第9話 一夜城の作り方

 女王の一夜城は一夜にしてその姿を現したと言う。このところの時間の流れは少しおかしい。それについて取材したテレビ番組があった。

 テレビに映し出される一夜城。タイトルがドーンと出る。

「謎の一夜城、その秘密に迫る」

 リポーターの女性はまず一夜城建築に関わったと言う男性にインタビューを行った。

「確かに一夜城は一日にしてできました。はい、しかし、私は三年ほどこの城を作るのに働いた記憶があります。朝起きて、朝飯を食べて八時から作業に取りかかります。昼飯を食べて、また作業です。夕飯の時には毎晩酒を飲んで、みんなで楽しく過ごしました。女王様も時々訪れてくれて、それは楽しい一時でしたよ。しかし、さあ、女王様の城を作るぞと大衆が決起した夜、既に城は完成していました。後はホウキでサササと床をはいたり、庭のゴミ拾いなどをするのみでした。朝になって、城が完成したと住民はお祝いをしました。城のバルコニーから女王様が手を振って挨拶をしました。それはとても感動する挨拶でありました。住民は涙を流しながら女王様に両手を捧げました。不思議です。毎日毎日三年間も城を作っていたのに、城は一日で完成していたのですから」

 次にリポーターはこの男性の妻にインタビューを行った。

「ええ、一夜城は奇跡の城だと思います。たったの一晩でこの城は建ったのですから。うちの旦那が城を作りに行くと言って家を飛び出して行きました。新聞に作業員募集の広告があったんです。日給で一万円でした。この街ではそんなに良い仕事先はありません。アレーゼに出て恐竜を狩って食うか食われるかの生活です。まあ、良い稼ぎになるなと私も思っていました。それにしてもビックリです。朝に旦那が帰って来て、城が完成したと言いました。旦那も何がなんだか解らないと言いました。整地して、石を運んで何日も何日も働いた挙句に一晩で城が建ったと言うのです。私は旦那が何を言っているのか解りませんでした。それで完成したという城を見に行ったのです。驚きました。城はとても一晩で建ったようには見えませんでした」

 城の周りの住人にリポーターはインタビューして回る。誰もが一夜城は一夜にして建った不思議な城だと言うのだ。繰り返し映し出される一夜城の映像。女王様とウルガクナシヤの遠くから撮られた鮮明ではない写真が映し出される。城の住人の関係図などが説明される。そして「究極の秘密が今解き明かされる」とナレーターが言ってからコマーシャルに入った。

 このテレビ番組を見ていたのは国民の十パーセントほどだっただろうか。一夜城は確かに奇跡の城だ。しかし、誰もそんなに問題にしていなかった。不思議な事は不思議だが、不思議な事しか起こらない世界での不思議な事はもう日常の一部なのだ。まあ、しかし、一つの不思議が解明されると言うのならと、まあまあ興味はある。

 コマーシャルが終わり、ナレーターが再び今までの放送の細部を報告してから、「衝撃の真実が今明らかに」と言って、再びコマーシャルが始まった。ある国ではこの瞬間に暴動が起こったらしい。

 コマーシャルがあけ、ある教授S氏が顔にモザイクを付け音声を変えられて登場した。

「一夜城の謎はですね、これはある筋から情報を聞きました。これはタイムトラベルです」

 ここでタイムトラベルに関する説明がナレーターによって行われた。引き続き、教授S氏の話が続く。

「誰かが、城を一日過去に送り続けたわけです。今日、城の整地をした。その城を昨日に送るわけです。すると、今日作業場に行ってみると整地がされている。では石を運んでくる。その城を昨日に送る。すると今日整地された所に石が運ばれている。では石を組む。その城を昨日に送る。すると今日城の土台が完成している。という事を繰り返した結果、一夜にして城が建ったというわけです」

 ある男性作業員が日記をつけていた。その日記には同じ日に書かれた日記が千百九十二回あるという。

 地球と同化した「人類全ての神」からのコメント。

「まあ、地球の時間が少しおかしくなったところで、全宇宙からしたら、特に問題はないんだよね。太陽の光が別の銀河に到達する時間というスケールの話からしたら、何の誤差にもならないことでしょう」

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