第8話 大魔導師アミーズ

 ある国に大魔導士が誕生したとの噂が流れていた。

 ついに、超能力が使えるまでに進化した人間が出てきたと、人々は話し合った。それとも、悪魔がこの世に現れたのかもしれない。

 人々はこの噂でもちきりであった。


 『俺の名はアミーユ。大魔導士である。趣味はネットワークのハッキング。そして俺の必殺技は「プラネットハック」だ。この世の全ては俺の手の内にある。俺はある日発見したのだ。地球が神の意志におおわれている事を。それは電子回路を乗っ取る様に書き換える事ができた。俺には、それが出来るだけの力があったのだ。どういう事かというと、俺は空気があれば、火を出したり氷を出したりする事が出来るのだ。自然のルールを歪める事が出来る。俺が魔法を唱えれば、水が燃えだす。巨大な岩を空中に浮かせる事も簡単に出来る。ここに、後世の我が一族の為に「プラネットハック」のやり方を示し残しておく。「こうちゃーん、お風呂入っちゃってー」「だめー。今忙しいー」(こうちゃんは日記を録画しつづける)「プラネットハック」とは、ある動作で魔法が発動する様に、俺がプログラミングしたものだ。この動作が、自然のルールを書き換えるスイッチになる。まず、仁王立ちになる。次にへその前で腕を交差する。そして発動したい魔法に合わせて指の形を変える。この指の形は後で述べるが、そして最後に膝を曲げて腰を落とす。背筋は真っ直ぐそのまま。そして「プラネットハック」と叫べばいい。俺はこの力を使い、全世界を支配するだろう。俺のこの力があれば、それはたやすい事なのだ。ハハハ、フハハハハ』



 また大魔導士アミーズのニュースであった。また国が一つ彼の支配下に入ったらしい。アミーズは破竹の勢いで、日本列島にある国を彼の支配下にしていった。

 このニュースをテレビで見ていた、たかし君はお母さんに、

「ねえ、僕達の国は大丈夫かな?」と聞いた。

 たかし君のいる国は、町田町長が王を名乗って治めていた。とても平和な国であった。

 実は、それは第一の壁の内側だけで、第一の壁の外はたかし君の家の隣のお姉さんが治めていた。

 お姉さんの女王としての才能は凄まじかった。

 いつしか、壁の外にも街が出来、その外側にまた壁が出来ていた。

 その外にも街が出来て、さらに壁が出来る。

 その様にして第六壁まで国に壁ができ広がっていた。

「まあ、そうねえ。これ以上世界が悪くなる事はないんじゃない」

 と、たかし君のお母さんは言った。



 真黒のマントに身を包んで、大魔導士アミーズは第六壁の門の前に立った。

 彼は何時でも、一人で国を落としにやって来る。

 国を落とすといっても「お前ら俺の言うことは絶対に聞けよ」と言う程のもので、王様もそのままに、税率も変わらず、国は彼が支配する前と全然変わりがない。

 その様な世界制服。それは、彼が能力を見せつけるのが、目的であった。自己満足の為に。


「俺の名は大魔導士アミーユ。この国の女王に会いにきた」

 大魔導士アミーズは門の係の者に言った。

「えーと、アミーユ、アミーユ」

 ブラックリストを調べる門番。

「よーし、通れ」

 大魔導士アミーズは第六壁の門を通った。

 もちろんブラックリストの一番上には大魔導士アミーズと書かれている。

 しかし彼の名はアミーユであった。

 どこの国でも、彼は簡単に国の中枢に入り込んで来た。その謎の原因がこれなのだ。

 彼について最初に報道したテレビニュースのアナウンサーがアミーズと言い間違えたのが始まりだ。それ以来、誰もが彼をアミーズと呼んだ。

「おいおい、兄ちゃん、ここからは通行料が要るんだぜ。さあ、払ってもらおうか」

 とチンピラが大魔導士アミーズの前にやってきた。

 おや?この国は治安が悪いな?と大魔導士アミーズは思いながら、カクッと腰を落とした。黒いマントの中ではプラネットハックのポーズをとっている。彼の周りに火の玉がポンポンと現れてチンピラ達に襲いかかった。

「なんだなんだ?喧嘩か?よそ者がしゃらくせえ」

 ゾロゾロとチンピラが集まりだした。


 ドゴーン、ドゴーン。遠くから爆発音が聞こえてくる。

「何?騒がしいわね?」

「はい、ちょっと見てきます」

 女王の側を離れてウルガクナシヤは城の高台から外を眺めた。第六壁の街から黒い煙がモクモクと立ち上がっている。

「喧嘩かな?」


 ハアハアハア。大魔導士アミーズは疲れきっていた。小さなスクワット運動といえど、数をこなすとかなり疲れる。倒しても倒しても恐れもなくチンピラ達が襲って来るのだ。彼のふとももはパンパンだ。

「ああ、くそ。面倒くさい。プラネットハック」

 彼は空を飛んだ。

「きたねえぞこら、下りてこい」

 と声が遠ざかっていく。

 第五壁を越えた所で地上からの対空砲火があった。第五壁の街は近代兵器を大量に持ち込んだ兵隊がたくさん住んでいる。

「うわ、何だこいつら?これでも喰らえ」

 大魔導士アミーズは急降下してドーンと大地に下り立った。その姿はプラネットハックをしている。

「ハルマゲドーン」

 と大魔導士アミーズは叫んだ。

 彼の奥義だ。彼を中心にして地面が外側に向かって波打ち人や建物を弾きとばしていった。それから高速で移動して第四壁の門の前に彼は立った。

「なにかあった?凄い騒ぎじゃない」

 門番は大魔導士アミーズに聞いた。

「いや、なんか、喧嘩みたいですよ」

「ふーん、しかたがないな」

 大魔導士アミーズは門番に一礼して第四壁の街へと入って行った。

 それから大魔導士アミーズが女王の城の前に立つのに五日かかった。彼は足が筋肉痛になったので宿に泊まり休んでいた。彼はお金を十分持っていた。彼の支配した国から貰ってきたのだ。支配した国は彼のスポンサーといえよう。

 彼は酒場でこの国の情報を収集した。

 一番奥の壁の内側には誰も行けないらしい。そこは聖域と呼ばれている。実質この国を治めているのは第二壁の街の城に居る女王だ。

 その女王の居る城には伝説があった。女王を慕う男達によってたったの一晩でその城は建ったのだという。

「これが、女王の一夜城か」

 大魔導士アミーズは城を見上げた。とても一晩で建てられたようには見えない。ゴクリと大魔導士アミーズは喉を鳴らした。

 城の入り口では入場料を払った。宇宙人の宇宙船を見学するには別料金が要るらしい。大魔導士アミーズは女王に会う前にこの宇宙船も見ておこうと思った。

 女王の玉座の間の前には人集りができていた。女王が鞭をふるっている。頭に袋を被された裸の男達が鞭で打たれていた。

「これが、巡礼か」

 大魔導士アミーズは震え上がる。宿屋の主人が巡礼のあとを見せてくれた。彼の背中には複数の傷があった。

 巡礼の儀式が終わり、女王は玉座に座った。その前に大魔導士アミーズが進み出ていく。

「我が名は大魔導士アミーユ」

 女王とウルガクナシヤは大魔導士アミーズを見ている。

 女王の目を見た大魔導士アミーズの足がガクガクとふるえだす。

「勝てる、勝てるはずだ」

 と大魔導士アミーズは自分に鞭を打った。

「プラネットハック」

 大魔導士アミーズの腰がカクッと落ちる。

 女王とウルガクナシヤはジッと彼を見ている。

「あれ?」

 大魔導士アミーズはカクカクとスクワットを始めた。

「あれ?でないぞ?なんでだ?」

 うろたえる大魔導士アミーズ。

「おい。お前は何をしている?」

 女王が大魔導士アミーズに言った。

「我が名は大魔導士アミーユ」

「それは聞いた。お前は何をしているのかと聞いている」

 女王に言われて呆然とするしかできないアミーズ。どうしてプラネットハックが発動しないのか?

 女王のはめている指輪「知恵への献上」がアミーズの目に入った。彼は理解した。「知恵への献上」がもの凄い量の情報を放出している。

 ツルツルした人が女王の側に来てヒソヒソと女王に何か告げた。

「お前、私には勝てないぞ」

 と女王は言った。

 その時、すでに大魔導士アミーズは地に膝をつき、頭をつき、両手を組んで女王を祈りあげていた。これが後に三大賢者の一人と呼ばれる大魔導士アミーズの歴史的登場シーンだ。聖域の王、第二壁の女王、大魔導士アミーズは三大賢者と歌われるあの大魔導士アミーズである。

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