第10話 大魔導師の母親

「こうちゃーん。こうちゃーん」

 おばさんが街をさまよっていた。

 ある日、こうちゃんがこのおばさんの家から姿を消した。このおばさんはこうちゃんの母親だ。母一人子一人の家族。こうちゃんとは大魔導士アミーズの昔の名であった。

 こうちゃんが家から消えてからこの母親はこうちゃんの部屋の中を調べた。そして日記を発見した。大魔導士アミーユの日記。こうちゃんは大魔導士アミーユとして全世界を支配するために家を出て行ったらしい。

「息子を知りませんか。たぶん、大魔導士アミーユと名乗っているようなのですが」

 写真を人に見せては母親はそう聞いてまわった。

 大魔導士アミーユなど聞いたことがないと誰もが言った。

 母親は国から国へとこうちゃんを探して旅をして行った。

 ある時、ある国の女王が大魔導士を倒して、その大魔導士が支配する国を全て手中に収めたというテレビニュースが母親の耳に入った。その大魔導士の名前がアミーズだった。

 名前が似ている?その時母親はラーメン屋に居たのだが。

「ああ、こいつか。この大魔導士なら一度ここでラーメン食っていったよ。たしか、アミーユって言ってたけど、違ったか?」

 とラーメン屋の大将が言った。

「ええ?こ、この写真に写っている子ですか?」

 母親はこうちゃんの写っている写真をラーメン屋の大将に見せた。

「ああ、こいつこいつ」

 ラーメン屋の大将が言った。

「ついに見つけた!」

 そして母親は女王の国へと向かったのだった。


「で、あなたがこの男の母親だって言うのね?」

 女王は玉座に座って目の前の母親を見下していた。

「こうちゃんを返してちょうだい」

 母親が女王に向かって言う。

「いいわよ。好きにすれば」

 と女王は言った。

「さあ、こうちゃん、一緒に帰りましょう」

 母親は大魔導士アミーズに言った。

 大魔導士アミーズは女王の斜め前に正座していて、下を見て何も言わない。

「こうちゃん」

 母親は息子ににじり寄る。

「帰れ、お母さんは帰ってくれ」

 大魔導士アミーズが言った。

「何言っているの?ねえ、お母さん、こうちゃんのことずっと探していたんだよ。お母さん心配したんだから。さあ、一緒に家に帰りましょう」

 母親が息子にすがりつく。

「うるさい」

 大魔導士アミーズは母親を突き飛ばした。

「こうちゃん、こうちゃん、なんで?」

「お母さんには関係の無いことだ。帰れよ」

 号泣する母親。下を向いたままの大魔導士アミーズ。女王様はそれを嫌そうな顔をして見ていた。

 ウルガクナシヤが母親に歩み寄る。

「まあまあ、お母さん。アミーズ君は今はこの国でちゃんと働いて暮らしていますし、心配いりませんよ。さあ、あちらで少しお休み下さい。今日はここに泊まっていって下さい。アミーズ君も一緒に。さあ、お母さんと少し向こうで話合ってきなさい」

 ウルガクナシヤが言った。

「あら?たかし君?」

 女王が言った。

 その声は先ほどとは声色が違う。

「お姉さん」

 女王の間の入り口に立って部屋の中を見ているたかし君。

「たかし君、ちょっと待ってて」

 明るく言って女王は立ち上がる。それからアミーズの前に行って、

「アミーズ、ちゃんと話をつけてきなさいよ」

 と低くボソッと言ってアミーズを睨んだ。

「は、はい女王様」

 女王の目を見たアミーズはひれ伏して言った。

「ごめーん、たかし君。ちょっと取り込んでて。じゃ、いこっか」

「う、うん」

 女王はたかし君の肩を抱いて女王の間を出て行った。

 後に残された泣く親子。


 これが後の世に言うところの「三大賢者の出会い」である。

 後に、大魔導士アミーズの母親はこの国に移り住み、大魔導士アミーズに母の愛を生涯捧げた。

 その名は聖母として伝えられる。

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