと小鳥らしく宙に浮くとヒグマたちの頭上で輪を描くように飛び、上昇しながら。


「おー、早速相棒はっけーん! クマさんたち、こっちこっちー!」


 平原ちほーの一角、草原とまばらな木立と森が混ざり合うその辺りで、ミツオシエは上空からヒグマたちを呼ぶ。


「……姉御、大丈夫ですかね、あれ。あんな体じゃ、蜂の巣壊すのは無理ですよ」

「私も会うのは初めての相手だ。……その相棒とやらに期待しようか」


 上空でピチピチ笑いながらヒグマとツキノワを誘導するミツオシエ。

 その小鳥フレンズが急降下した方向に、


「おうっ!? ノドグロじゃねーか。今日は何をぶち壊せばいい、ン?」


 黒っぽい姿に、赤いマントのような背中。何もないのに忙しく走り回り、空気相手にパンチを繰り出しているフレンズが……いた。


「クマさ~ん。紹介するね、あたしの相棒のラーテルさん、で~っす。拍手~」

「おっおっお!? あんたら誰だい! 強そうだな!強そうだな!?」


 そのフレンズ、ラーテルは……猛獣のフレンズ、ヒグマとツキノワを相手に全く怯むことなく駆け回る。


「……ヒグマだ。こっちはツキノワ」

「……どうも。……姉御、このちっこいのが?」


 不安げな声でぼそっと言ったツキノワ。ヒグマは持っていたツボを、さっきから空気相手にパンチをしているラーテルに差し出した。


「ラーテル、実は……図書館に頼まれて蜂蜜を探してるんだ。頼めるか?」

「ハチ!ミツ!? おう、今日はハチの巣ねらいか! おっしゃあああ!」

「クマさ~ん、ラーテルさんは蜂の巣壊すのが得意なんですよ。そんでえ、私は……」


 にしにし笑っていたノドグロミツオシエは、再びパッと上空に。


「私は蜂の巣を探すのがとくいっ!」

「おうノドグロ! 今日も頼むぜええ!! うおおお!!」

 風変わりなその二人のフレンズは……


「あっ、行っちゃいましたよあいつら」

「……私たちも後を追おう。たぶんあいつ、空から蜂の巣を探すんだ」


 依頼者たちの存在を忘れたかのように駆け出したラーテルたち。その二人を見失わないようにヒグマとツキノワも木立ちのあいだを駆けていった。

「こっちだよ~!! ラーテルさん、こっちこっち~!」



 ジャパリまんのあんこの粒ほどの大きさになって空を飛んでいたミツオシエが、その体のどこから出しているのか、というくらいの大きな声でみんなを呼ぶ。


「特大のハチの巣、はっけ~ん! このすぐ下だよ、はやくはやく!」

「そこか!! おっしゃああ、やるぞおおお! うおおおお!!」


 ミツオシエに呼ばれて、ラーテルは顔をバシバシ叩いて気合を入れ走り出す。


「あんな高いところから……? 蜂の巣が見えるんですかね」

「……わからん。行こう、ツキノワ」


 遅れて、蜂蜜採集のためについてきたクマふたりも駆け出す。

 ……だが、ヒグマもツキノワも、セルリアン相手では決してひるまない猛者のその足が、とくに丸いしっぽのあるお尻の辺りが、あきらかに出遅れていた。


                                 つづく

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