第6話 恐竜城下町
海に泳ぐ大きな爬虫類が発見された。その爬虫類の長い首がにょきにょきと海から突き出していた。
それと同時期に後ろ足二足で走るトカゲが現れた。
移動するときはノソノソと四足で歩いているが、逃げる時や、獲物を取る時に、バイクがウイリーをするようになって二足で走る。
人々は町を壁で囲んだ。大都市も壁で囲まれた。
壁の中には人々のあまり前と変わらない生活があった。
しかし、壁の外の世界はすでに異世界となっていた。壁の外の世界には大きな虫と巨大爬虫類が生息していた。
職業狩人などという人は五万といた。
巨大な爬虫類を狩ってその肉を売りさばく。
爬虫類の皮や骨なども生活用品に使われた。
猿文明を交えた人間の文明は、さらに発展した。科学と医学はとても発展した。
大きな爬虫類に対抗するために、ロボットが作られた。
人が乗る三メートルほどのパワースーツも開発されて、免許があれば操縦できる。
色々な変化に合わせて、社会のシステムも変わった。
町を取り囲む壁は高さを増していった。
その壁に囲まれた区域は国となった。
既に日本国という考え方はできないほどに、壁の外の世界は町と町を切り離していた。物流が鈍くなったのが最大の原因だろう。
今まで市役所だった機関は国として政治を行った。
国には王が居る国、大統領が居る国、皇帝がいる国など様々な様式の国が出現した。
国と国の距離が短い所には地下道が建設された。
国から国へと、地下道を通るのがもっとも安全な旅路だ。
ヘリコプターなどもあったが、やはりオイルの輸入が鈍くなったために、あまり使われなかった。
エネルギーは電気が主だった。
発明でもっとも功績があったのは浮く石だろう。これはある物質に電気を通すと浮くという石だ。
二足で歩く恐竜が登場するまでそう時間はかからなかった。
恐竜は素早く動いた。
それでも人類は壁に守られて居るので平和はコントロールされていた。
どうも恐竜達の様子が、変だと思われる時期がやってきた。
ある二本足で歩く恐竜の種族が、高い知能を持ち始めた様なのだ。
それはその恐竜たちの狩りの様子や、集団で生活する行動に観てとれた。
恐竜達は家族を作り、卵を産まずに体内で子供が出来る様に進化していた。
その恐竜の種族の進化のスピードは他の種族を圧倒した。
そして人類は、ついにこの日が来たかと思った。
「たかし君、メールがきたよ」
隣の家のお姉さんが、たかし君の家にきた。
メールというのは、また未来からのお願いメールだ。
たかし君は、毎回お姉さんに協力してもらい、メールの依頼品を手に入れて、神社の石碑の下に埋めていた。
「ねえ、たかし君、これから壁の上に行ってみない?恐竜人が来ているらしいよ」
お姉さんが言った。
恐竜人というのは最近、恐竜から進化した人種だ。
どうやら知能が高いらしいのだが、まだまだ原始人以下の生活をしている。
たかし君は、お姉さんのエアバイクの後ろに乗せて貰って、壁に向かった。
途中から、公園で遊んでいた友達が、バイクの後ろを走って付いて来た。
たかし君の住む国は、猿の最大都市国のすぐ隣だったので、道には猿も沢山歩いている。
猿は未だに人間から「お猿さん」と呼ばれていた。猿は人間を「人間さん」と呼ぶ。
壁に着くと、たかし君達は、階段を登って、壁の上に出た。
壁の高さは三十メートルほどだ。
そこには沢山の人が居た。
壁の外側を見ると、手を上げて物をねだっている恐竜人が居た。
「むし~。餌の虫あるよ~」
と売り子が虫を売りに来た。
お姉さんは、数袋の虫を買った。
これは虫を干した物で、たかし君達もおやつによく食べた。
その袋を、塀の外側にざるを先端に取り付けた紐で下ろす。
すると、恐竜人は虫の入った袋をざるから取り出して、代わりに光る石を入れてくれる。
その引き上げて得た石を、露天商が、ネックレスや指輪に加工してくれた。
とまあ、ある一部の恐竜人は、人間と猿に飼いならされていた。
「おや?この石はダイヤモンドじゃないか。穴が開けられないから、ネックレスには出来ないな。というか、でかい!ぜひ買い取らせてくれ!」
と露天商はお姉さんに言ったが、
「へえ、そうなの、じゃ、指輪にしてちょうだい。これがダイヤモンドなら、あなたになんて、買えるわけない大きさだわ」
とお姉さんは言った。
露天商は渋々と、カットもされていない大きなダイヤモンドを指輪に加工した。
このダイヤモンドの指輪は指二本ほどの幅がある。
この指輪はその後、「知恵への献上」と呼ばれる様になる。
こんな事があってから、恐竜人を飼いならすという遊びが流行りだした。
恐竜人に装備や報酬を与えて、外の世界で宝探しをさせるのだ。
この遊びが流行り出すと同時に、恐竜人にも交渉人の様な者が出てきた。
複数の恐竜人を統率して隊を作り、組織化して人間の依頼を受けたりした。
それから塀の外側に、小屋が建ち始めた。
そこに、恐竜人が住みだした。
恐竜城下町と言われるものだ。
その町の中心に、ダイヤの指輪をはめた、たかし君の家の隣のお姉さんの銅像が建てられていた。
たかし君の家の隣のお姉さんは、恐竜人の女神になっていた。
女神を奉る宗教らしき物が始まった。
そして恐竜人のリーダーが王を名乗り、複雑な恐竜人社会が形勢され出した。
その頃になって、恐竜人は使者を塀の内側に送り込んで来た。
恐竜人は、人間と猿と恐竜人の、対等な関係を望んだのだ。
恐竜城下町の、恐竜人の住居地域の外にも壁が作られた。
この地域も国の一部となった。
内側の壁の地域には主に人間と猿が住み、外側の壁の地域には主に恐竜人が住んだ。
人間でも商人や狩人、傭兵などは外側の壁の世界にも住んでいた。
壁の外は危険な世界だ。しかし、壁の外から得られる物資は、生活に必要不可欠だった。
「たかし君、ちょっと城下町に行くのだけど、一緒に行こう」
と隣の家のお姉さんが、たかし君に言った。
たかし君はお姉さんのエアバイクの後ろに乗って、内側の壁を抜けて恐竜城下町に出た。
すると、道を歩いていた人々は、サササと、道の両側に退いて頭を下げた。
お姉さんは、そこをエアバイクで進んだ。
「貴族さまだ」
と子供の声がした。
いつ頃からか、内側の壁の地域に住んでいる人々は、貴族と呼ばれる様になっていた。
壁の内側の地域もだいぶ変わった。
それでも、大きな虫が出現する前の、平和な世界を維持しようと努力していた。
そこに住む人々は、滅多に恐竜城下町には出てこない。
恐竜城下町では活発に物事が行われていた。
恐竜人と人間が喧嘩したり、猿と恐竜人が喧嘩したり、人間と猿が喧嘩したりした。力の強い者が正義といわんばかりだ。
そんな場所だが、お姉さんは週一回ほど、たかし君を連れてここに来た。
恐竜城下町に出てくるのは、お姉さんとたかし君くらいなので、恐竜城下町の者達は、お姉さんとたかし君に親しみを感じていた。
「女王様、それに王様も。いらっしゃいませ。ささ、こちらにどうぞ」
と大きな酒屋の主人は、腰を低くして言った。
お姉さんは「女王様」とよく呼ばれていた。
それに付き添っているたかし君は「王様」と言われた。
お姉さんは今も、恐竜人には女神と讃えられていて、その姿を一目見て、頭を地面に擦り付けて、お姉さんを拝む恐竜人も居た。
恐竜城下町では、人々の階級というものが意識されていた。貴族、商人、武人、芸人。人間、猿、恐竜人。などなど。
しかし、農民は、恐竜城下町には居なかった。
壁の内側の地域には畑があったが、恐竜城下町では主に狩りによる生活なのだ。
壁の外の世界に、命がけで狩りに行くのだ。
お姉さんの行動は趣味なのだと、たかし君は知っていた。
壁の内側の人達は、お姉さんが女王様と呼ばれている事を、微塵も知らない。
お姉さんは、女王様ごっこをしているのだ。
壁の内側の人々は壁の外側の事なんて何も気にしていない。
壁の内側だけで平和に暮らせるのだから、外の世界なんて気にしないのだ。
「ウルガクナシヤ。どうだ、最近のアレーゼの様子は」
「はい。南の方に、二足歩行の大型恐竜が入って来ているようです」
などと、お姉さんは恐竜人と会話する。
ウルガクナシヤは恐竜人で、お姉さんが恐竜城下町に出てくると、付き添いをしている者だ。
アレーゼというのは、お姉さんが命名した、壁外地域の名だと思われる。
お姉さんはこの様に、世界を改変して遊んでいるのだ。
お姉さんの会話を聞いていると、たかし君は少し恥ずかしくなる。
「そういえば、アレーゼの西の夜空に、光る物が下りてくるのを、見たと言う者がいます」
ウルガクナシヤが言うと、
「ほほう?オリオンを派遣してすぐに調べさせろ」
などと、お姉さんは命令する。
そんな勝手に命令しちゃって良いのかしらんと、たかし君は心配になる。
今のところ、特に問題は無いのだが。
お姉さんは、どれだけ偉い人なのだろうか?と、たかし君は不思議に思っている。
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