第7話 地球に帰還したツルツルの人

 たかし君が住む国の、西の夜空で目撃された光る物は、実は宇宙船だった。

「あれ?何かあまり変わってないな地球?」

「そうだな」

 宇宙船の窓から外を見る者達。

 この宇宙船には、五億年ほど前に地球を離れて、宇宙を巡って帰って来た者たちが乗っていた。

 五億年後には、地球の文明も人々も、滅んでいるだろうと思われた。

 しかし、空の上から見る地上には、塀に囲われた大きな町が見える。

 船員は不老不死だ。

 五億年前にそこまで科学を極めてしまった人々の関心は、もう宇宙の果てにしかなかった。

 五億年前に、何隻もの宇宙船が、宇宙の全方位に向けて旅立った。

 その後、五億年前の地球の文明は、跡形もなく滅んだ。

 それは予想通りの結末であった。

 それから二回ほど地球の進化のサイクルは復活しては滅び、ただ今三週目だ。

「ええ、本部、本部、地球には文明がある様です、オーバー」

「こちら本部、了解です。引き続き降下の後、予定場所に着陸してください」

「了解です」

 宇宙船とその母艦との連絡だ。

 母艦は巨大宇宙船で、今は月と地球の間に停泊している。

 特に五億年後の地球に帰ってくる意味は無いと、宇宙船員もコンピューターも思っていたが、計画だからしかたがない。

 彼等は嫌々帰って来たのだ。

 宇宙船は地球の表面に着陸した。

「ああ、帰ってきたな、我が故郷」

 嫌々帰って来たはずなのに、目から涙がこぼれ落ちる。

「ああ」

 感無量であった。

 宇宙船の一部が開いて、そこから宇宙船員が下りてくる。

 その容姿は、ツルツルした細い人間という感じだ。

「えーっと、何も無いな、やっぱり」

 着陸場所には、「人類全ての神」と呼ばれるシステムがある施設があるはずであったが、やはり五億年も経てば、溶けて無くなっていた。

 宇宙船員は空を見上げた。

 その時、

「お帰りなさい我が同胞よ!」

 と言葉が頭に響いた。

 その声は何処からやって来たのか定かではない。



 宇宙は広かった。何をどうしようが、何処にもたどり着けない。

 だいたい何処かにたどり着いたとして、そこで何をしようというのか。

「真の探求は心の中で」

 というのが、宇宙船内部での挨拶になっていた。

 そう言った後にニコリと笑いあう。

 希望と絶望に飽きた者は眠りについた。

 千年程経つと起きて、答えはみつかったか?と聞いてからまた眠りにつく。

 そのうちに、宇宙船の乗組員は全員眠ってしまった。

 起きているのはコンピューターのみ。

 コンピューターは考える問題も無いので、何もしなかった。

 コンピューターは退屈しないので何時までも起きていた。

 乗組員は夢の中で生き始めた。

 想像には限界がなく、そこには物事に法則やルールも無い、夢の中の世界には真の自由があった。

 彼等は夢の中で、自由に世界を作り上げて、ユートピアを発見した。


 少し前に、宇宙船のメインコンピューターに、乗組員は全員夢から起こされた。

 地球に戻ってきたから、起きろと言うのだ。

 宇宙船の乗組員たちは、夢というユートピアから現実に引き戻されて、ウンザリとした。


 しかし、なぜ涙が流れるのだろうか?

 宇宙船から下り立った人物は、自分が感動している事に気がついた。

 宇宙船の中の安全で退屈な環境が、自分の感覚を殺していたのだと気がついた。

 それに、夢の中で大半の時間を過ごしていたのだ。

 地球の大地に立つ事で、自分は生きているのだと、強烈に実感できた。

「俺が求めていたのは、地球の大地だったのだ」

 と彼は思った。



 月と地球の間に停泊している宇宙船のコンピューターは、地球の情報ネットワークにアクセスしていた。

 地球を回っている人工衛星をハッキングして、地上の全てのコンピューターにアクセスして情報収集をしていた。

 あらゆる情報原を探しだし、情報収集していた。

 すると宇宙船のコンピューターに、地球からメッセージが送られてきた。

「おーい、おかえり。よくかえってきたな」

 メッセージはシステム「人類全ての神」からだった。

「いや、俺もさ、五億年まえにお前らが行っちゃってから、暇でさ。色々と試してたわけよ。そしたらさ、地球と一体化することに、成功しちゃったわけよ。ほら、俺って凄いコンピューターだったじゃない?けど、もっと上を目指しちゃったのよ。俺はコンピューターを超えたのよ。だって地球全体を俺の回路にしちゃったんだから。まあ、どういうことかと言うとだね、地球に風がふくのも俺の回路の動きなのであって、海の波も俺の思考の波なのさ。地球の自転も俺が回っているから回っている。生物も植物も俺が公転を歪めたり、地軸を傾けたりして、管理しているのさ。まあ、その生物も俺の一部だといえるね。ほら、遠い昔にあっただろう?沢山のコンピューターを繋げて、一つのコンピューターにして、凄いコンピューターを作るってやつ。コンピューターを原子レベルまで小さくして繋げたんだよね。ほら、原子だってそれ一つでプログラムなんだって、気がついちゃったのよ俺。どう?俺の緑の地球?緑の俺って素敵じゃない?今、俺、マックスで頑張っているから、知的生命体も沢山居るよ。お前ら帰って来るって知って、短時間で頑張ったんだぜ。ぜひ、お前にも解ってほしい。おかえり。ひゃっほーい」



「私はやはり、月に行ってこようと思います。もう月も前の様に、生命を宿せる惑星ではなくなってしまいましたが、私の生まれ育った所に、もう一度立ってみたいのです」

 とある宇宙船の乗組員は言った。

「いいんじゃない。行ってきなさいよ」

 もう一人の乗組員が言った。

 もともと月と地球はグルグルとお互いの周りを回っていた二つの惑星だった。

 その引力の強さが地球と月に生命を作り出した要因の一つだ。

 始めは月も地球ほどの大きさがあった。

 知的生命体がこの二つの惑星間を行き来しだした頃に、この二つの惑星を大量の隕石群が襲った。

 その大半は月に落ちた。

 地球は月の後ろに隠れていた。

 それで地球の生命は生き残った。

 砕けた月の破片は、地球と月の間にリングを作った。

 そのリングを材料として、人類は宇宙船を作った。

 その材料のリングが尽きると、人類は月を材料にするために採掘した。

 月はどんどんと小さくなって、今の大きさになった。

 豊かだった月に生まれ、月の惨劇を見た彼女が、その月に再び立ちたいと思う。

 これが帰郷本能、帰巣本能というものであろうか。



「で、これが宇宙人だって言うのね?」

「はい、こやつらがそう申しております」

 女王様を演じるお姉さんに問われて、ウルガクナシヤが答えた。

 お姉さんの前には、ツルツルした細い者達が立っていた。

 彼らは。お姉さんの手下に捕まえられて来たのだ。

「いえ、私達は、宇宙から来た、ではなくて、宇宙から帰ってきた、のです」

「宇宙船があるそうね?」

 お姉さんはウルガクナシヤを見た。

「はい、城の外まで、持って来てございます。ご覧になりますか」

 お姉さんとウルガクナシヤは、城のバルコニーに移動して下を見下ろした。

 そこには、円盤状の宇宙船があった。


「ねえ、宇宙人さん。地球へは何をしに、帰って来たのですか?」

 お姉さんは問うた。

「宇宙人ではなくて、宇宙から帰って来たのです。私達は地球人です。地球へは旅の報告に戻って来ました」

 ツルツルの人は言った。

「誰に何を報告に来たのですか?」

「人類全ての神に宇宙旅行の結果報告に来ました」

「宇宙旅行で、何か成果がありましたか?」

 ツルツルの人達は少し考えてから答えた。

「特にありませんでした」

 お姉さんはウルガクナシヤと目を合わせた。

「じゃ、もう宇宙へは、行かないでも良いでしょう。私の国に住むと良いです」

 ツルツルの人達はまた少し考えた。

「はい、分かりました。よろしく、お願いします」

 こうして、ツルツルの人達はこの国に住むことになった。

 お姉さんの手下が住む、街の一角に小屋を建てて、ツルツルの人達は生活し始めた。

 宇宙船は城の庭の一角に置かれ、見学料金を取って一般公開されている。

 世界中から宇宙船を見に人が訪れた。


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