第2話


ーーー俺の名前は遙 彼方。

ちょっと怪しい道場に通う以外はごくごく普通の男子高校生だ。


俺の1日は、ちょっとおかしい妹に叩き起こされることから始まるーーー


「おにいちゃーん!」

俺は遙 彼方。昔からいじめには事欠かない素敵ネームの男子高校生。妹がなんか言ってる気がするけど気にせずに任務「休日の朝は昼まで寝過せ」を遂行したいと思う。サー。


「おにいちゃーん?」

訝しむように妹が声をかけてくる。


俺は遙 彼方。「何もしない」ためには諦めの悪い男。「何かしよう」としてできそうにない時の諦めはすこぶるいい。それ要するに何もしたくないだけだな。


「おにいちゃん!もぅ……!」

牛のような声をあげた後、ドアを開ける音、パタパタと部屋を出て行く音が聞こえる。


俺は遙 彼方。たった今妹から5時間ほどの睡眠時間を勝ち取った男。何もせずして勝利を収めてしまうとは、己の才能が恐ろしい。


さて、寝るとしよう。


「おーにーいちゃーん!」

あ?もう戻ってきやがったのか。まあいい、さっきみたいに無反応なら諦めんだろ。

寝よ。


「あっそびーましょー!」


身の危険を感じた。

薄目を開けるとそこには木刀を構え、今にも振り下ろさんとする我が妹、楓の姿があった。

やべえ、これ間に合わねえ。


俺は静かに目を閉じた。


俺は遙 彼方。朝から妹に木刀で殴られるという素敵な体験を、たった今したばかりのごくごく普通の男子高校生。(涙目)

ついでに言うと今日、補習なので登校日である。




「長い夢を見ていた気がするぜ…」

「何言ってんのお兄ちゃん。お兄ちゃんいつも寝てるみたいなもんじゃん。むしろ年中夢中じゃん」


今さらっと妹に罵倒された気がする俺の名前は、遙 彼方。イイ笑顔で朝っぱらから兄をディスっているのは一歳下の妹、楓だ。

目覚ましがわりに木刀を振り下ろすクレイジーな彼女は、今年から俺と同じ学校へ入学した花の女子高生である。今日は新年度が始まって二度目の補習で、休日に通学している俺達の気分はもちろん落ち目だ。

いや、楓は何故かご機嫌だな。まだまだ高校生活に新鮮さを感じている時期なのかもしれない。俺にもそんな時期が…あったかな…なんだか遠い昔のことのように感じるぜ。うん、なかった。


そんなこんなで学校へ着いた。楓が楽しげに話しかけてきていたが俺はほとんど生返事である。だって眠いんだもの…。

一年と二年の教室では階が分かれているので、ここから楓とは別行動だ。笑顔でブンブン手を振ってくる楓に申し訳程度に手を振り返してから自分の教室へと向かう。それから誰にも気付かれずに教室へ入り、音も無く自分の席へ座る。窓側最後列、ラノベ主人公ご用達の特別席である。

この席、トイレから帰ってきた時勝手に占領されているような事がないからとても気に入っている。ここテストに出ます。

席に着くなり机に突っ伏して仮眠をとる事数分、授業開始のチャイムが鳴った。さあ、休日に学校へ来てまで受ける価値のある授業とやらを聞こうじゃないか。俺は枕がわりに使っていた教材の高さを微調整した。

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