第14話 大魔導師の冒険
地球が暖かくなり始めた。
人々が地下から地上へと出て行く。巨大な地下都市はその存在価値を小さくしていく。そしてその存在はすぐに忘れ去られた。もう必要が無いのだ。地下には巨大な遺跡が残った。
ロボット文明は衰退していた。ロボットの数が増えた事で電気が不足したのが原因だ。ロボットは宇宙に行けなかったようだ。ロボットの国は崩壊した。少数のロボットたちが人間の世界で生き残っている。
地上に大きな虫はもう現れなかった。大きな爬虫類も現れなかった。それは地球の力が弱まっているからだと考えられた。
大魔導士アミーズのキノコ会社は倒産した。過疎化した地下施設と共に無くなってしまったのだ。地下都市で築いた財産は全て地下都市と共に消えた。今では地下都市はダンジョンと言われている。
ダンジョンにはモンスターが住んでいる。何処からきたのか、氷河期以前の生物の生き残りが無人のダンジョンで繁殖していた。大魔導士アミーズはそのダンジョンで宝探しのガイドをして生計をたてている。
「父さん」
「おお、こうじ」
こうじとはアミーズの息子の名前だ。
「母さんは元気にしているか?」
「うん。元気だよ」
アミーズのキノコ会社が倒産してすぐにアミーズは独り者になってしまった。
「町長が父さんを呼んでいるよ」
「町長が?それは行かねばなるまい。こうじも一緒に来い」
「うん、いいよ」
二人は町長の居る町役場まで行くことになった。
「お久しぶりです、アミーズさん」
「こんにちわ、ツルツルさん。まったくお変わりありませんな」
「ははは、まあ、不老不死ですからね」
この時はツルツルの人が町長になっていた。だてに五億年も生きてはいない。
「今日、来てもらったのは、人類全ての神からある情報を得たからなのです」
「ほう?地球からですか?」
「女王様のしていたダイヤの指輪がありましたね。あのダイヤなんですが、あれは地球上に十三個あるらしいんですよ。で、ですね、あれが人類全ての神の本体らしいんです」
大魔導士アミーズは大きく頷きながら、
「ははあ、そうだったのか。あのとき俺の魔法が出せなかったのはそのせいだったんだ」
と女王と初めて会った時の事を思いながら言った。
「ええ。で、ですね、なんとこの十三個のダイヤを集めると、何でも願いがかなうといいます」
ツルツルの人と大魔導士アミーズは互いを見つめ合う。そして、
「ふははははははは」
と笑いあった。
ツルツルの人が真面目な顔で言う。
「いや、実はこのダイヤをあなたに集めて欲しい。プラネットハックが使えるあなたなら十三個のダイヤを集める事も不可能ではないと思います。私たちはある事を計画しています。それはシステム人類全ての神を火星に持って行く事です。そして火星をハッキングします。そしてテラフォーミングを行う。そして火星に生命を誕生させます。そしてその生命は進化をとげていつの日か知的生命体となるでしょう。私は私たちと火星の知的生命体が交流するのを観察したい。人間が地球外生命体と出会える可能性はこの方法が一番高い。これは私たちの五億年の夢だ」
それを聞いて、大魔導士アミーズは答えた。
「まあ、あなたの言う事はわかる。五億年も宇宙をさまよって宇宙人に出会えなかったあなたたちだ。しかしですね、今のこの地球には色々な種類の人がいる。人間、猿人、恐竜人、ロボット、そしてツルツルの人。無理やり宇宙人を作り出さないでもいいんじゃないですか?」
それを聞いてツルツルの人は言った。
「暇なんですよ」
大魔導士アミーズは十三個のダイヤを求めて旅立った。氷河期の後の土地売買で一儲けしたウルガクナシヤ、大魔導士アミーズが家で雇っているメイドロボ、十三の猿から暇な一人と共に。暇な人物を集めた冒険隊だ。朝日に向かって歩いて行く四人を人々は見送った。さらば、大魔導士アミーズ。かならず帰ってくるんだぞ。
「こんにちわパオーン」
マンモスであった。
「僕達も言葉が話せるようになったから、もう食べないで欲しいパオーン」
とマンモスが言った。
「若い者は二足歩行もできますじゃパオーン」
年老いたマンモスが言った。
「これが孫の万太郎」
「万太郎です」
万太郎は大きかった。三メートルほどある。
「まあ、こいつもまだまだ育ち盛り、もっと大きくなるパオーン」
マンモスを狩ってマンモスを食べるグループツアーでの出来事だった。さて、なんでマンモスが言葉を話しだしたことやら。
「裏山の婆さんの家のテレビで覚えたパオーン」
マンモスは言った。
言葉を話すマンモスを殺したら、訴えられるんじゃないだろうか?
「お客さん、このマンモスの牙で作ったネックレス買ってくれないかパオン?」
ツアー客は万太郎が差し出すネックレスを買った。マンモスは商売上手だった。
いつの間にやらマンモスは村を作って暮らしていた。そこにはマンモスの文化があった。マンモス文明が起こっていた。
「これで魚が喋り出したら食う物が無くなるな」
大魔導士アミーズは大魔王と言われる様になっていた。彼には全世界に魔導士の弟子が居るのだが、そのネットワークを使って世界を支配しようとしていると言われていた。実際に彼の組織は盗みなどを行っていた。世界中の名のある宝石を強奪していた。
十三個の宝石を集める旅に出た彼だったが、人にまだ見つかっていなかった宝石は無かったのだ。交渉して買い取ろうにも宝石は高い。大魔導士アミーズの組織は王冠に取り付けられた宝石を奪うために国一つを滅ぼしたとも言われていた。
ある日、その大魔王から女王に手紙が来た。
「ダイヤ知恵への献上を貰い受けたい」
手紙にはそう書かれていた。
「ついに来たか」
勇者こうじの一言だった。
ピンポーン。
ガチャリ。玄関のドアが開く。
「お父さん」
こうじの開けたドアの向こうには大魔導師アミーズが立ってた。
「おお、こうじか。しばらく見ないうちにこんなに大きくなって。本当に時間ほどいい加減な物はないな。お母さんは居るか」
「うん。上がって」
大魔導士アミーズは息子のこうじの後に続いて家に入った。
「旅の途中でさ、ペンギンが俺に話しかけて来るんだよ。ペンペンペン。私はペンギンだペンってさ。そのペンギンの背後には村があってさ。もう冬の吹雪に立ち尽くす事も無くなったペンって言うんだ。その村の家の窓から暖かい光が漏れててさ、中から母親ペンギンと子供のペンギンが仲良く笑っている姿が見えたんだ。でさ、旅人さん、今夜は吹雪になりますよ、一晩村に泊まっていきなさいペンって言われたんだ。けど、俺はその誘いを断ったんだ。いや、俺には使命があるからってさ。その晩、俺は一人吹雪の中を歩き続けたんだ。お前とこうじの顔が浮かんでさ。で、行き倒れてしまったんだ。気がついたら助けられてペンギンの家に居たよ。それで、体が良くなるまで居るといいペンって言われて、俺はそこで何日か泊まったんだ。ペンギンも人間と同じだったよ。家族は良いなって思っったんだ」
「で?」
大魔導師アミーズの話を聞くともなく聞いていた女王がアミーズを見据える。
「まあ、これがペンギン村に行った時の話だ」
女王はダイヤの指輪を指から外すとそれをテーブルの上に置いた。
「くれるのか?」
意外だという態度のアミーズ。
「さあ、どうしようかしら」
「意地悪言うなよ」
「あなたのそういうところが嫌いなのよ」
少し女王の声が大きくなった。
大魔導士アミーズは少し押し黙って考えた。
「じゃ、こうしよう。ここに十二個の宝石がある。これをお前にやる。これで俺の仕事はおしまいだ。あとは、お前に任せるよ」
大魔導士アミーズはゴロゴロとテーブルの上に十二個の宝石を出した。
「じゃ、さよなら」
大魔導士アミーズは玄関のドアを開けて出て行った。
「ちょっと、待ちなさいよ。どうするのよこれ!」
と女王の声が聞こえたが、大魔導士アミーズはスタスタと家を出て行った。
「でさ、カンガルーのやつらがさ」
と大魔導士アミーズは酒を飲みながら息子のこうじに語っていた。居酒屋だ。
「私はカンガルーだぴょん、ここから先は何も無いから私の村で装備を整えると良いぴょんって言うんだ。あいつら俺の事ボッタクリやがってよ」
大魔導士アミーズは酔いつぶれそうになっていた。
ガラガラガラ。店へ女魔導士が入って来た。
「あ、居た居た。先生。あ、こうじ君、ごめんねー」
と女魔導士がアミーズに歩み寄る。
「ん?なんでお前がここに居るんだよ」
大魔導士アミーズが言う。
「僕が呼んだんだよ」
息子のこうじが言った。
「この野郎。余計な真似をしやがって」
立ち上がろうとしたした大魔導士アミーズがよろける。それを支える女魔導士。
「さあ、先生、帰りましょう」
「うん?まだまだこれから飲むぞ俺は、このやろう」
大魔導士アミーズは完全に酔っ払っていた。
「こうじ君ありがとうね」
女魔導士は会計をしてから大魔導士アミーズと店を出て行った。
大魔導士アミーズは
「おう、こうじ。またな」
と言い残して出て行った。
大魔導士アミーズの息子のこうじは女魔導士に頭を下げた。
「父の事をよろしくお願いします」
と。
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