第10話

俺は遙 彼方。ゴブリンぶっ殺してクールに去ろうするところをjkに目撃されてしまった男子高校生。


不味いな…。

掲示板の感じから察するにゴブリン6体を単騎で屠ることが異常なのは明らかだ。となると通ってきた廊下に6つの灰の小山が出来上がっている俺の状況は文句無しに異常。異常なものは目立つ。目立つと妹がヤバい。以上。

…不味いな。


「あ、あの…ここにいた怖い人達は一体…」


向こうも状況をまだうまく把握できていないようだ。今がチャンス。

打開策を考えている俺の視界に映ったのは、「化学実験室」と書かれたプレート。教室のドアの上に据えられているこのプラスチック板は、言うまでもなくその教室の名称が表記してあるものだ。

これだ。


「怖い人達…ですか。俺がここへ来た時にはもうこの教室の前には何もいませんでしたよ?」


手前で全滅させたからな。


「え…あんなにいっぱいいたのに、どこへ行っちゃったんでしょう…?」


どことなく不安そうな表情で彼女はそう呟く。ふむ…とりあえず俺の言い分を疑っているわけではない、か?


「掲示板で向かうと言っていた見回りの先生が何とかしてくれたのかもしれませんね」


思いついたのはこれ、第三者の存在を仄めかそう作戦だ。敢えて可能性の1つとして言うことで逃げ道の用意も万端である。


「あ、きっとそうです…!でも、それなら今の内に急いで体育館へ行かないと…」


チョロ……もとい、素直で助かった。考えてみれば俺みたいなのが1人で全部ぶっ殺したなんて推測しろと言う方が酷だ。俺もループの影響であろう実戦経験済みみたいな身体の反応が無ければ3体以上は同時に相手しなかっただろうしな。


「では、すぐに行きましょう。歩けますか?」


見た所怪我はないが、若干足が震えているので念のための確認だ。


「いえ、走りましょう」


「あっ、はい」


返事を聞いて走り出した彼女はやたらと速くてついていくのがやっとでした。









走ることしばらくして、特に何が起こるということもなく体育館へと到着した。強いて言うなら俺の息切れがやばい。


入り口には教師が立っていて俺たちの無事を喜び労った後、落ち着いたら掲示板を使って出欠を取るように言って扉を開けてくれた。


体育館に入ると、中にいた生徒は意外なほど少なかった。ざっと見て100人前後、全校生徒600人の6分の1程度しかいない。

内履きの色を見るに、大体学年毎に固まって過ごしているようだ。俺も2年の端っこにしれっと混ざることにしよう。


そういえば隣のこの子は何年生だろうか、さっき見たような気もするが覚えてない。視線を下に向けて確認するとパターン赤、1年生だった。


俺が顔を上げると同時に顔を上げた1年女子生徒と目が合う。向こうもこちらの学年を確認していたようだ。


「2年生だったんですね、先輩」

「え?あ、はい」


不覚にも萌えた。

帰宅部の身の上では年下女子に先輩などと言われるシチュエーションは皆無なのだ、胸が高鳴った俺を誰が責められようか。

…妹のクラスの生徒は全員責める権利あるな。

一気に冷めた。


「あの、助けに来てくれてありがとうございました。先輩が来てくれて、なんだかすごく安心して…」


あれ、なんか勘違いされてる?


「あ、いや俺はただ…ただ…通りがかっただけで」


「通りがかっただけ…ですか?掲示板を見たら、あの経路は普通選びませんよ。危険があるかもしれないのに…」


やべ、それもそうだ。助けに行った体にした方が自然かもしれない。猛烈な手のひら返しを敢行する。

恐ろしく速い。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。


「あ、はは。まあ、何も出来ませんでしたけどね」


「いいえ。先輩がいてくれたから私はここまで来れたんです。1人だったらきっと、ずっとあそこで震えてましたよ?」


冗談めかしてそう言う彼女をなんとなく直視できなくて顔を背ける。


「そうですか。…まあ、役に立てたなら良かったです。では、気を付けて」


そう言って俺は逃げるようにその場を後にした。

俺は何故彼女を助けたのだろう。

面識がないのに、彼女の声にはどこか懐かしさを覚えた。

守らなければいけないと思ってしまった。

肩口で短く切り揃えられた黒髪に、活発そうな印象を受ける日に焼けた肌。外で活動する運動部であろうあの子は…そういえば名前聞いてないな。





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