第11話 悪意ある彗星
「悪意ある彗星」であると全人類の神は認識した。
その光が見えたのはその彗星が太陽系に入ってきた直後だった。
世界中の天体望遠鏡でその彗星は観測された。
一つ、また一つと宇宙の同じ方角からその姿を現して来る。
「あ、また増えた」
これで十五個目だ。
天文学者の計算によると、彗星は地球からかなり離れた場所を通過してから太陽の周りを回るらしい。
しかし、その後の事は解らないという。
「この彗星群は地球を目指している」
と全人類の神は思う。
「ファーストコンタクトだ」
それは地球外知的生命体の事を言っていた。
地球上ではこの彗星群の話題でもちきりだ。
毎晩毎晩、親子で天体望遠鏡を見る。
天体望遠鏡製作工場は夜も眠らずにフル稼働。
毎夜一つ、また一つと彗星の光が増える。
たかし君はお父さんと天体望遠鏡で彗星群を見ていた。彗星は小さな尾を引きだした物もある。
「すごいなー。宇宙の神秘だな」
とお父さんは言った。
たかし君は望遠鏡で毎晩彗星群を観測した。
ある晩、たかし君は壁の外のお姉さんの城に泊まりに行く事になった。
お姉さんから
「外交上、たかし君が必要だ」
と町田町長に連絡があり、たかし君は城に泊まりに行くことになったのだ。
「お姉さんにも彗星を見せてあげよう」
と思ったたかし君は天体望遠鏡を持って行った。
このころには尾を引く彗星も五つほどになっていた。だいぶ長い尾を引く彗星もあった。
「綺麗ねー」
とお姉さんは言った。
「本当ですね」
ウルガクナシヤが言った。
「あれ?」
とツルツルの人が言った。
「まずくない?まずくない?」
とツルツルの人たちが言っている。
「どうしたの?」
とお姉さんガツルツルの人に言った。
「いや、あれ、多いです。危ない。地球に当たるかもしれません」
とツルツルの人が言った。
「え?」
「ちょっと待ってください、母船に聞いてみます」
ツルツルの人は宇宙船に行って、しばらくしてから戻って来た。
「母船の計算では地球には当たらないらしいです。でも、「人類全ての神」地球は当たると思うと言っているらしい」
「で?地球に当たるとどうなるの?」
とお姉さんは聞いた。
「地球に当たると人類滅びますね」
とツルツルの人は言った。
「アミーズ」
女王が言うと、望遠鏡を覗いていた大魔導士アミーズが女王の足元にひざまずいた。
「はい、女王様」
「あの彗星を止めてきて」
「そ、それは無理・・・かも」
「無理?」
女王様が大魔導師アミーズを見下している。
「無理をしてでも止めてまいりましょう」
大魔導士アミーズはそう言ったのだが、女王様は
「無理か。となると、どうしたものか。ねえ、宇宙人。地球の神様は何か言ってないの?」
とツルツルの人に言った。
「いや、特に」
ツルツルの人は言った。
その二日後に未来のひみこからEメールが届いた。
「お姉さん、たかし君からのお手紙ありました。彗星群だったんですね。私たちの地球が過去に危機をむかえたのは。それは私たちの住む現代では謎だとされている事でした。たぶん彗星群は地球に命中します。けど、人類は生き残ったのでしょう。今私が生きているのがその証拠です。頑張ってください。生き残ってくださいね。私たちも頑張っています。今まで助けてくれて本当に有難う」
女王は未来人がそう言っているのなら本当に彗星は地球に当たるのだろうと思った。女王ならこの人類の危機に対して何かをしなければなるまい。
女王は城の庭に泊めてある宇宙船のモニターに向かって座っていた。そのモニターには月と地球の間に泊められているツルツルの人の母船内に居るツルツルの人が映し出されていた。
「人類全ての神と話がしたい」
と女王は言った。
「これは俺とあいつらとの戦いなんだよ。あいつらというのはどこの誰だか分からない。けど、この攻撃は俺、地球に対してのものだ。俺にはそれが分かるんだよ。これは偶然の出来事じゃあない。理由は分からないが俺は喧嘩を売られたのさ。売られた喧嘩は買うしかねえ。この宇宙では他に逃げ道もねえ。お前たち俺の一部は俺が守る。心配するな。とは言っても、俺も正直どうなるか分からん。そうだな、心配なら念のために穴でも掘っておけ。いざというときはその穴に隠れるんだ」
女王の支配する全ての国々に命令が下された。穴を掘れと。これが世に言う地下迷宮への移動、ラビリンスプロジェクトだ。
大魔導士アミーズの指揮の元で女王支配下の国々へとアミーズ系の魔導士達が配属された。その魔法を使い、国の地下には広大な地下シェルターが作られた。地下シェルターは深く深くへと広がって行った。一番深い物で地下二十キロメートルに達した。人々はその一大事業を三日ほどで成し遂げた。
地下シェルターには色々な物が持ち込まれた。地上には何も残さないほどだ。恐竜が狩られてどんどんと加工されて地下に運ばれて行った。全人類の英知が地下に持ち込まれた。人々はその後も地下を掘り進んで行った。深く深くへと人々は進んで行った。
この情報は全世界に広まり、他の国の人々も地下シェルターを作り始めた。彗星が地球に衝突したらどうなるのかということは予想されていた。人類に長い冬がおとずれるのだ。
人々が空を見上げる。青い空にもハッキリと巨大な尾を引いた彗星が何個か見える。夜になると夜空は尾を引いた彗星群が覆いつくした。尾は西から東へと夜空を横断して流れていた。彗星の尾はキラキラと光りその形を変えていく。それはとても美しい光景だった。
しかし、この彗星群が後に太陽を回って地球を襲ってくると思うと、絶望が人々の心を覆う。それにしても美しい宇宙の神秘だ。この彗星達に殺されるのならそれで良いかもしれないと思う者も居た。地球の者たちは毎晩彗星を眺めて過ごした。
五億年前の地球から旅立った宇宙船。その宇宙船が地球に帰ってきたのはこの彗星群がやってくるイベントのためだったのだと宇宙船の乗組員は考えていた。この彗星群が来たのは偶然ではないだろう。誰かがこの事態を予測していたのだ。
宇宙の旅を思いだす。恒星間の何も無い宇宙空間では何も変化が無い。太陽系外の宇宙は何も変化しない。宇宙空間は死んでいる様だった。
しかし、太陽の周りでは色々な変化が起こっている。この彗星群が太陽の光を浴びて尾を引く美しさはどうだろう。太陽の光を浴びなければこの彗星はただの氷と石の塊だ。
宇宙船から無人調査ロケットが彗星群に向けて発射される。彗星群の尾から彗星のサンプルを取りそれを解析するためだ。ロケット内部で解析された彗星のチリの情報は宇宙船に送られてくる。それを見て分析する人々。
心をときめかせる現象は太陽系の私たちの星で起こっている。美しい彗星群。新たな情報。予想できる破滅。うれしさ。かなしさ。太陽系で一番の変化を起こし続けているのは人々の心だ。地球とは一番面白い場所だと思う。だから人類は他にどこへも行く必要はないだろう。我々は地球に生まれ、地球と共に生きる。もう、どこへも行かない。私たちは地球と共に生きる。宇宙船の乗組員は彗星群から目をはなし、それから地球を観た。
月が大きくなっていた。毎晩毎晩少しずつ大きくなっている。その月が夜空に上ると彗星群の光が薄くなる。暗い夜道が明るくなった。月の輪郭の周りが青く輝いている。月が地球に近づいているのだ。
「今日は月が大きいね」
とたかし君が言った。
「ああ、本当だ。こんなに大きなお月様は見たことがないよ」
とたかし君のおじいさんが言った。
月は空に大きく浮かんでいた。その月を見ながら寝ころぶと月の上に自分が落ちていく様な錯覚を感じる。大きなクレーターが見える。大きな隕石が落ちたのだろう。月に落ちた隕石は月に当たって粉々になってしまったのだろうか?
宇宙船から月へと訪れて居た乗組員は地球を見ていた。地球がとても大きく見える。地球に手が届きそうだと思う。月と地球の距離が近づいている。地球は月を愛しているのだと思う。そうであったらもう私は傷つかないだろう。月を離れる宇宙船の窓から「さよなら」と彼女は月に言った。
彗星群は地球を通り過ぎ太陽へと向かった。太陽の明るさで彗星は肉眼ではもう見えない。
「まあ、どうだろうね。俺と月とが近づいた事で少し彗星群の軌道が変わったかね?ダメだったかね?」
数個の彗星は太陽に突進して太陽に体当たりをした。そして溶けて蒸発した。それは地球と月の作り出した重力の少しの変化が起こした結果であった。しかしそれ以外の彗星は太陽をグルリと周り地球の方へと向かっている。
「俺は重力を消す事はできない。地球を目指している彗星群は俺を目指して来るだろう。それは俺がやつらを重力で引きつけているからだ。俺は魅力的なんだよ。たぶん暇つぶしの相手としてな。しかし、俺もただ殴られる様な事は嫌なこった。あいつらが来た方向は覚えている。まあ、これは俺の暇つぶしでもあるかもしれないのか。宇宙的な時間の中での暇つぶしのゲームだ」
彗星は太陽の方向から地球へとやって来る。だから夜空にはもう彗星群は見えなかった。夜空には無数の星が見えた。今まで見えなかった遠い場所にある暗い星も見えた。
たかし君は星空を見上げていた。
「ピッチャー第一球を投げました打ったー。左中間を抜けたー」
と家の中からお父さんが見ているテレビの音がする。
「あっ」
たかし君が声を上げる。
地平線から打ち上げられた様に無数の流れ星が天上を目指して流れだした。夜空を駆け上がっていく光。その光の中に大きな光の塊が何個かあった。その大きな光は消えずに夜空を駆け上って行く。そして天の真上まで行くとそこで白く輝き続けた。それは彗星が地球をかすめて去っていく光景であった。
地球の裏側では日蝕が起こっていた。大きな月の影の周りから花火の様に光が弾け飛んだ。彗星が月に衝突したのだ。その光が暗い空に降り注いだ。その光は月の影から広がり素早く空を無数の流れ星でおおった。彗星は地球をかすめて通り過ぎ、宇宙の果てへと向かい飛んでいった。彗星のチリに覆われた地球に流れ星が降り注ぎ続ける。それは人類史上最高の天体ショウ。
「始まりました」
ツルツルの人が夜空を見ながら言った。
「俺は月に地球の重力を加える事で彗星を月に誘導した。月にブチ当たった彗星は粉々に砕けた。彗星の破片は太陽の熱でいつしか溶けて無くなるだろう。月をかすめて地球のすぐ近くを通過した彗星があった。この彗星を俺は重力を使って彗星が元来た方向にスイングバイでぶん投げた。地球をかすめた彗星があった。そいつは火の玉となり地球の大気を通り抜けて行った。そして月を回避して地球に当たる軌道の彗星があった。これは地球の時間を三日ほど戻して地球の位置を少し移動してやり過ごした。これで災難は去ったと思ったのだがな。わりい、少し寒くなるよ。あなたのマザーネイチャー地球より」
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